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ムーン・ライト  作者: 武池 柾斗
第四章 悪霊使い編
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第四十九話 決闘①

 月影さくらは二人の到来を歓迎した。月影香子は険しい表情で姉を見据えていたが、歓迎の言葉に対して不敵な笑みを浮かべた。


「ええ、あんたたちのお望みどおりに来てやったわよ」


 月影香子に続いて、山坂宗一が小さく笑う。


「ここに来たってことは、おれたちと本気で戦う覚悟ができたってことだよな?」


 その言葉を受けて、山坂浩二は兄の目をまっすぐに見つめ、表情をさらに引き締めた。決断に二週間かかったが、今の彼の目に曇りはなかった。


「そのつもりで来てる。俺は、お前たちを倒して圭市を守る」

「あたしもそのつもり。特にさくら。あんたとはここで決着をつけるわ」


 月影香子は足を一歩前に出し、右手の刀の先を月影さくらに向ける。その低い声と行動は、戦う意志を示すのには十分すぎるものだった。

 月影さくらは楽しそうに笑う。


「勇ましいね。うん、それでいいよ。わたしたちは自分のために、数えきれないほどの人間を殺してきた極悪人だからね。殺すつもりでかかってきなよ」

「言われなくてもそうするわ」


 月影香子はそう吐き捨てて両刀を構える。月影さくらは両手から赤い霊力を伸ばす。彼女とほぼ同じ長さになったところで伸長を止め、瞬時に長刀へと変化させる。月影さくらは、まるで獲物を狙う肉食獣のような鋭い目を、妹に向けた。


 三本の刀が、満月の光に照らされて銀色に輝く。

 その横で、山坂兄弟も睨み合った。


「おれを潰さないと圭市への攻撃は止まらない。浩二がおれと戦う理由としては上等ってわけだ。お前の全力をもって、おれを潰しに来い」

「ああ。宗一を倒し、悪霊を浄化して圭市を守る。それが俺の役目だ」


 山坂浩二は芯の通った声でそう言い放ち、両手から赤の霊力を出して錫杖を形作った。その霊力の粒子が弾け、茶色の柄と金色の先端をもつ錫杖へと変化した。

 山坂浩二は頭上で錫杖を回してから腰を落として構える。山坂宗一は結界に霊力を送り込み、自らの防御をさらに強化する。


 四人は臨戦態勢に入り、場に静寂が訪れた。


 山坂浩二は考えた。この二週間、霊力どころか体すらロクに動かしていない。決断を下したのはタイムリミット間近。霊力操作や戦闘の勘を取り戻す時間などなかった。今の自分にあるのは莫大な霊力のみ。強大すぎるため、小回りは効かない。取るべき戦術はない。力押しで相手の隙を作り、弱点を突くしかない。


 月影香子も考えた。山坂浩二ほどではないが、彼女も霊力が増大している。新月の夜とは違い、満月の夜の今は月影さくらと同量の霊力を有している。だが、対人戦闘経験は相手のほうが明らかに多い。その上、人を殺したことがある。身体能力の向上と自己修復以外の能力は相手のほうが高い。おまけに武器は長刀なので、リーチも長い。実力は姉のほうが上だろう。手数の多さを活かして、先に攻撃するしかない。


 山坂浩二と月影香子が、動き出した。


 山坂浩二は山坂宗一に向けて、月影香子は月影さくらに向かって駆け出す。その速度は雷光のよう。常人にとって、それはとても目で追えるものではなかった。


 山坂浩二は速度を落とさず、錫杖を山坂宗一の結界に突き立てる。その圧倒的な力は、悪霊使いの結界に亀裂を生じさせる。山坂浩二はそのまま押し込み、女の霊力だけで防御壁を破壊した。結界はガラスのように崩れ落ちていく。


 第一の結界を破壊された山坂宗一は後ろに飛び、山坂浩二に向けて霊力弾を放つ。山坂浩二はすぐに態勢を整え、霊力弾を撃ち込む。二人の霊力は空中で衝突し、同時に破裂した。強烈な光と爆音が生まれ、衝撃波が二人を襲う。


 山坂浩二はこれに耐え、女の霊力を使って動き出す。一瞬で山坂宗一の背後に回り込み、錫杖を突き立てる。山坂宗一は衝撃波で体勢が崩れている。絶好の機会だった。


 しかし、第二の結界が彼の攻撃を防いだ。亀裂も入らない。だが、確実にダメージは入っている。山坂浩二は左足に体重をかけ、右脚に霊力を込める。そして、強烈な蹴りをぶち込んだ。その大きすぎる衝撃に耐えられず、山坂宗一の体は結界ごと宙に浮かぶ。


 身動きがとれなくなった山坂宗一に向け、山坂浩二はすかさず霊力弾を撃ち込んだ。その強大な霊力は大きな爆発を起こし、第二の結界を粉々に吹き飛ばした。



 一方、月影香子は右の刀で月影さくらに斬りかかった。相手はこれを難なく躱す。これはフェイントだ。月影香子は加速して左の刀を水平に振る。そのあまりの速さに、月影さくらは長刀で防御せざるを得なかった。二人の刃がぶつかり合い、火花を散らす。月影香子はさらに刀を押し込んで、月影さくらの体を数メートル弾き飛ばした。


 月影香子は追撃しかけるが、そこに月影さくらの長刀が振り下ろされる。月影香子はこれを左の刀で受け止め、右の刀で相手の左肩を突き刺した。


 先制攻撃が成功し、山坂浩二と月影香子が優勢になる。


 そこで、山坂宗一と月影さくらが笑みを浮かべた。その直後、山坂浩二の足元に散らばっていた結界の破片が爆発した。山坂浩二はすぐに防御結界を作り出し、爆発を防ぐ。そこに山坂宗一の霊力の触手が襲い掛かる。山坂浩二はそれに対応できず、結界を破壊され、体を触手に払い飛ばされた。


 月影さくらは左肩に刀身が突き刺さった状態のまま、右脚を軸に左脚を稼働させる。突き刺さった刀が肩を斬り裂き、体から抜ける。だが、それは月影さくらにとってたいした怪我ではなかった。彼女はそのまま攻撃態勢に入り、その後ろ回し蹴りが月影香子のわき腹に直撃する。月影香子の体が浮き上がり、そのまま吹き飛ばされる。


 山坂浩二と月影香子は空中で咳き込む。だが、ここでひるんでいては追撃を受ける。二人はすぐに受け身を取って着地。その勢いを利用して跳び上がり、悪霊使いたちから距離をとった。


 二人は互いに近い場所に着地し、体勢を立て直す。

 二人と二人が向き合う状態に戻る。四人の呼吸が静かに聞こえる。


 月影さくらの左肩が赤く光り、傷口が塞がる。巫女服の一部が赤く染まっているが、青い霊力が巫女服を戦闘前の状態にまで戻した。

 月影香子は舌打ちをした。





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