浅井さんと小野さんの朝(1)
どうしてこうなった。
昨夜、同僚から独り身の女子だけを募って、忘年会とクリスマス会を兼ねた女子会を催した。メンバーは彼氏いない歴が3年目を更新した私、悪友のさーちゃん、仕切りたがりのゆーさま、大人しくてちょい地味な松浦さん、お堅い・冷たい・手厳しいの三拍子揃った上司の小野さん。OKここまでは覚える。
普段このテの集まりに絶対参加しない小野さんが珍しく自分から名乗り出て、半ばヤケ気味に飲みまくってた……これもよく記憶に残ってる。小野さん何か辛いことでもあったのかな。
それに負けじと私も滅茶苦茶に飲みまくって…………その後からだ。記憶がないのは。
そして現在、起床した私はなぜか見知らぬお部屋のベッドにいて、隣ではなぜか小野さんが寝ている。布団をちょっと捲ると、小野さんのクソ重そうな乳房が……いや、なんで裸なの。
「んん……浅井さん……」
小野さんがむにゃむにゃというベタな擬音といっしょに寝言を放つ。ちなみに浅井とは私のことだ。
「浅井さぁん……すごぉ~い」
……いや、私のことであって欲しくないなぁ。なにが凄いんすか。まさか私、男日照りが高じてとうとう勢いで女と寝ちゃった……んすか……?
「んふふ……」
寝返りを打つ小野さん。仕事場ではキビキビと指示を飛ばして、要領の悪い部下をバンバン説教してる、血が通ってるのかすら怪しい超真面目人間・小野さん。そんな彼女が生まれたままの姿で私の隣に寝ているなんて、この光景はマジに現実なのでしょうか。
普段は一糸の乱れもなく着こなしたフォーマルスーツに秘められてる柔肌が、余すところなく晒されて……あ、結構綺麗な身体してる。
白くてすべすべした健康的なお肌が綺麗。朝日を照り返す肩のなんともいえず絶妙な肉付きとか骨の浮き具合とか、すっごく艶めかしい。お腹の肉付きも過不足なくて、綺麗な流線を描いてる。思わず指でなぞるとぴくっと反応して、なんだか可愛い。二の腕なんかは意外にぷにぷにしてて、これまた可愛い。小野さんって実は着やせするタイプだったんだ。あのスーツの下にこんなワガママボディが隠れてたなんて。ちなみにワガママボディって死語でしょうか。
そして何よりこの油断しきった寝顔。天使みたいにあどけない寝顔! めっちゃ安心しきってるじゃん! どんだけ私に心許しちゃってるの! あーっ!! なんだかちょっと今、本気でキュンときちゃったかも私! 相手はあの鬼上司なのにー!!
「う、う~ん……」
私の焦りっぷりを肌で感じてるのか、小野さんが若干寝苦しそうにまた寝返りを打つ。背中も背中でまたお綺麗な…………ってあれ?
ふと、小野さんの白い美肌に赤い腫れのようなものがあることに気づく。なんだかお尻に筋状の腫れが幾つか……まさか。
頭に浮かんだ良からぬ予感に従ってベッドの周りを見渡すと、ありました。ムチ。ご丁寧にその隣には脱ぎ捨てられたボンデージまで完備。あ、あー、どういうことなの。これは一体。
女の子同士で寝ただけに留まらず、あまつさえ異性とすら及んだ事のないマニアックな世界にイントゥザストームしてしまったんすか、私は。
「しあわせ……れふぅ……」
だめだぁ……! 小野さんの無邪気な寝言が、すっごくアダルティに聞こえてしまうぅ……! 今となっては天使だなんて形容できないよぅ……! これはもう神に仇なす堕天使の顔だよぉ……! 間違いなく楽園から追放されるよぉ……!
よく見ると手首足首にも拘束された跡っぽいのが残ってるし! 鎖骨のまわりにちょっとだけ拭き残した蝋がくっ付いてるし! 耳を澄ませばまだ布団の中のどこかで震え続けてるアイツの音も聞こえるし! ベッドの周りには目隠し猿轡ほか選り取り見取りのサイドメニューが散乱してるし! 情状酌量の余地ゼロっすわこれー!! 完全に言い逃れできませーん!!
欲求不満にしても飛ばしすぎでしょ私! 性欲の猿か!! 性欲の猿の惑星、創世記すっ飛ばして新世紀まで切り開いてますけど!!
……いよいよ自分が怖くなってきました、私。昨夜飲みすぎたにしても、ここまで脳みそ大火編な人間だとは思ってませんでした。明日からもうお酒が怖くて飲めません。酒乱の伝説、最期編に突入しました。
そんなこんなで私が一人取り乱しているうちに、小野さんもいよいよ目が覚めてきたようす。
小野さんは目を擦りながら、朝陽に眩いたおやかな身体を持ち上げる。やがて彼女の視線は私のお腹から胸、首を辿り、ついに私の視線と交わる。
「ど、ども…………いい朝っすね」
「………………ぐす」
「え」
「うっ…………ひっく……びえぇぇぇぇぇぇん!!!」
「えぇぇーーーっ!!?」
な、泣かれたーー!!!
To be continued...