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ムーン・ライト  作者: 武池 柾斗
第三章 退魔師編
30/95

第七話 新月の夜(上)

 三月五日、土曜日。正午。

 柳川友子、柳田秀、水谷紗夜の三人は、柳田秀の自宅で昼食をとっていた。彼らがいるのは台所で、四角テーブルを間に挟むように三人は椅子に腰かけていた。柳川友子と水谷紗夜が柳田秀に向かい合う配置だ。

 柳川友子は上下赤色のジャージを、柳田秀と水谷紗夜は黒色のスーツを身に纏っている。柳田秀はもちろんのこと、水谷紗夜もスラックスタイプのものであった。

 三人の前には大皿に盛られたカレーライスがそれぞれ置かれている。

 わずかな沈黙の後、柳田秀が胸の前で手のひらを合わせた。それに続くように柳川友子と水谷紗夜も手のひらを合わせる。

「いただきます」

 三人は食事のあいさつを同時にすると、スプーンを使ってカレーライスを口に入れ始めた。柳田秀は数回カレーライスを口にすると、

「しかしまあ、またカレーですか友子さん。最近、カレーやシチューや豚汁のような鍋物が多いですね」

 と言った。

「さすがに飽きてきたわよね。作り置きできるものばかりじゃなくて、たまには手の込んだお料理が食べたいわね。友子ちゃん、お料理上手なんだから」

 水谷紗夜も食べることを中断し、口を左手で隠しながら言葉を紡ぎ始める。その表情はどこか不満げだ。

 クレームをつけられた柳川友子だったが、そのことをさほど気にしていないといった様子でカレーライスを口に入れ、咀嚼し、呑みこんだ。

 そして彼女はややふてくされたように二人から目線を背け、

「文句あるなら自分で作ってください。手の込んだ料理とかめんどくさいだけなんで」

 と言ってカレーライスをスプーンですくって口に放り込む。噛んで、食道へ送り込んだ後、柳田秀と水谷紗夜に視線を向けた。

「まあ、確かに、秀さんと紗夜さんは浄化任務のために毎日のように日本中を飛び回りつつ、山坂や香子の訓練を見てくれてますから、アタシだって二人においしいご飯を食べさせてあげたいですよ」

 柳田秀と水谷紗夜の目に輝きが宿る。

「で、では」

「で、す、が」

 期待のまなざしを向ける柳田秀であったが、柳川友子は彼の言葉を遮った。

「アタシがせっかく何時間もかけて作ったところで、秀さんと紗夜さんあっという間に食べ切っちゃうじゃないですか。作った側としては、もっとゆっくり味わって食べて欲しいところです」

 柳川友子はため息をつく。

「二時間以上かけて作った料理が、たったの十数分でなくなっちゃうんですよ? やってられませんって」

 彼女の言葉の後、柳田秀が苦笑交じりに口を開いた。

「そ、それは、友子さんの作るご飯が非常においしいものなので、お箸が進んでしまうのですよ」

「そうよ友子ちゃん。だって、友子ちゃんのお料理って、その辺りのお店よりもおいしいじゃない。だから、話すのも忘れて食べちゃうのよ」

 水谷紗夜は柔らかな笑みを柳川友子に向ける。二人から送られた言葉に照れているのか、柳川友子の頬が赤く染まっていく。

「……そ、そこまで言うんだったら、作ってあげないこともないですけど」

 柳川友子が口をとがらせてそう言うと、

「やりましたね! 紗夜さん!」

「やったわね! 秀ちゃん!」

 と、二十九歳の二人がお互いを見ながら喜び合っていた。

「アタシの料理くらいで、いったい何がそんなに嬉しいんだか……」

 柳川友子は喜び騒いでいる大の大人二人を眺めながら、一人で食事を再開した。彼女の表情には、微笑みが浮かんでいた。

「ところで友子さん」

 柳川友子が食事を再開してから数分後、柳田秀は彼女に話しかけた。柳川友子はスプーンを右手に持ったまま顔を上げ、彼と目線を合わせた。

「はい、なんでしょう?」

「今日の訓練のことなのですが」

 柳田秀がそう言うと、柳川友子は間髪入れずに口を開いた。

「もうすぐアタシたちのテストが近いから、秀さんと紗夜さんが浄化任務から帰ってきたらすぐに始めて早めに終わることと、山坂と香子は呼ばないということですよね」

「その通りです」

 柳田秀は表情を緩める。

「ですが、浩二さんと香子さん抜きで訓練を行う理由については建前ですがね。二人には、テストの勉強をしてもらいたいので今日の訓練は休み、だと伝えてあります。僕たちが二人に内緒で訓練をするのは、浩二さんや香子さんだけでなく、僕たち残党も力をつけていかなければならないからです。あの二人がいると、どうしても彼ら中心の訓練になってしまいますから」

