表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ムーン・ライト  作者: 武池 柾斗
第一章 覚醒編
11/95

エピローグ いつかきっと……

 翌日の昼。

 山坂浩二と月影香子は二人並んで銅鏡川に沿う道路を歩いていた。昼ということもあってか、何台かの自動車が二人のそばを走っていく。

 山坂浩二は学生服を着ていて、黒色のスポーツバッグを肩に掛けて背中に回している、というお馴染みの格好をしている。

 月影香子は紺色のセーラー服を着ており、黒色の手提げ鞄を左手にぶら下げている。スカートは膝を隠し、腰まで届く髪は下ろされていた。

 二人はそれぞれ、山坂浩二が右側を、月影香子が左側を歩いている。二人は決まりを無視して道路の左側を通行していた。

 月影香子が鞄を持ったまま、両手を高く挙げてのびをした。

「あー疲れた。土曜補習って、ほんとにめんどくさいよね」

 彼女は歩きながら、隣にいる山坂浩二に向けて言った。

「……同感」

 山坂浩二はズボンのポケットに両手を入れて、前を向いたまま、目をだらしなく開けて答えた。

「まあ、午前中で終わるってのは嬉しいんだけどね」

「でもめんどくさいじゃない。一つの授業につき六十分よ。普通のやつより十分も長いのよ。ほとんど嫌がらせよ」

 月影香子は両手を頭の後ろで組んで、山坂浩二に顔を向けた。山坂浩二もゆっくりと彼女に顔を向ける。

「じゃあ、補習が八十分授業の三年生とかはどうなるんだよ。……しかも、今は受験対策とかなんかで夕方までやってるらしいよ」

 山坂浩二はため息をついた。

 月影香子は目を見開いて山坂浩二を見つめる。

「……は、八十分? いやよそんなの! 無理ムリムリ。絶対やだ」

「受験生なんだから仕方ないでしょ」

「でもやだ。受験生なんていやだ。うちの学校、たいしたことないくせに進学校ぶるからいやなのよ」

「でも、一応……県内公立高校じゃあ、突き抜けてるんだけど……」

「それがなんなのよそれが。関係ないわよ」

 月影香子は不満を言う。山坂浩二はため息をついた。

「香子……。この前の校内模試、何番だった? そんなに文句言うんだから結構上の……」

「下から二番目」

「……え!?」

 一瞬。二人の時間が止まった。山坂浩二は目を見開く。

「下から二番目って、おい。……なにやってんの?」

 山坂浩二は信じられないといった目で彼女を見つめながら尋ねた。それに対して月影香子は表情を変えない。

 平然としている。

「……だって。勉強する時間なんてほとんどないのよ。勉強してないんだから当たり前よ、あ・た・り・ま・え」

 月影香子は前を見ながら鼻で笑う。

「担任がうっとうしいのよ。もっと勉強しろだって。悪霊に追われて勉強する時間なんてなかったんだから」

 月影香子は眉をひそめた。

「……だいたい、そういう浩二は何番なのよ」

 彼女は目を細め、横目で山坂浩二を見ながら尋ねた。山坂浩二は右手を顎に当て、しばらく考えた後、

「……だいたい、真ん中ぐらいだったかな」

 と言った。月影香子は目線を前に向け、再び鼻で笑う。

「まあ、浩二らしいっちゃ浩二らしいわね」

「あっそ」

 二人は無言になり、ただ歩いていくだけになった。未来橋近くの坂道を上り、道路を自動車が走っていないか確かめ、車道を横切った。

 山坂浩二が坂道を下ろうとした時、彼は左腕を掴まれた。ポケットに入れていた左手がポケットから出ていった。

 山坂浩二は後ろに振り向いた。自分とほとんど身長の変わらない月影香子が腕を左手で掴み、山坂浩二の目をまっすぐに見つめていた。

 頬が少し赤みがかっている。

「……あ、あのさ、浩二。せっかくだからさ。あたしの家でお昼ご飯食べていきなさいよ」

 彼女は目線を山坂浩二から左下に向け、

「ぐ、偶然帰り道でいっしょになったんだからさ」

 と言った。

 山坂浩二は月影香子を無言で見つめる。月影香子は再び山坂浩二に目線を向けた。彼女は顔をさらに赤くしながら眉をひそめる。

「……な、なによ?」

 山坂浩二は鼻で笑った。

「『偶然』、ねぇ。……俺には香子が、校門で待ち構えていたようにしか見えなかったんだけど」

