第五十二話 真相①
事の発端は今から二十年前にさかのぼる。
全国屈指の精霊使いだった霊能力者が、支配下の精霊を半数以上失ったことをきっかけに発狂。精霊使いから一転して悪霊使いとなり、暴走して破壊・殺戮行動をとるようになった。
事態を重く見た霊能者協会は、退魔村に緊急指令を出す。悪霊使いを捕えよ、場合によっては殺害も認める。それはレベル10の任務で、退魔村からは三十人の退魔師が送り込まれた。
そのなかには、浩二と宗一の両親である山坂早馬と聖菜も含まれていた。満月の夜に行われたその任務は地獄と化し、悪霊使いによって退魔師は次々と倒れていった。
任務終盤、運良く生き延びた早馬と聖菜は標的と対峙するものの苦戦を強いられる。そこに、香子とさくらの両親である月影良也と鈴が命令を無視して応援に駆けつけ、四人の連携によって悪霊使いを倒し、捕えることに成功した。
しかし、その任務で退魔村は二十八人の死者を出した。人口二千人の退魔村にとってはこれだけでも大きすぎる損害だった。
さらに、これを機に村からの脱落者が相次ぎ、退魔村は戦力不足に陥った。満月の夜の危険度10の任務など、到底遂行できるはずもなかった。
悪霊浄化の専門として無類の強さを誇っていた日吉村だったが、やがてその名声は時とともに落ちていく。
霊力は平凡だった山坂夫妻と月影夫妻から、百年に一度の天才と言われる宗一とさくらが生まれたが、その二人だけでは危険度10の任務に対応できなかった。一人前になるまでに時間がかかり、さらには二人の意見を尊重しなければならなかった。
そこで、今から十三年前、村の上層部は慢性的な戦力不足を補うために、道具としての強力な退魔師を作り上げようとした。その方法は、妖怪の体を取り込ませて霊力を大幅に増強させ、人権を剥奪し、危険度の高い浄化任務へ送り出すというものだった。
そしてその適合者が、当時三歳の山坂浩二と月影香子の二人だった。
この野望を実現させるため、村は邪魔者である山坂早馬と山坂聖菜、山坂宗一、月影良也、月影鈴、月影さくらの六人を暗殺しようとした。六人を殺害するために送り込まれたのが柳田秀の両親と水谷紗夜の両親だった。
任務の帰りに、その四人によって親を殺された山坂宗一は無我夢中で力を解放し、四人を殺してしまう。
それが、悪霊使いとしての覚醒だった。
村としては十人の退魔師の命と引き換えに、二つの強力な道具を手に入れようとしたが、最も危険な二人を討ち漏らすという結果に終わった。
身の危険を感じた山坂宗一と月影さくらは、退魔村への復讐心を胸に秘めて村から遠ざかった。
真実は隠蔽され、宗一とさくらは親殺しの濡れ衣を着せられた。そして、捕縛・殺害対象として協会に認定され、各地の霊能力者から命を狙われることになった。
肉親が居なくなり、村に残された山坂浩二と月影香子は、予定通りに妖怪の体を植え付けられた。二人は十日以上の発熱の末、妖怪の体と同化した。
その結果、山坂浩二は男女両方の霊力を獲得し、満月の夜には莫大な霊力を持つようになったが、それ以外のときは微弱な霊力となった。
月影香子は常時強大な霊力を持つようになったが、副産物の高すぎる自己治癒力によって髪や爪の伸びが異常に早くなってしまった。
二人は三歳から五歳までの二年間、村の外れの小屋にそれぞれ一人で閉じ込められ、非人道的な扱いを受けた。そして五歳から六歳の間に二人は退魔師としてのペアを組まされ、危険度の高い任務に駆り出されることになる。
悲劇から三年後、今から十年前、悪霊を十分に従えた二人は復讐のため、そして浩二と香子を救い出すために村を襲撃した。強大な力と狂暴性を秘めた二人に村人たちは為す術もなく絶命していった。
襲撃の最後、任務から帰還し、村の惨状を見て狂戦士と化した山坂浩二と死闘を繰り広げた。戦いの最中に浩二の力が暴走し、村が壊滅。
ここで山坂宗一と月影さくらの復讐は一旦終わる。そして、新たな復讐に目覚める。百パーセントの力を発揮できる山坂浩二と月影香子を退魔師の力だけで叩き潰し、退魔村の行いを否定する。それが新たな目的となった。
十年間の空白を作った目的は、山坂浩二の精神的な成長を促すことと、月影香子の戦闘力を増強させることだった。残党を皆殺しにすると宣告したのは、十年間の空白を作るため。そして、圭市を襲撃したのは、残党を街の防衛に専念させ、彼らが兄弟姉妹の二対二の戦いに割り込んでこないようにするためだった。