祝福の子
面白かったら反応、応援よろしくお願いします!
目を覚ました瞬間、俺は泣いていた。
いや、正確には――泣くことしかできなかった。
「おぎゃあ……!」
高く澄んだ声が、自分のものだと理解するまで数秒かかった。
(……え?)
視界はぼやけ、身体は重い。手足は小さく、指は短い。
(まさか……赤ちゃん?)
次の瞬間、柔らかな声が降ってきた。
「おめでとうございます、奥様。元気な男の子でございます」
豪奢な天蓋付きのベッド。刺繍入りのカーテン。磨き上げられた大理石の床。
(……あれ? これ、思ってた異世界よりだいぶ裕福では?)
前世の記憶ははっきりしている。
一ノ瀬海斗。
ブラック企業勤務。要領が悪く、仕事も遅く、怒鳴られ続けた日々。
そして――過労死。
(ああ、そうか。女神様に会ったんだったな)
「よく来てくれましたね、アレス」
母親らしき女性が、涙を浮かべながら微笑んでいる。
その瞳には、打算も期待もない。
ただ、純粋な愛情だけがあった。
(……ああ)
前世では、こんな目で見られたことはなかった。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
(ん?待てよ?今記憶あるってことは...嫌な予感しかしない。こういうのって最初は記憶無くて後から記憶戻るものなんじゃないの...?)
そのとき、ふと女神の顔が脳裏に浮かんだ。
『あっそういえば……ま、いっか!』
(あの人……絶対これ言いかけてただろ!!)
前世の記憶がある。
つまり、中身は大人。
なのに。
これから先――
着替え。
食事。
風呂。
排泄。
全部、人に世話してもらわないと生きていけない。
(……終わった)
精神的に死ぬ。
絶対死ぬ。
「おぎゃああああ!」
「あらあら、元気な子ね」
「奥様、公爵様がお見えになります」
公爵?
その単語に、心臓が変なリズムで跳ねた。
(……いや待って。貴族ってこと?しかも公爵?)
要領の悪かった俺が、貴族社会とか生き抜ける気がしないんだけど。
扉が勢いよく開いた。
飛び込んできた男は、公爵らしからぬ慌てぶりだった。
使用人たちが一斉に頭を下げる。
(え、これ公爵?)
長身で整った顔立ち。服装も立派。
でも目が完全に父親だった。
「……この子が?」
そっと近づき、恐る恐る俺を覗き込む。
そして――
「ちっちゃい!!」
なぜか感動したように目を輝かせた。
(いや赤ちゃんだからね?)
「抱いてもいいか? いや待て、力加減が……大丈夫か? 本当に?」
母が微笑みながら頷くと、慎重すぎる動きで俺を抱き上げる。
腕は硬いのに、扱いは驚くほど丁寧だった。
「……軽い。こんなに軽いのか……」
俺の指が無意識に彼の指を握る。
公爵、停止。
「……握った。今、握ったぞ」
使用人の方を見て真顔で報告する。
「見たか?」
「はい、公爵様」
「記録しておけ」
(いや何を!?)
「寒くないか? 暑くないか? この部屋の空気は最適か?」
次々に指示を出しながら、視線は一瞬も俺から離れない。
(……この人、絶対溺愛するタイプだ)
溺愛父さん普段は威厳があるんです...本当に...