 柳田秀はそこで一呼吸置いた。

「香子さんや満月時の浩二さんの霊力は絶大ですが、それだけでは山坂宗一と月影さくらに対抗するには不十分です。僕たちの霊力は香子さんや満月時の浩二さんに到底及びませんが、それでも僕たちの力も必要です。あの二人がどういった手段で仕掛けてくるかわからない以上は」

 食卓に重い空気が漂う。そのようななか、水谷紗夜が口を開いた。

「そうね。確かに、私たちの力は山坂宗一や月影さくらにとってはたいしたものではないかもしれないけど、それでも私たちは無力ではないわ。今の私たちは、あの二人を目の前にして怯えることしかできなかった十年前の私たちとは違う。少なくとも、浩二くんや香子ちゃんの足を引っ張るようなことは決してないわ」

 真剣なまなざしを柳川友子に向ける彼女の言葉には、強さがあった。一人一人の力は小さくとも、全員の力を合わせればあの二人に負けることはない。そんな自信を感じさせる力があった。

(やっぱり、秀さんと紗夜さんは強いな。あの二人の恐ろしさを一番わかってるはずなのにね)

 引き締まった表情の二人を前に、柳川友子はふっと穏やかな笑みを浮かべた。少し前まで、自分が手の込んだ料理を作ると言ったことくらいではしゃいでいた二人とこの二人が同一人物だとは思えなかった。

 就職活動中の学生にしか見えなくても、やはり二人は柳川友子の十三歳年上で、数々の修羅場を乗り越えてきた猛者なのだ。

 そしてなにより、退魔師残党の頼れるリーダーだった。

「そうですね」

 柳川友子はスプーンから静かに手を離した。銀色のスプーンの柄がカレーの食器と触れ合い、高い音が慎ましやかに鳴った。

「秀さんと紗夜さんがそこまで言うなら、日本を滅ぼせる力を持つあの二人にも負ける気がしませんね。アタシは、霊力は弱いですが、できることをするまでです」

 彼女の言葉を聞いた柳田秀と水谷紗夜はいつものように表情を緩めた。そして、柳田秀はスプーンを右手に持った。

「次の満月まで、まだ十五日あります。焦らずに力をつけていきましょう」

 彼はそう言ってスプーンでカレーライスをすくい、口に入れた。咀嚼。水谷紗夜と柳川友子は黙って彼を眺めていた。

 柳田秀は口の中のものを呑みこんだ後、他の二人が自分を眺めていることに気づいた。

「ん? 食べないのですか?」

 彼がそう言うと、柳川友子と水谷紗夜は我に返ったように、

「そ、そうですね」

「そ、そうね」

 と、それぞれ呟いて食事を再開した。

 食事が終わると、柳田秀と水谷紗夜は席を立って食器を流しに置いた後、席に座っている柳川友子に声をかけた。

「それでは友子さん、僕たちは浄化任務に行ってきます。帰りは七時くらいになると思います。直接訓練所のほうに向かいますので、友子さんは先に行ってください」

「お片付けよろしくね、友子ちゃん」

「わかりました」

 二人の言葉に、柳川友子は座ったまま答えた。

「それでは、行ってきます」

「行ってきます」

 二人はそう言って柳川友子に背を向けて歩き出した。彼女には、スーツ姿の二人がとてもたくましく見えた。

「いってらっしゃい」

 少女は頬を緩めて二人の言葉に応える。二人の姿はすぐに見えなくなり、やがて玄関の扉が開閉する音が聞こえた。

 家に一人残された柳川友子は、

「さてと、皿洗いでもしますか」

と言って席から立ち、流しに食器を置いて、食器洗いを始めた。

 柳田秀と水谷紗夜がこれから行う浄化任務の内容を、柳川友子は一切知らされていない。場所も、危険度も、人が関わってくるのかどうかも。

 それでも彼女に不安はなかった。二人は必ず帰ってくる。そういう確信が彼女にはあった。場所や人の関与は推測のしようがないが、危険度は推測できた。

「レベル8だったら残党みんなで行くもんね。だったら、今回はレベル7かな。悪霊数体の相手だから、秀さんと紗夜さんなら余裕じゃん。あの二人だったら、レベル8でも大丈夫な気もするし」

 柳川友子は呟きながら食器洗いを続ける。

「秀さんと紗夜さんのペア以外も、レベル7までならなんとかやっていけてるし。みんな強くなってきてる。アタシたちは問題ないよね」

 彼女はそこでため息をついた。

「問題は山坂と香子か……。決戦は満月の夜だから、二人の強さについては問題ないんだけど、問題は二人の関係なんだよね。相思相愛なんだから、さっさとくっついちゃえばいいのに。もう、二人とも根性なしなんだから!」