 ニヤニヤ。山坂浩二は笑う。

 すると、月影香子は顔をさらに赤く染め、山坂浩二の左腕を掴んでいた手を離した。そして、両手をにぎりしめて身体の横で伸ばし、顔だけを山坂浩二に少し近づけた。

 山坂浩二は少しのけ反る。

「うるさい! 偶然ったら偶然なのよ! 別に二十分も待ち構えたりしてないんだから! 偶然なの!」

 山坂浩二は顔を赤くしながらも、引き攣ったような笑みを浮かべた。

「……二十分。待ったんだ」

「待ってないわよ!」

 月影香子は身体を左側に向けながら、右手で山坂浩二の左手を掴んだ。そして、顔を赤くしたまま未来橋を渡り始める。

 山坂浩二も彼女につられて歩き出す。

「お昼ご飯強制! 食べていかないと許さない!」

「えっ、えっ、ちょ、ちょっと香子!? 待って。待ってよ」

「いや、待たない。浩二の意見なんて聞かないんだから!」

 月影香子は山坂浩二の腕を引っ張りながら歩く。

 山坂浩二は一度ため息をついた後、素直に彼女に従った。


 未来橋には片側一車線道路があり、その両端には車道とほぼ同じくらいの幅をもつ歩道が通っている。

 手摺りの部分は太く、朱い。歩道の車道すれすれのところに、街灯が左右対称で等間隔に並んでいる。

 さらに、橋の右側の遠く離れたところには水色の橋が見え、左側の遠く離れたところには茶色の橋が見えている。

 また、未来橋は緩やかなアーチ状になっている。そのため、山坂浩二と月影香子は今坂道を歩いているような気分になっている。




 橋の中央まで歩き、ようやく下り道になるかと思われたとき、月影香子は足を止めた。つられて山坂浩二も足を止める。

 月影香子は振り向いて山坂浩二と向き合った。

「ねぇ浩二」

「なに? 香子」

「昨日はありがとう。助けてくれて」

 月影香子は微笑みを浮かべた。山坂浩二は顔を赤く染める。

「そ、そんなにたいしたことじゃないよ。……力に任せて、ただ、暴れるだけ暴れただけだし……」

 山坂浩二は彼女から目をそらした。月影香子は首を横に振る。

「ううん。そんなことないよ。……浩二が襲われたときにねあたし、勝手に浩二が死んだと思ってね。それで、自棄やけになって悪霊を斬れるだけ斬ってた」

 月影香子はまっすぐに山坂浩二を見つめる。

「……そしたらね。なんて言うのかな。霊力の爆発? みたいなのが起きて、気づいたら浩二が立ってたんだ。……私、信じられなかったけど。嬉しかった」

 山坂浩二は月影香子に目線を向けた。彼女の目には、少し水のようなものが溜まっている。月影香子は続ける。

「それで、一緒に戦ってくれて嬉しかった。香子って呼んでくれて嬉しかった。『ただいま』って言ってくれて嬉しかったよ」

 微笑みを浮かべる彼女の目から、一粒の水滴が流れ落ちた。でも、それ以上は落ちてはこなかった。

「……ねぇ浩二?」

 彼女は山坂浩二をまっすぐに見つめる。


「思い出してくれたの?」


 二人の間に、わずかな静寂が訪れる。

 その後、山坂浩二は口を開いた。

「……ちょっとだけね。戦いは、身体が勝手にやってくれた感じ……かな」

 山坂浩二は目線を下げ、自らの右手を見つめる。

「もう、今はあんなに大きな力は残ってない。……昨日のに比べたら、今のは、ほんの残りカスぐらいかな」

 山坂浩二は目線を上げた。月影香子は微笑みを浮かべたままだった。

「それが浩二なの。……月に一度、もっと言えば、三十日に一度の最強。……それが浩二なんだから」

 月影香子は山坂浩二を見つめる。

「……これから、浩二も悪霊に襲われちゃうんだね。……でも大丈夫。あたしが浩二を守ってあげるから」

 山坂浩二は無言のままだった。月影香子は続ける。

「ええと、あと、その……」

 ためらい。風。そして。



「待ってるからね」



 山坂浩二は首を傾げた。

「……えっ? なにを?」

 月影香子は首を横に振る。

「ううん。なんでもない」

 彼女はそう言うと、山坂浩二に背中を向けた。腰まで届く、長い、黒髪が、風でなびき、揺れる。

 月影香子は歩き出した。山坂浩二も、彼女を追ってゆっくりと歩き出した。自転車が一台、二人の横を通っていった。

