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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

過剰サービス

作者: 長月

「イツキってさ、おっぱい大きいよねー」


大学の近くの居酒屋にて。久しぶりにサークルの女子だけで集まって飲んでいたら、隣に座っていた酔っ払いが唐突に言った。

ちなみにこの酔っ払い。私の高校時代からの親友で、実は片思いの相手だったりする。


「んー?そりゃ、麻美よりは大きいけど、普通サイズだよ。」


「何それ。つまり、私が貧乳って言ってる?」


「おー、それがわかる程度にはまだ酔っ払ってなかったかー」


笑いながら頭をガシガシと撫でてやると、膨れっ面で手をベシっと払われた。

あらま、拗ねたか?まあ、こんなのいつもの事だからすぐに忘れてくれるし、別にいいけど。


「うぅー、でもやっぱり羨ましいなぁ。私もせめてBカップにはなりたい…」


「あはは、じゃあ私の胸あげよっか?」


「うん、貰う〜」


にこーっと満面の笑顔で返事をしたかと思ったら、麻美はいつものようにぴっとりとくっついてきて、両手でワシワシと私の胸を揉んでくる。

これがいつものパターンというのもどうかと思うけど、こっちももうすっかり慣れっこだ。

服の上からだし、麻美の手の動きもいやらしいものじゃなくて、揉むというよりは鷲づかみに近いものだから、私がうっかり変な気になる事もない。

ただ、これを男子の目のあるところでされるのは困るし、2人きりの時にされたらもっと困りものだから、ハイハイと好きにさせるのはこういった女子のみの集まりの時だけだけど。


「うーん、これを切り取って私の胸にくっつけれないかなー?」


「もしもーし?あんまり怖い事言うなって」


「いや、半分本気。ま、いっか。イツキの胸は私のもんだし」


なんて、麻美はヒヤリとさせられる発言をこぼして、再びグニグニと私の胸で遊び始めた。

確かに、麻美の言う通り私の胸……というか、私はとっくの昔に麻美のものになっている。

彼女以外に、これだけ好き勝手に触らせるつもりもない。

……まあ、ここまでしてくる人は他にいないと思うけど。


「でもさー、私の胸が育った理由は、麻美がしょっちゅう揉んでくるせいじゃない?」


「え?あ…あー、そっか!イツキ、ずるい!」


「いや、ずるいって言われても……んじゃ、私も揉みましょか?」


そう言って、右手に持っていた焼酎を机に置いてから麻美のささやかな膨らみに手を伸ばそうとしたら、


「はい、そこまでー」


と、後ろからポコンと頭を叩かれた。

全然痛くないけど、なんだかちょっとムカつきます。


「なんで麻美は良くて私はダメなのよー?」


クルリと振り返って突然の乱入者を恨みを込めた目で睨んでみせるけど、その本人はむしろ呆れた表情で、黙ってもう1発ポコンと叩いた。

おぉっ、今度はさらに力がこもってますぜ、姉さん……


「公共の場で乳揉みあってんじゃないっつーの。こっちが目のやり場に困るわよ。

アンタらは、もうちょっと恥じらいってもんを持ちなさい、このバカップル!」


「ただのスキンシップだよ〜。

それにバカップルって…別に付き合ってないもーん」


私としては、長年の片思いの相手とバカップル扱いされるのは、まったく嬉しくないわけじゃないですが……まあ、なんともフクザツな気分ではある。


「でも、イツキ達って、いっつもベッタリだよねぇ。

もういっそ、本当に付き合っちゃえばー?」


と、今度は向かいの席から、無責任な冗談が飛んでくる。

えーえー、本当にそうなれるならどれだけ良いか。

っていうか、そんな対応に困るようなフリを投げてこないでください、お願いだから。

こっちも冗談で返さないといけない分、余計に神経磨り減るんだからさぁ。


「えー、参ったなー。

じゃあさ、麻美、本当に付きあっちゃおっかー?」


本当なら心の底からの本音で伝えたい言葉を、何が悲しくてこんな大勢の人がいる酒の席でのネタにしなけりゃならんのか。

あーあ、どうせ『バーカ』とか言って、返されるのがオチですよね。わかってますとも。


「そうだねー、そろそろ付き合おっかー」


ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた麻美がヒョイっと体を伸ばして、私の首に腕を回すと、ギュっと抱きついてきた。

昔からスキンシップの激しい子だから、私もこの程度なら平静を装う事は出来るんだけど、周りにいた子達は、そのパフォーマンスにおぉ〜!と盛り上がる。

さっき私の頭を叩いた友達もケラケラ笑って、カップル誕生だーなんて言ってるけど……なんで麻美が触ってくる分は容認してるんだよ、おい?


「麻美ー、ちょっとサービスしすぎじゃない?」


これ以上くっつかれていると、いい加減にこちらもボロが出そうで怖いので、ポンポンと麻美の背中を叩いてそろそろ終われと促してみると、麻美は離れるどころかさらに腕に力を込めてきた。


「……サービスじゃないもん」



――はい?


耳元で、私にだけ聞こえるように囁かれた言葉に、意識が一瞬にして全部持っていかれた。

”サービスじゃない”。

だとしたら、何なんですか?

もしかして、私、期待しちゃってもいいの?


女の子達の高い声が飛び合う座敷の中。

胸に愛しい人を抱きかかえながら、私はお酒以外の理由で顔が赤くなっていくのを感じた。

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