 一呼吸。

「でも、それは二人の問題よね。アタシが深く関わるのも良くないよね」

 その言葉の直後、彼女の胸が疼いた。しかし、彼女はそれに気づかないふりをして食器洗いを続けた。

 食器洗いを終えると、柳川友子は気分転換のため外に出た。それほど大きくはないが一戸建てである彼女たちの家は、狭いながらも庭がついている。彼女はその庭に立って空を見上げた。雲一つない青空。乾燥した空気。柳川友子は深呼吸した。

「ふう」

 彼女は気持ちよさそうに目を閉じた。

 自分たちは強い。強くなった。相手がどれほど凶悪であろうと負ける気はしない。自分たちが殺されることなんてない。そして、山坂浩二と月影香子を殺させはしない。自分たちの親の仇である悪霊使いとその相棒を返り討ちにしてやる。

 退魔師残党と、月影香子と、満月時の山坂浩二が協力すれば、それは不可能ではない。集団の力で強力な個を打ち破る。それは可能なこと。

 今の彼女にはそう思えた。

 目を開ける。

 空は相変わらず澄み渡っている。

「たまには秀さんと紗夜さんに、ごちそうでも振る舞ってあげようかな」

 柳川友子は微笑を浮かべながらそう呟いて、家の中へと戻って行った。そして彼女は近場の小さなスーパーマーケットに行って夕飯の材料を購入し、帰宅後すぐにエプロンをつけて料理の下ごしらえを始めた。

 訓練が終わって帰宅した後にすぐ食べられるように彼女は調理していく。時折鼻歌をまじえながら行っていた。面倒くさいとは言ったものの、やり出したら楽しくなってとことんやってしまっていた。

「これでよし! と」

 あとは炒めたり温めたりすれば完成、というところで柳川友子は手を止めた。そして彼女は完成間近の料理を冷蔵庫に入れた。

 気づけば夕日が差し込む時間帯になっていた。柳川友子は顔を赤く照らされながら小さく笑った。

「久しぶりに頑張ったんだから、味わって食べてもらいたいなあ」

 彼女はそう呟いてエプロンを外し、電気やガス、戸締りの点検を行ってから、上下赤色のジャージのまま家を出て訓練所へ向けて飛び立った。

「今日の夜ご飯、秀さんと紗夜さん喜んでくれるかな」

 不可視の状態で空中を移動する柳川友子は、期待に胸を膨らませて笑った。






 同日午後三時。

 月影香子はアパートの自室にいた。彼女はベッドの上で仰向けになって白い天井を眺めていた。彼女は電源のついたテレビには目もくれず、テレビはもはやBGMを生み出す機械でしかなかった。

 前日の訓練で、本日の訓練は休みだと伝えられていた彼女は、午前中にテスト勉強をし、昼食をとった後、ずっとベッドの上にいた。

 彼女の服装は紺色ジャージに黄緑色のパーカーという、この前の浄化任務と同じものだった。ひざ裏まで届く黒髪は下ろされている。彼女の表情からは、いつもの凛々しさが感じられなかった。

「あと、十五日ね」

 月影香子は口を開いた。

「あと、十五日で、あの二人があたしたちを殺しにやってくる」

 あの二人。山坂宗一と月影さくら。山坂浩二の兄と月影さくらの姉。その二人は、退魔村で百年に一度の天才と呼ばれていたが、今から十三年前に自らの両親と他の退魔師四人の計八人を殺害して村から逃亡し、その三年後に退魔村を壊滅させた。そして今は、自分たちに刃向うものは一人残らず葬っているという。

 山坂宗一は、日本中の悪霊の大半を手中に収めていて、負の感情で日本を滅ぼすことのできる力を持つ悪霊使いであり、自身の霊力や戦闘能力も高い。

 月影さくらは、近接戦闘では日本最強の霊能力者だと言われており、戦闘に長けた除霊師を凌ぐ強さを持つ月影香子であっても、月影さくらの霊力や戦闘能力には敵わない。

 霊能界の中心的存在である霊能者協会は、この二人は危険だが刺激しなければ害を及ぼすことはないと判断して、二人の存在を隠蔽している。山坂宗一と月影さくらの存在を知っているのは、浄化の退魔師を含めたごくわずかな霊能力者のみだ。

「あの二人はいったい、何がしたいのよ? お母さんたちを殺して村を抜け出して、たった二人で村を壊滅させて、あたしと浩二を引き離して、最後にはあたしたちを殺そうとしてる。全部、理由がわからないわ」