 山坂浩二は歩きながら再び自らの右手を見る。

(……待ってるって、もしかしたら『満月の夜じゃなくても強くなる』って約束のことなのかな。……二人で助け合えるぐらいに、俺が、強くなることなのかな)

 山坂浩二は前を歩く月影香子に目を向けた。腰まで届くほど長く、艶やかな黒髪。その先端が彼女の歩調に合わせて揺れ、髪と髪の間を開けたり閉じたりするのを繰り返している。

 山坂浩二は再び目線を下げて自らの右手を見つめた。

(結局、満月の夜だけ幽霊が見えたのは、俺が満月のときだけ最強になる退魔師だった頃の名残だったんだ……)

 では、何故自分は力を失ったのか。何故、記憶を失ったのか。何故、香子以外の女の子に避けられるのか。

 わからないことがいっぱいある。

 退魔師についてもよくわからない。退魔村についてもよくわからない。……ただ、自分はよくわからないまま力を手に入れ、戦い、そしてこれからは悪霊に追われる運命にあるのだろう。

 ……でも大丈夫。

 一人じゃないから。

 だって、香子がいるから。

 霊力は最弱でも、くじけない。

(……強くなろう)

 山坂浩二は右手を握り締め、目の前の月影香子に目線を移した。


 月影香子は歩きながら青く、雲一つない空を見上げた。

 そして、後ろにいる山坂浩二に聞こえないように、小さな声でもう一度呟く。


「……待ってるからね」




 二人の物語は、まだ始まったばかり……。









 ……えっと、一応、これで『ムーン・ライト《第一編》』は終了です。やっと、物語の一割が終わりました。


 『ムーン・ライト』はまだまだ続きます。


 さて、この《第一編》のテーマは、簡単に言うと『よくわからない』です。


 もう少し踏み込んで言いますと、『自分がわからない』、『相手がわからない』、『物事の全体像がわからない』です。


 この物語は三人称ですが、今回は山坂浩二に沿うかたちにさせて頂きました。


 キーパーソンである月影香子からの視点は、できるかぎり省きました。


 そのため、かなり薄い物語になってしまいましたし、拙い文章力のためにテーマを上手く表すこともできませんでした。


 ほんとは、もう少し『山坂浩二の自分探し』を表現したかったのですが、先程も言いましたとおりに、可哀相なほど文章力がありませんので表現できませんでした。


 それでも、ここまで読んで下さった方には感謝の気持ちでいっぱいです。




 さて、次からはバトルものになっていきます。


 そして、次はバトルものの第二話では定番の展開になります。そして、月に一度の最強から、一転して霊力最弱となった山坂浩二の戦いを描きます。


 また、退魔師と退魔村についても触れていきます。月影香子からの視点も増やします。


 そして、気になる『あの人』の正体も明かされます。


 期待しないで待っていてください。




 山坂浩二と月影香子の物語とともに、作者の成長も見届けて下さると嬉しいです。




 とりあえずは大学受験に向けて勉強しなければなりません。一旦投稿は中止させていただきますが、合格できたら再開する予定です。




 最後に感謝の言葉を。


 友人のK君、T君。このようなくだらない作品を、応援して下さってありがとうございました。これからもよろしくお願いします。


 お気に入り登録して下さった方。あなたの存在が励みになりました。おかげさまで無事、《第一編》を書き終えることができました。本当にありがとうございます。


 そして、この作品をここまで読んで下さった方に最大級の感謝を。


『ムーン・ライト』はまだまだ続きます。これからも読んで下さると嬉しいです。


 よろしければ、感想もよろしくお願いします。




 それでは、また会いましょう。




 ……ヘンタイ六人衆の出番は増えるのかな?







 2011年 10月26日  武池 柾斗








※この物語はフィクションです。実在の人物、団体等とは一切関係ありません。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