9.どんな俺でも受け入れてくれる?
なんだか周りの反応が変……?
翌朝、いつものように出社した彩葉はひそひそと少し離れた場所で話す女性社員と、上から下まで舐めるように見てくる男性社員たちの気持ち悪い視線に鳥肌が立った。
パソコンをつけ、メールとメッセージを確認すると、未読が22件。
昨日の帰りに全部確認して帰ったはずなのに?
メッセージは今まで連絡を取っていた人というよりは、名前も見覚えのない人たちばかり。
誰だろうと思いながらメッセージを開けた彩葉は、内容に驚いた。
『今日の夜、俺とどう?』
『誰とでも寝るって本当?』
『根暗でもいいんだよね。容姿はこだわらないってこと?』
開いても開いても業務とは関係ないことばかり。
それどころかホテルに誘うような内容ばかりのメッセージに彩葉は気持ちが悪くなった。
見えないようにタスクバーに最小化しても、右下にどんどんメッセージが表示される。
一体どういうことなのか。
怖くなった彩葉は震える手でスマホを掴み、凌にメッセージを送った。
『嫌がらせ?』
『わからない。どうして急に』
『すぐセキュリティ扉の前に迎えに行く』
本当は甘えてはいけないとわかっているのに一人ではどうにもできそうにない。
普段なら話ができる女性社員たちとは目が合わず、避けられている気がするからだ。
『ついたよ。出られる?』
凌のメッセージに縋るかのように、彩葉は部屋を飛び出す。
ついさっき離れたばかりの凌に震える手でしがみついた彩葉を、凌はしっかりと支えてくれた。
「こちらへ」
ひそひそと話される妙な雰囲気の中、凌は彩葉をエレベータに乗せる。
一階の応接室に連行された彩葉は、ただの会議室ではなかったことに慌てた。
「ここ、応接室!」
すぐ出なきゃと扉に手を掛ける彩葉は凌に後ろから抱きしめられた。
「大丈夫。それより何があったか教えて」
「でも」
「大丈夫だから」
凌は彩葉をふかふかのソファーに座らせるとスマートフォンを操作する。
操作し終わった凌はスマートフォンを胸ポケットにしまうと、彩葉の隣に座った。
「詳しく教えて」
「それが……」
彩葉は変なメッセージがたくさん来ていたこと、社員たちがいつもと違ったことを話す。
「メッセージを見てもいいか?」
「あ、でもパソコンは執務室に……」
「大丈夫」
これでもエンジニアだぞと凌は彩葉の頭を引き寄せた。
突然のノックの音に彩葉の身体がビクッと揺れる。
「失礼します」
引き寄せられた彩葉からは声の主の姿は見えない。
テーブルに何かを置くような音や、氷のカランという音が聞こえたが、何が起きているのかわからないまま扉を閉じる音が聞こえた。
「……え?」
ゆっくり頭を話された彩葉はテーブルに置かれたノートパソコンと飲み物に驚く。
凌はパソコンの電源を入れると、応接室の大きなモニタと接続した。
カチャカチャとすごいスピードで打ち込まれていくキーボードは、さすがシステム開発部のエンジニアだと言えばいいのだろうか?
大きなモニタに映っている黒い画面が何をしているのかはわからない。
白い文字がどんどん流れ、画面が立ち上がっては消え、立ち上がっては消えを繰り返したあと、凌は眉間に皺を寄せた。
「……ひどいメッセージばかりだな」
今もまだ受信し続けていると言われた彩葉は身震いした。
「俺のせいだ」
すまないと謝罪しながら凌は一枚の写真をモニタに映し出す。
その写真は昨日の帰り、車で帰るところを写したものだった。
「調べてもらうから、少しだけ時間が欲しい」
「お願い……します」
どうやって調べるのかまったくわからないけれど、私にできることはきっと何もない。
誰がどうしてこんなことを?
泣くのを我慢したいのに彩葉の目からは勝手に涙が溢れ、嗚咽を止めることもできない。
マンションは流星が来るかもしれないから帰れない。
変なメッセージが来るから会社にもいられない。
もうどこにも居場所がなくなってしまった。
「彩葉、ごめん」
どうして凌が謝るの?
「もっと気をつけなくてはいけなかったのに」
荒巻流星を遠ざけることしか考えていなかったと謝罪しながら、凌は彩葉を抱き寄せた。
「俺にまかせてくれる?」
凌に聞かれた彩葉はコクコクと頷く。
「どんな俺でも受け入れてくれる?」
どれはどういう意味だろうか?
「好きだよ、彩葉。俺と結婚してくれる?」
こんな時に言うのはズルいけれどと付け加えながら、凌は彩葉の耳元で囁いた。