 月影香子は冷たい笑みを浮かべた。

「刺激しなきゃ襲ってこないんじゃなかったの? なんであたしたちにだけ自分から殺しに来るの? 殺しに来るとしてもなんで今なの? なんで浩二の力が戻ってからなの? どうしてあたしと浩二を十年間も引き離したの? なんで故郷を襲ったの? なんで……自分たちの親を殺したの?」

 彼女は天井のある一点を見つめる。そこにはなにもなかったが、彼女はまるで誰かを糾弾するかのような目をそこに向ける。

「おねえちゃんは、そんなわけのわからないことをする人じゃなかったわよね? 強くて、賢くて、優しくて、頼りになって。あたしの憧れだったのに。どうして?」

 月影香子は遠い昔のかすかな記憶をもとに言葉を紡いだ。

 そして彼女は目を閉じ、

「ねえ、狂ったの?」

 目を開けて表情を険しくした。

「さくら」

 彼女の声に力が入る。唯一の肉親の名を呼ぶその声は、冷たく、鋭く、なおかつ溢れんばかりの怒りを内包していた。

「あんたたちがあたしたちを殺しに来るのなら、あたしたちに殺される覚悟くらいはしておきなさい。罪を犯したあんたたちを、あたしがこの手で裁いてあげるから。あんたたちが思っている以上に、残党は強いわよ。それに、満月の夜の浩二は、あたしなんかよりももっと強い。いくらあんたたちが強いとはいえ、たった二人で向かってくるなんて、油断しすぎよ」

 月影香子はふっと力を抜いた。

「だから、返り討ちにしてあげるわ。あたしと、浩二と、みんなでね」

 彼女は穏やかな声でそう言うと、寝返りを打って体の右側を下にして横向きになった。白い壁紙が彼女の視界のほぼすべてを埋める。

 そして、彼女の思考は切り替わった。

「浩二……」

 憂鬱そうな表情を浮かべて月影香子が呟いたのは自らのパートナーの名前だった。この前の浄化任務がきっかけで彼への恋心に気づいた月影香子と、柳川友子や同じクラスの男友達の言葉によって彼女への恋心に気づいた山坂浩二。恥ずかしさから、二人はお互いから距離をとるようになってしまっていた。以前のように話しかけることもできず、また会話を続けることもできない。食事を共にすることもできない。

 二人はお互いが大切な存在であることには気づいているのに、二人とも素直になれていないのだ。

「好きだよ、浩二。浩二もあたしのこと好きなのよね?」

 月影香子は目線を落とし、ベッドの掛布団を見つめる。彼女は微笑んではいるものの、やはり気分は晴れないようだった。

「だったらさ、あたしのこと好きだって早く言ってよ。怖がらなくていいのに。あたしが浩二を振るなんてありえないのに。言っちゃえば楽になれるのに。前みたいに気楽に話すこともできるようになるのに。距離なんてもとに戻るのに。なんで言えないの?」

 答えが返ってくることはないと思いながらも、彼女は問う。

「意味もなく女から避けられるから、浩二は女の人が怖いのよね? だったら、あんたはあたしのことも怖いの? あんたのパートナーなのに? あんたに近づけるただ一人の女なのに? それでも怖いの?」

 月影香子は寂しげに笑って目を閉じた。

「だったら、浩二は相当な臆病者ね」

 その声は本人に届くはずもないのに、彼女はまるで山坂浩二が目の前にいるかのように白い壁に語り掛けた。

 そしてその数秒後、彼女の顔から笑みが消えた。

「まあ、それをわかったうえで、あたしからは絶対に告白しない、とか決めてるあたしもいけないんだろうけど。意地の張りすぎよね。……でも、浩二が臆病だから告白できないんだったら、なおさら待つわよ。怖いからって逃げて欲しくない。浩二には、その恐怖と立ち向かって欲しいのよ。あたしは、あんたに優しくしたいけど、甘くはなりたくないのよ」

 彼女はそこで独り言を終えると、大きく息を吐いた。ベッドから下りて立ち上がり、玄関へと歩いていく。

「さてと、一人でぶつぶつ言ってても仕方ないから、体を動かしてこようかしらね。体がちょっと重いけど、動かさないとなまっちゃうわ。今日は訓練もないし」

 月影香子は白を基調としたスニーカーを履いて靴紐をきつく締め、玄関扉を開けて外へと足を踏み出した。そよ風が彼女の頬を撫でていく。三月に入って春が近くなったとはいえ、まだまだ肌寒い。陽は出ているがやはり昼と比べると日差しは弱くなっている。これから時間が経つにつれて日差しは徐々に弱まり、やがて日没を迎えるのだろう。

