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ムーン・ライト  作者: 武池 柾斗
第四章 悪霊使い編
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第四十六話 圭市防衛②

 退魔師残党の柳田秀と水谷紗夜は、中央区域とその周辺を飛び回りながら、退魔師の少年少女たちへ指示を出し続けていた。


 柳田秀の意思伝達能力により、退魔師たちからの報告がすばやく入ってくる。そのおかげで手早く正確な命令を下すことが出来ているのだが、戦況は決して良いと言えるものではなかった。

 東区域の援護の後、中央区域に戻った柳田秀と水谷紗夜は、休むことなく悪霊の浄化にあたった。


 中央区の悪霊をすべて消し去った後、二人はビルの屋上に足を下ろした。

 退魔師たちと悪霊の激戦が繰り広げられているが、圭市は普段と全く変わらない営みをしている。柳田秀はその光景を見下ろしながら口を開いた。


「さすがに数が多すぎますね」

「ええ。それに、いつもより手強いわ。当たり前だけど」


 柳田秀の隣に立つ水谷紗夜は、二メートルを超える大斧を霊力に戻し、彼の言葉に応えた。


「そうですね。しかし、これでは宗一とさくらの居場所を掴めそうにないですね」

「今は悪霊の対処で精一杯だもの。浩二くんと香子ちゃんがいてくれれば、状況は変わったのかもしれないのだけれど」


「それもそうですね。しかし、そのようなことを言っても仕方ありません。今、僕たちが出来ることをやりましょう」

「そうね。でも、私はあの二人が来てくれると信じているわ」

「僕も同じです。彼らが来ると信じて戦いましょう!」


 柳田秀が檄を飛ばし、二人はビルの屋上から飛び降りた。彼が空中に作り出した結界の足場に乗り、柳田秀と水谷紗夜は夜の街を翔ける。

 悪霊は優先的に退魔師を狙ってきているようだったが、ごくまれに一般人に襲い掛かろうとするモノも存在していた。


 女の力を持つ退魔師であれば機動力が高いので、悪霊の攻撃から一般人を守れないこともなかった。しかし、一体ずつ相手をしていてはキリがない。そのため、男女ペアの退魔師は一つの対策を用意していた。

 柳田秀は結界による飛行を続けながら、上空に向けて霊力の光弾を放つ。青く光るそれはビルより高く上がると、大きくはじけ飛んだ。


 広範囲に霊力がばら撒かれた直後、柳田秀が光弾を打ち上げた場所に五体の悪霊が集まってきた。餌としてばら撒かれた霊力をもとに、悪霊はその霊力の持ち主を見つけようと辺りをうかがう。

 その隙に水谷紗夜がその集団の中に飛び込み、大斧で悪霊を一斉に薙ぎ払う。霊力を削られた悪霊たちの姿が揺らぎ、動きが止まる。そして、柳田秀が浄化の霊力を放つことによって悪霊をこの世から解放させていった。

 男の退魔師が霊力を分散させ、悪霊を誘い込む。集まってきた悪霊に女の退魔師が奇襲を仕掛け、男が浄化を完了させる。


 この方法により、退魔師残党たちは市民を守ることに成功していた。霊力に寄って来た悪霊が多い場合は、柳川友子の助力を得て浄化していった。


 満月の出から二時間が経過し、退魔師たちの奮闘もあって悪霊の数が大幅に減少した。柳田秀は各ペアに余裕が生まれたのを察知し、テレパシー能力を使いながら大声を出した。


「友子さんは宗一とさくらの捜索を! 他の区域の方も、戦闘を続けながらあの二人の居場所を探してください!」


 彼が指示を出した直後、一斉に少年少女たちの声が返ってくる。全員が山坂宗一と月影さくらの居場所を突き止めるために動き出す。


「秀ちゃん、私たちも行きましょう」

「はい」


 柳田秀と水谷紗夜は短く言葉を交わした後、中央区域の捜索にあたった。



 日本最悪の霊能力者の二人を見つけるために、圭市の隅から隅まで捜索を続けていた退魔師たちだったが、二時間経っても二人の姿はおろか気配さえも感じ取ることはできなかった。

 圭市の全域を捜した柳川友子は、空中で停止して声を上げた。


「なんで!? なんでどこにもいないの!? 圭市のどこかに居るんじゃないの!?」


 彼女の中で不信感が生まれる。あの二人は圭市のどこかに潜んでいると言いながら、実は圭市の外から攻撃を仕掛けているのではないかと。

 そこで彼女は頭を横に振った。


「違う! 宗一とさくらは絶対にいる! あの二人は、山坂と香子と戦うためにあたしたちを圭市の防衛に縛り付けてるんだ!」


 柳川友子はそう叫び、夜空に浮かぶ満月を見上げた。

 満月は天高く昇り、幻想的な青白い光を放っている。


「まずい! このままじゃ、あと二時間で日付が変わる!」


 満月の位置を確認した彼女の表情に焦りが見えてくる。もしこのまま山坂宗一と月影さくらを見つけることが出来なければ、圭市の住民は皆殺しにされてしまう。

 柳川友子は歯ぎしりをする。

 そのとき、彼女の視界に三体の悪霊が現れた。


「クソッ! また悪霊が増えてきた!」


 悪態をつきながらも、柳川友子は目の前の悪霊を行動不能にするため戦闘態勢に入った。それと同時に、柳田秀からの指示がテレパシーを介して聞こえてくる。


「捜索は一時中断! 悪霊の迎撃に専念してください!」

「いくらなんでも数が多すぎるわ!」


 司令塔の二人も焦っているのか、指示以外の声や他のメンバーの叫び声も混ざって頭の中に響く。

 柳川友子は戦況が悪化したことを悟りながら、悪霊の霊点を正確に突き、三体の霊力を大きく削った。

 姿を揺らめかせる悪霊のそばで、彼女は青い満月を見上げて呟く。


「香子、山坂……。お願い、早く来て……」


 彼女の切実な願いは、誰にも聞かれることなく、戦いの音にかき消されていった。





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