12.根暗エンジニアの正体は?
翌朝、会社の掲示板には転勤者、懲戒解雇、減俸の貼り紙が出された。
鹿児島に転勤となったのは営業部の荒巻流星。
悪質な嫌がらせで懲戒解雇にされたのは、営業部の堀田莉緒。
セクハラ行為で懲戒免職にされたのはいろいろな部署の男性3人。
同じくセクハラで3日間の出勤停止と3ヶ月の減俸になったのは男性5人だ。
彩葉が許せないとチェックしたメッセージは、実はたった3人から送られたものだった。
チェックした時には、誰からのメッセージとはわからないようになっていたけれど。
彩葉は我慢できると思ったが、人事部長が確認し、アウトだろうと思った5人は減俸に。
部署も名前も、そしてどんなメッセージを送ったのかまで晒されてしまった彼らは、みんなに白い目で見られながら逃げるように去って行った。
「なんで、この並びで転勤の知らせが貼られるんだよ」
俺まで悪いことをしたみたいだと項垂れた流星を横目に、莉緒は「なんで私が解雇なのよ!」と騒ぐ。
営業部のみんなは二人から距離を取り、できるだけ関わらないようにしようと目を逸らした。
「なんであの女が専務と一緒なのよ!」
営業部のフロアに現れた専務と彩葉の姿に周りがざわつく。
どういうこと? と莉緒に聞かれた流星は、わからないと首を横に振った。
「荒巻流星。先ほど転勤先の鹿児島の会社から、移籍依頼があったから了解しておいた。向こうでがんばれ」
「……移籍って、二度とここに戻れないってことですか?」
「あぁ。もううちの社員ではないから、今日中に荷物をまとめて出て行ってくれ」
目を見開きながら「どうして」と呟いたあと、流星の怒りは彩葉に。
「おまえがなんか余計な事を……!」
殴りかかりそうな勢いの流星を凌は止める。
「俺の婚約者に触れないでもらおうか」
「婚約者……? は? 彩葉おまえ、あの根暗エンジニアはどうしたんだよ」
「嘘でしょ? そんな女よりも私の方が若くて可愛いのに! あんた根暗エンジニアと毎日ホテルに行ってるんでしょ!」
あ~~、待って。ふたりとも。根暗エンジニアって凌のことだよね?
この場で正体を知っているのは営業部の部長のみ。
営業部長、笑い堪えてますよね?
「根暗エンジニアと彼女はお似合いだと?」
「そうよ! この女には根暗で十分よ!」
「俺は……、彩葉は俺と……鹿児島に」
彩葉は最低な女だと大きな声で騒ぐ莉緒と、煮え切らない流星の姿に彩葉は溜息をついた。
「ねぇ、どうしてそんなに嫌われないといけないの? あなたとは特に接点がなかったと思うんだけれど」
BBQの日まで、私はこの子を知らなかったし、たぶん流星と付き合わなければそのまま知らない子だった。
逆の立場で、彼を奪われたのだったら嫌がらせもするだろうけれど、私が取られた方だ。
「私が入社した時、あんた手伝いしてたでしょ」
「……私が手伝ったのは、去年? え? 去年の新人さんなの?」
ということは、この子は23歳だ。
どうりで若いと思った。
「私が一番可愛いのに、同期の男たちがあんたみたいな優しいお姉さんがいる会社でラッキーって言ったのよ!」
許せるわけないじゃないと莉緒は地団駄を踏む。
嘘でしょ、そんなくだらない理由?
「だから営業部で一番カッコいい流星に声をかけたの。私と並んで歩いても遜色ない男だと思ったから」
莉緒は「だけど……」と言いながら、凌をうっとりと見つめた。
「専務の方が断然素敵~! どうしてもっと早く姿を見せてくれなかったんですかぁ?」
こんなカッコいいと知っていたら、転勤するような男と付き合ったりしなかったと莉緒は自分勝手に話し出す。
周りから「ひでぇ」と誰かが呟く声が聞こえた。
自業自得だが、ショックを受けている流星がほんの少し可哀想だ。
同じ部署だったんだから、もう少しこの子のことを見ていればわかっただろうに。
「何度も会ったが?」
「えぇ~? そんなの嘘! こんなにカッコいいのに忘れるはず……」
凌はセットされた髪を崩し、ボサボサに。
ポケットから黒縁眼鏡を出すと、システム開発部の九条凌の姿に。
「根暗エンジニアで悪かったな」
その後、営業部がパニックになったのは言うまでもなく、流星はあっさり鹿児島へ。
莉緒は退職となった。
◇
そして、専務に戻った凌と秘書の彩葉は、一年後に結婚式を挙げた。
余興は「誰が本物の専務でショー」というみんなが根暗エンジニアの真似をして本物を見つけるというゲームだった。
そんなのすぐにわかるのに。
「では、見事に正解した新婦に、新郎から熱いキスを!」
部長、そんな話は聞いていません!
逃げる間もなく捕まった彩葉に熱いキスが降り注ぐ。
盛大な拍手の中、真っ赤な顔の彩葉に凌は「続きは夜に」と囁いた。
END
リアクション、ブックマーク、評価をいただいた方、本当にありがとうございます。
執筆の励みになっています。
根暗エンジニアのお話はこれで完結です。
最後までご愛読ありがとうございました。