 彼女は外の空気を感じながら玄関扉の鍵を閉めた。外通路の階段を下りてアパートの物陰に隠れる。周りに誰もいないことを確認すると、彼女は不可視の状態になった。これで、霊力の弱い一般人には姿を見られることもなく、声を聞かれることもなくなった。

 月影香子は空を見上げる。

「もう、あたしからは距離をとったりはしないわよ、浩二。あたしは恥ずかしくても我慢するから。あとは浩二しだいよ。あたしたち二人がばらばらだったら、さくらと宗一には勝てないわよ」

 彼女は小さいながらも芯の通った声でそう言い残し、遠い空へと飛び立っていった。






 同日午後五時。

 朝から昼過ぎまでの時間をほぼテスト勉強に費やした山坂浩二は、駅前のB・WAXスーパーで買い物をしていた。服装は黒色ジャージに黒色パーカー。

最近は訓練やテスト勉強などで時間と気力を消費しているため、彼には自炊する余裕がない。

 なので、彼の買い物カゴには安物のレトルト食品が大量に入れられていた。価格や調理にかかる時間などを考えると、レトルト食品が最も効率が良いのだ。しかし、それでは栄養バランスが偏ってしまう。だからせめてもの補助として、山坂浩二は濃厚な野菜ジュースが入ったペットボトルをカゴに入れた。

「こんなもんかな」

 彼は買い物カゴの中身を一瞥してそう呟くと、女性店員が担当するレジを素通りし、男性店員のレジに向かった。

 山坂浩二は並ぶレジを列の長さでは選ばない。夕飯前の時間帯で店内が賑わっていようが閑散としていようが、彼は必ずと言っていいほど男性店員が担当するレジで会計を済ませる。

 不快な思いをしたくないからだ。

 女性店員が思わず顔をしかめてしまうのを見るのが、非常につらいからだ。

 山坂浩二には、強い霊力を持たない女性は近づくことができない。正確に言えば、彼に近づくと強い嫌悪感を抱いてしまうため、近づいたとしてもすぐに離れてしまう。そして、離れた女性も、なぜ自分が嫌悪感を抱いたのかわからない。彼に近づくことのできる女性は退魔師残党の者くらいだ。

 そして、嫌悪感を抱かないのは、彼のパートナーである月影香子ただ一人。

 山坂浩二の心に傷を刻み続けているこの体質について、わかっていることはそれだけだ。異性が嫌悪感を抱く理由など、誰にもわからない。

 山坂浩二は会計を済ませると、レジ袋一つを右手に持ってスーパーマーケットを出て家路についた。

 日没が近くなり、空が赤みを帯びている。ここ最近は雨が降っていないせいか、銅鏡川の水位が下がっている。それでも、水面は太陽の光を反射して輝いている。

 山坂浩二は銅鏡川に沿う道路を歩いている途中、ふと思い出したかのように、ジャージの左ポケットから黒色の折り畳み式携帯電話を取り出した。

 彼が操作する携帯電話の液晶画面に、やがて一つの名前が表示された。


『山中 久美子』


 その名前の女性は、山坂浩二の育ての親だ。彼が記憶と力を失ってから初めて出会った人物であり、彼の母親代わりであり、そして、山坂浩二と月影香子を十年間引き離すことに協力した元浄化の退魔師でもあった。

「おばさん、俺、訊きたいことがあるんだ」

 そう言って、山坂浩二はその女性に電話をかけた。

 コールが重なるごとに彼の心拍音が大きくなっていく。

 血の巡りが速くなっていく。

 唾を呑みこむ。

 そして。

『もしもし、山中です』

 携帯電話の左耳に当てたところからやや年老いた女性の声が聞こえてきた。山坂浩二は昂っていた気持ちを抑えるように、軽く息を吐いてから応えた。

「もしもし山坂浩二です。おばさん、久しぶり」

『ああ、浩二君! 久しぶりねえ。元気?』

 一か月ぶりに聞く育ての親の声は以前と変わらず明るいものだった。

「うん、元気だよ。おばさんのほうはどう? なにか変わった事とかはない?」

 山坂浩二は彼女に質問した。これは彼が育ての親との通話で必ず尋ねることなのだが、今回は今までとは違った意味を持っている。ただ近況を訊いているわけではない。しかし、彼女はこれまで通りに答えを返してきた。

『特にないわよ。浩二君はどう?』

 山坂浩二は彼女の言葉に苛立ちを覚えた。ごまかすつもりなのか。だが、彼はその感情を抑え込んで平静を装い、いつものように言葉を紡ぐ。

「僕のほうも、特にないよ。明日が卒業式で、しあさってから期末テストってことくらいかな、あるとすれば。まあ、家事もちゃんとやってるし、勉強もそれなりに頑張ってるよ」

 我ながらたいした嘘だ、と山坂浩二は思う。この一か月で特別なことがなかったわけがない。最近の出来事は人生のターニングポイントだと言っても過言ではない。それだけのことがあったのに、「特にない」だと?

