憂鬱
その日の放課後。
視聴覚室でゴリラのマーチ隊の入隊式が行われた。
新しく入隊する新鋭ゴリラ達の顔はどこかさえない。
まるでハンターに捕獲され、これからサーカスで曲芸をやらされる事に恐怖を感じている様だ。
いや、失望といったところか。
くどくど夏に向けて頑張ろうという話があって、団長が最後に話を切り出した。
ゴリラの隊長とは思えないような、こんがり焼けた肌のとても爽やかな先輩だった。
「応援団に入ってくれてありがとう。多分嫌々で選ばれて気分が乗らないやつもいると思う。おれが2年生の時もはじめは嫌で仕方なかった。けど、選ばれたからには全力でやってほしい。では今日からから練習をスタートするから遅れないように放課後応援団室に集まってくれ。」
まじかよ…今日からとか最悪。
その日の残りの授業は憂鬱だった。
おれがモテたいって思ってたのはなんだったんやろ。
本当なら今日、軽音楽部に入部届を出して秋の文化祭では一躍人気者のはずやったのに。
おれの高校生活が終わった。そんな気さえした。
そんなことを考えていると授業も身に入らない。
いや、いつもやけど。
刻々と時間は過ぎて気がつけば放課後となっていた。
これから部活に向かうであろう友達は、楽しそうに談話しながら軽やかに下駄箱で向かう。
おれはというと足が重い。気も重い。
ただずっとボケーっと自分の席に座っていた。
ただただ行きたくない。
「いかないの。」
急に小さな声で話しかけてきたのは、山田だった。
こいつはいつも静かでみんなとつるんで騒いだりもしない。
でも優しそうな顔した多分ただのいいヤツだ。
「ん…あぁ。いくけど…あれだよね」
と敢えて気が抜けた返事を返してみた。
応援団なんか行きたくねぇよ。お前もそうだろ?って共感して欲しかった。
でも山田の反応は期待を裏切った形だった。
「早くしないと怒られちゃうよ、いこ。」
「お、おう…」
なんだこいつ。行きたいのか。
むしろ応援団フェチか…なんて変な事考えながらおれは重たい腰を挙げて応援団室へ向かった。
おれは応援団室に向かいながら核心に迫ってみた。
「あれだよね…応援団とかダリいよな。」
「選ばれたから仕方ないよ。」
やはりこいつも嫌なんだろうな。ちょっと安心した。
その言葉を聞いて自分の素直な気持ちが溢れ出た。
「だよな!!面倒くさいよな!!じゃぁさ、サボって今日は帰ろうぜ!!」
「それはダメだよ。」
くそ優等生が。山田は静かな性格の通り勉強も出来て、先生にも好かれる優等生だった。
片やおれは、ギャーギャーうるさく先生にも睨まれる劣等生。
こいつといるとなんかバカがばれてしまうようでちょっと窮屈な気分だった。
「お前、応援団いやじゃねぇのかよ。」
「嫌だけど…やってみなきゃ分かんないよ。」
「なんでだよ、あんなくそダセぇこと出来るかよ。」
山田は、一瞬ムッとした表情を見せた。
「でも人が一生懸命やっていることにダサいとかないよ。やったことないのに悪口行ったりしたらダメだよ。」
おれもムッとした表情を返し
「ダセぇもんはダセぇよ。」
と吐き捨てるように返した。山田に話してもわかんねぇよこの気持ちは。
そんな会話を交わすうちに応援団室は近づいていた。
どこか気が重かった。