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Secret Sanctuary  作者: 空国慄
浅井さんと小野さんの朝
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浅井さんと小野さんの朝(2)

 数時間後、職場で再び顔を合わせた小野さんは至って平常運転、いつも通りの鉄仮面だった。仕事納めに向けて忙しさを増す職場において、小野さんの鬼上司っぷりはむしろキレを増しているようにすら思える。

 柳眉を逆立ててアレやコレやと怒声を飛ばす姿にはもう、綺麗な裸身を丸めてわんわん泣いていた堕天使の面影は一ミリもない。本当に同一人物なのかな、アレ。実は双子の妹でしたとかってオチだったりして。まぁあり得ないけど。

 あのあと泣いてる小野さんにひたすら平謝りしつつ、ほうほうのていで部屋を飛び出してみたら、なんとそこは私の家から一駅の超近所。表札には“小野”の二文字。なんで今まで知らなかったんだろうという疑問よりも、今後このへんに近付き辛ぇー! なんて危惧のほうが先に浮かんだ。お気に入りの洋物雑貨屋さんとかあったんだけどなぁ。

 それはさておき。

 仕事場の小野さんを見て、改めて気付かされることがある。小野さんの眼鏡、あれは分類的にはブローっていうのかな? レンズの外角が上を向いてて、ちょっとキツめな印象を受けちゃうやつ。あれのせいで怖いイメージが定着しちゃってる気がする。……というのも、小野さんの裸眼が意外につぶらで可愛いってことを今朝知ったからこそ思うんだけど。あれを見るまで、なんとなくもっと切れ長な目をしてるものだと思ってた。

「浅井さん。こんな時によくそう、気の抜けた顔をしてられますね。給料泥棒と揶揄されたくなければ、顔でも洗って出直してくることです」

 ぼけーっと観察してた私に気付いて、小野さんが相変わらずキッツいことを言ってくる。いや、なんかいつもより三割増しくらいでキツい気もするけど。

「いつまで黙ってるんですか、この唐変木。私の言うことが聴こえませんでしたか? 周りが見えない上に、耳まで駄目になったんですか? 案山子を雇った覚えはありません。田舎の畑に帰るか、さっさと仕事に手をつけるか選びなさい!」

 ……やっぱりいつもよりキツいっすよコレ。ここまで具体的に罵り倒してくることって普段、そうそう無い気がする。つーか小野さんが雇ってるわけじゃないでしょ。もしかして私怨入ってない? それって社会人としてどうなんすか。いや現状、仕事サボってる私が言えたことじゃないけどね。

 あんまりボロカスに言われるものだから、つい、私も魔が差してしまう。

「じゃあその、田舎の畑はお尻のまっ赤なお猿さんが荒らしちゃうんすか?」

 小野さんのことばっかり考えてパンクしかけてる私の頭から、変なワードだけが漏れ出した。我ながら何言ってんだコイツ感全開です。まともな思考回路を誰かください。

「っ…………!」

 ところがこれがクリティカルヒットしたらしく、小野さんは見る見るうちに顔を赤くして黙りこくってしまった。あ、やっぱり今朝のは小野さん本人だったんすね。

「……あー、あは、なんか私、まだちょっと昨日のお酒残ってるみたいっす! すいません! 顔洗ってきまーす!」

 不穏な空気が熱帯低気圧さながらに渦巻きだしてるのを感じ取り、私はあわててフロアを飛び出す。やばいってアレは。放っときゃ鉈でも取り出してくるんじゃないの。怖っ。

 ひとまず給湯室に逃げ込み、適当な湯のみにお茶を注ぐ。あつーいお茶で目を覚まそう。

「どしたん? 小野さんもアンタもなんか変だよ」

「ひぃっ! あ、なんだ……びっくりすんじゃん」

 追って給湯室に入ってきたのは悪友・さーちゃん。職場で一番プライベートの絡みが多い友達。こいつもモテない。

 さーちゃんはわかりやすく二日酔いですって感じの有様で、漫画さながら額に縦線が三本入ってそうな暗い顔をひっさげてる。とはいえ私を心配して追ってきてくれたのは流石です。って言っても私をからかうネタの臭いを嗅ぎ付けてきただけでしょ、お前。

「さーちゃんさ、昨夜の私がどんな感じだったか覚えてる?」

「覚えてないん? だろうなー、あのモード入ったアンタが記憶保ってるわけないもんなー」

「……あのモード、入ってた?」

「うん。おまけに小野さんまでスイッチ入っちゃって、アンタと二人で馬鹿みたいに盛り上がってたよ」

「私が! 小野さんと! 盛り上がってた!?」

「男なんてみんなウ×コだー、とか。信じられるのは酒が飲める奴だけー、とか。挙句の果てにリタイヤした私らを置いて次の店に行ってたし。私のほうが信じられないってくらいだわ」

「マジで……? はぁ~~~~…………スイッチ入ると何するかわかんねー!! 私!!」

「で、結局何があってさっきみたいになったわけよ」

「う…………そこには触れないで」

「よっぽどだねー、アンタがそこまで青ざめるんだから」

 そりゃ青ざめもしますよ。あの鬼上司が全裸で私の隣に寝てたりしようものなら。

「ま、その問題はちゃっちゃと片す方がいいね。年明けてからだと尚気まずい。アタシらまでそういう空気に巻き込まないでよ、マジ」

「わかってる! あ~~……どうしよ、どうやって崩しましょう難攻不落の小野名城!!」

「水門開いて大洪水にしちゃえば?」

「ハハハーマジウケルー」

 笑えないわ! 昨夜まさに小野さんの水門グチャグチャにしちゃったところだわ! 水攻めというか蝋責めだったみたいだけど!!

「とにかくがんばりなよー」

 お茶を飲みきったさーちゃんは、無愛想に手を振りながらさっさと給湯室を出ていく。まぁ、なんだかんだでやっぱり良い友達だよ、さーちゃんは。無意識に核心突いてきておっそろしいけど、踏み込まれたくない所はちゃんと自省してくれる。

 でも不思議とモテないんだよなぁ、さーちゃん。やはり根っこは駄目人間なのかも。

「言い忘れてたけど、その湯呑み小野さんの私物だよー」

「どぅえええええええええええっ!!!?」



   To be continued...

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