 笑わせる。

 山坂浩二は冷たく笑って、再び口を開いた。

「そうそう、おばさん。お金ありがとう」

 毎月、山坂浩二は、育ての親から口座に四万円が振り込まれるのを確認して、その金を引き出した後、彼女に電話をかけることにしていた。そして、お礼の言葉を口にする。

 血を分けたわけでもなく、養子でもない山坂浩二を十年間育て、家を離れて一人暮らしをしている今も彼のことを金銭的に支援してくれているのだ。これまでならば心から彼女に感謝することができた。

 だが、今回は違った。感謝はしている。でも、それよりも彼女に対する疑念のほうが勝っていた。

 育ての親、山中久美子の声が受話器から聞こえる。

『そんなに気にしなくてもいいのよ、浩二君。それよりも、そんなに少なくていいの? ひと月四万円でちゃんと暮せているの? 家賃込みだから、生活費は二万円くらいじゃない? しっかりと食べてる?』

 彼女は山坂浩二のことを心配してくれていた。

「大丈夫だよ。それに、あのアパートでいいって言ったのは僕だし、ひと月四万円でいいって言ったのも僕だよ。あと、ずっとアルバイトもしてるから、足りなくなることなんてないよ」

 山坂浩二は彼女を心配させないように嘘をついた。彼女の質問も山坂浩二の返答も毎月同じようなものだ。

高校に入学してから三か月間は、校則で禁止されているアルバイトを毎日のようにしていた。だが、数学教師の谷口正也に見つかったことをきっかけに、彼はアルバイトをすべて辞めたのだ。谷口正也が見なかったことにしてくれたため、彼には処分が下されなかった。本来ならば停学になっていた。それ以来、山坂浩二は谷口正也に頭が上がらない。

 そんなことを思い出しながら、山坂浩二は口を閉じた。収入があるというのは今の彼にとっては、あながち間違いではなかったと思いつつ、言葉を発することはなかった。

 毎月同じような会話をして終わる親子のような二人。

 山坂浩二は威圧するかのように黙った。山中久美子も黙っていた。受話器越しの沈黙。いつもならば、このあたりで通話は終わる。しかし、山坂浩二は通話を終了させはしなかった。彼女に訊きたいことがある。

 だが、それは、山坂浩二が彼女に尋ねることなく、彼女の口から語られて欲しかった。

 でも、それは叶わなかった。

『じゃあ、そろそろ切るわね、浩二君』

 焦ったような声で放たれたその言葉が耳に入った瞬間、山坂浩二は意を決した。自分から訊くしかない。彼女もわかっていたはずだ。この三週間に何があったのかを。そして、彼女の正体も山坂浩二には明かされている。それでも、彼女は隠し通そうとした。ならば、彼女から退魔師についての話がされるはずもなかった。

「おばさん!」

 通話を切られるまえに、山坂浩二は叫ぶように呼びかけた。

『ん? どうしたの? 浩二君』

 そして、逃げるように電話を切ろうとしていた元浄化の退魔師を、彼の声は引き止めた。その勢いのまま山坂浩二は問いかける。

「もう……隠す必要はないよね?」

 彼の声は静かで、芯の通っているものだった。

『隠すって、何を?』

 無駄な抵抗を。育ての親の言葉に、山坂浩二は焦燥を隠しきれなくなった。

「おばさんとおじさんは、昔は退魔師だったんだよね? 十年前に突然の山崩れで壊滅した日吉村の出身なんだよね?」

『な、なんのことかしら』

「とぼけないで」

 山坂浩二は遠回しな表現を使うことなく尋ねた。もちろん、山中久美子は取り合おうとはしなかった。しかし、彼女の発言の直後、山坂浩二は小さくとも鋭い声で彼女の意思を砕いた。

 話すまで、何度も訊いてやる。

 話すまで、何度でも電話をかけ直してやる。

 そんな彼の執念を感じ取ったのか、山坂浩二の育ての親は小さくため息をついて、受話器越しの彼に言葉をかけた。

『……そうよ。それは、秀君から聞いたの?』

 山中久美子の言葉に、退魔師残党をまとめる人物の名前があった。彼女の口からその名前を聞くのは初めてのことなので、山坂浩二はわずかな違和感を抱いた。だが、その名前を乗せた声は、まるで重荷を下ろしたかのように軽いものだった。

