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黒い水面が鏡に映っている。
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事の始まりは、そんなに難しいことではなかった。
一つ、私がそこに存在を開始したこと。
一つ、私がそれを認識したこと。
一つ、私がそれを見ていたこと。
そこから始まった私のセカイは、あまりにも平坦だったけど、私がそこにいたから、苦にはならなかった。
私を見ている私。つまり、何の比喩でもないもう一人の私。
それらが私の起源であり、その事象の起点であったと私は今思っている。
それが私にとってなんの利益にもならないことだとしても、それはほかならぬ私自身の考えだったから、私は受け入れようと思った。
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彼女はいわゆる不思議ちゃんとか呼ばれる部類なんだと思う。私からしてみればただの寡黙な可愛い女の子とも見れるんだけど、周りからしてみればそういうわけでもないらしい。
まあ確かに不思議といえば不思議な子だ。
寡黙な、と言ったけどそれはまだ温い表現だ。私がこの学校に入学し、彼女と同じクラスになってから、私は彼女の話す姿を一度も見たことがなかったのだ。友達はいるかいないのか分からないし――あまりいそうじゃないけれど――、授業中ですら口を開かない。教師に指名されることがあっても、その口元は柔らかく閉ざされたまま、最低限の動作と必要があれば自らホワイトボードの方へ歩いて行き、そこに概要を書く。他のクラスメイトたちはそんな彼女をはじめ奇異の眼差しで見ていたが、不思議と教師側はこれといった反応を示さなかった。もしかしたら、先生たちにだけ彼女の何らかの情報が知らされていたのかもしれないのだけれども、私たちから見ればすこしおかしな感じだった。
ただ、一月も経てば彼女は日常に溶け込んでしまい、クラスの中で彼女を変な目で見る者はいなくなった。それどころか、彼女の姿すら誰も直視することがなくなった。理由は私もよくわからない。私は普通に彼女のことを気にしていたし、もちろん彼女の姿を直視することだってできる。
おそらくは、彼女の放つ人を極端に拒絶するオーラが、他人の視線を弾いているのだろう。
私はどちらかと言うとそういうものを気にしない性格なので――無神経とも言うが――特に不快に思うこともなかったけれど、やはりクラスのみんなからすれば関わりたくない人間という分類にされてしまうのだろう。
結局その勢力が強すぎて私も気になりはしているけれど、今日の今日まで彼女に話しかけられないでいる。
それでも多分彼女はなんとも思っていないだろう。ヒトを拒絶しているのだから。