「そうだよ。全部、秀さんから聞いてる。それで、おばさんはどこまで知ってるの? 僕と、退魔師残党について」

 そう問いかける山坂浩二の声も重いものではなくなっていた。言葉を交わす二人には、家族のような親密さが生まれていた。

 山坂浩二の育ての親は答える。

『浩二君が香子ちゃんと再会したこと。浩二君が退魔師の力を取り戻したこと。浩二君が退魔師残党に加わったこと。そして、あなたたちが浩二君のお兄さんと香子ちゃんのお姉さんに命を狙われていること。もう全部、秀君と紗夜ちゃんから聞いているわ』

 彼女の言葉を、山坂浩二は黙って聞いていた。

 リーダー達の言葉は嘘ではなかった。

 山坂浩二はわずかな間を置いて口を開いた。

「じゃあ、僕と香子を再会させないように、秀さんと紗夜さんたちに手を貸していたのも本当なんだね」

『……ええ』

 山中久美子の声が弱くなる。こうじときょうこを離れ離れにさせていたことを、彼女も申し訳なく思っているのだろうか。実の母親ではないとはいえ、彼女は山坂浩二のことを誰よりも見てきたのだ。彼が過ごした暗黒の十年間を、彼女はよく知っている。そして、彼女も山坂浩二から距離をとっていた人物の一人だ。

 負い目を感じていないわけがない。

 そう感じた山坂浩二は、柔らかい笑みを浮かべた。

「いや、別に責めてるわけじゃないよ。ただ、本当のことを確かめたかっただけだから。あんまり気にしないで。それに、おばさんは僕を守ろうとしてくれたんだよね。その気持ちだけでも嬉しいよ」

 育ての親は言葉を返さなかった。彼女が今何を思っているのか、山坂浩二にはわからない。だが、彼が過ごした十年間は、彼女にとっても苦しいものだったということは想像がついた。

 だから、もう深入りはしたくなかった。

「おばさんは、どうして退魔師の力を捨てたの?」

 彼は話題を変えた。これも退魔師のことについてだが、彼女に訊いておきたいことだった。このタイミングを逃しては、もう二度と訊けないような気がしていた。

『それは……』

 携帯電話から彼女の声が聞こえてきた。そして沈黙。山坂浩二は、彼女が答えてくれると信じて待った。

 退魔師の力を捨てること。それは今の山坂浩二には理解できないことだった。特別な力を持っているのに、それを使わないことが、彼には愚かなことに思えた。だから、力を捨てた理由を知りたかった。理由もさまざまだろうが、それを訊ける相手は彼女しかいなかった。退魔村壊滅時に力を捨てた者に尋ねるのは無理があった。

 やがて、彼女は言葉を発した。

『自分たちの子どもに、悪霊と戦うという過酷な運命を背負わせたくなかったのよ』

 自分のためではないのか。山坂浩二は少し感心しながら、続けられる彼女の言葉に耳を傾けた。

『だから、私たちは力を捨てて村から出ていった。それから、私は退魔師のパートナーだったたくみさんと結婚して、優太を産んだ。力を捨てれば、退魔師の力が子どもに受け継がれることはないわ。優太にも力は受け継がれなかった。そのおかげで、あの子は過酷な運命を背負わずに生きていくことができているの』

 彼女の言い分はなんとなくわかった。そして、そう決意させる出来事が、彼女にはあったのだろうと考えた。

 山坂浩二は数秒間の沈黙の後、

「そう。村を出ていくことを引き止められたりはしなかったの?」

 と尋ねた。育ての親からの返答は素早かった。

『そんなことはなかったわよ。戦う意志のない人は、力を捨てて村を出て行ってもいいって決まりがあったから。それに、私たちはたいして強くもなかったし。村としては引き止める理由なんてなかったのよ』

 彼女はそこでため息をついた。

『でも、個人的に引き止めてくれようとした人はいたわ。ソウマ君とセイナちゃん、それからリョウヤ君とリンちゃん。浩二君のお父さんとお母さん、香子ちゃんのお父さんとお母さんよ』

「僕の、お父さんとお母さん?」

 山坂浩二は思わず聞き返した。

『そうよ。早朝の早に馬と書いて早馬そうま君。神聖、聖なるの聖に菜っ葉の菜と書いて聖菜ちゃん。私より十四も年下よ。私がちょうど二十歳のときね。村を出ていこうとしたときに、あの子たちだけが私たちを引き止めようとしてくれたのよ。とても嬉しかったなあ』

 話がわき道に逸れてきたが、山坂浩二は話をもとに戻そうとはしなかった。実の両親のことを、少し聞きたいと思った。

 山坂浩二は歩くのをやめた。彼が立ち止まったのは、ちょうど未来橋付近の坂道の手前だった。

「そうなんだ。ねえ、僕の本当の親ってどんな人だった?」

『とても元気で、ちょっと怒りっぽかったな。でも、根は優しい子だったわ。やっぱり、親子なだけあって、浩二君にも二人の面影があるわね。どちらかと言えば、聖菜ちゃんに似てるけど』

「ふうん」

 昔を懐かしむかのような声に、抑揚のない返事をしてしまったが、山坂浩二は素直に嬉しくなった。記憶にはなく、もう会うこともできない両親のことを、少しだけでも知ることが嬉しかった。

 しかし、あまり会話を長引かせるのも良くないと思い、話題を少し変えることにした。

「優太兄さんは元気?」

 山中優太。彼は山中久美子の実の息子であり、彼の十歳年上の男性だ。高校は全寮制の学校に通い、高校卒業後は県外で就職したため、山坂浩二と顔を合わせることは滅多になかった。だが、血の繋がっていない山坂浩二のことを快く迎えてくれたし、実家に帰ってきたときはよく山坂浩二と遊んでくれていたので、山坂浩二は彼のことをよく覚えていた。

 彼は、山坂浩二にとっては兄のような存在だった。

『元気よ。浩二君にも会いたがっていたわ』

「そうなんだ」

 山坂浩二の頬が自然と緩む。

「あの人、まだ結婚してないの?」

『うん。早くしてもらいたいところだけどね。まあ、本人の自由よ、そこは』

 育ての親がそう言ったところで、二人の間に沈黙が訪れた。話題を変えたせいで話が続かなくなってしまった。だが、聞きたいことは聞いた。もう、無理に話そうとしなくてもいい。

 山坂浩二は通話を切ると宣言しようとした。しかし、

『浩二君』

 という彼女の言葉で、宣言できなかった。

「なに?」

 山坂浩二は食いつくように反応した。彼女の声が切羽詰っていたように思えたからだ。そして、育ての親は言った。

『絶対に死なないでね。浩二君にとって私は本当の母親じゃないけど、私にとって浩二君は実の息子と同じくらい大切なんだから』

「うん」

『それで、春休みは顔を見せに帰ってきてくれると嬉しいわ』

「うん」

『言いたいことはそれだけよ。じゃあ、そろそろ切るわね』

「うん」

 そこで、通話は終了した。山坂浩二は「うん」以外に話せなかった。山坂浩二にとって、彼女は家族だった。距離を置かれても、彼女は自分のことを家族だと思ってくれていた。そのことが嬉しくて、何を話せばいいのかわからなくなった。

 それさえも理解してくれたのか、彼女は電話を切ってくれた。これ以上会話を続けていたら、何かが溢れ出してしまいそうだった。

 山坂浩二は携帯電話をポケットにしまい、坂道を上り始めた。

(わかったよ、おばさん。春休みに帰省できるように頑張るよ。日本を滅ぼせる力を持った悪霊使いなんか、返り討ちにしてやる。満月の夜の俺には、それだけの力があるはずだ。実の兄だかなんだか知らないが、負ける気なんかないよ)

 山坂浩二は決意を新たにする。そして、自分たち残党がたった二人に負けるはずがないと確信する。

 山坂浩二の戦う理由。それは、悪霊を苦しみから解放してやるため。何事にも真剣になれなかった自分を変えるため。そして、強大な敵から自分たちを守るため。これらはすべて、それだけの力が自分に宿っていると信じているからこそ成り立っているものだった。

 山坂浩二は上り坂の終盤に差し掛かった。

 そこで、ふと、右側から一人の男が現れた。

 その時! 信じがたいほどの強烈な悪寒が彼を襲った!

 身動きがとれない。呼吸さえもできない。一瞬の出来事が、まるで時が止まったかのように感じられた。

 その男が山坂浩二の前を横切った後、彼は悪寒から解放された。

 汗が噴き出てくる。呼吸が荒い。山坂浩二は鋭い目つきでその男の背中を見る。足首まで届く黒いコートを身に纏っている。黒い髪は長くて顔はよく見えなかった。身長は山坂浩二よりも少し高く、全体的に線は細い。

 その男は未来橋を渡っていく。やがてその姿は見えなくなった。

「いったいなんだったんだ? さっきのは。気のせいか?」

 山坂浩二はその男の歩いた道を睨み続けたが、

「いや、考えても無駄か。気のせいということにしよう」

 と呟いて道路を横断し、自室のあるアパートへと向かって行った。




 このとき彼は気づいていなかった。土曜日の夕方だというのに、未来橋付近には人の気配がまったくなかったということに。そして、今日は新たな始まりを象徴する、新月の日だということを、山坂浩二は忘れていた。








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