11.BBQ大会は口実?
会社の地下駐車場に到着し、エレベータを登ると守衛さんが帽子を取って挨拶してくれる。
守衛さんも正体を知っていたってことなんだ。
地下駐車場を使えるのも専務だったから。
やっとわかるなんて、私って鈍感なのかもしれない。
普段歩かない廊下を歩くと、茶色い「社長室」と書かれた扉が現れる。
彩葉は凌に連れられ、社長室に足を踏み入れた。
社長はいつも遠くから眺めるだけで、話す機会などない遠い存在だったのに。
彩葉は目の前に座っている社長に、さっき習ったばかりのお辞儀をするだけで精一杯だった。
「なんだか大変だったみたいだね?」
「お騒がせして申し訳ありません」
もう一度お辞儀をしようと思った彩葉は、凌に腰をグイッと引っ張られ、お辞儀ができない。
「彼女と結婚する」
突然のカミングアウトにも「そうかそうか」と頷いてくれる社長が彩葉には不思議でたまらなかった。
取引先のお嬢様にしなさいとか、そんなトラブルを起こす子はやめなさいとか言わないの?
どうして?
「やっと手に入れたのか」
よかったなと微笑んでくれる社長に、彩葉は首を傾げた。
「……やっと?」
「BBQは君と出会うための口実だよ」
答えにくそうな凌の代わりに社長が秘密を暴露する。
「三部署が合同なんて、変だと思わなかったかい?」
「……少し不思議な組み合わせだなとは思いましたが」
でもありえなくはない。システムを作っている人たちと、売っている人たち、そして問い合わせ窓口だ。
うまく回せば、よりよい製品ができあがるから、そのための人脈作りだと思っていたけれど。
「客だけでなく社内の人間に対しても丁寧な対応をする君のことが気になり、こっそり会いに行ったら一目惚れし……」
「ちょっと、勝手にバラさないでください!」
手で顔を押さえた凌の顔は真っ赤だ。
まさか、本当に? 私に一目惚れ……? 嘘でしょ?
「凌のことを頼んだよ」
「は、は、はいっ。こちらこそよろしくお願いします」
これってお父さんに認めてもらったってことでいいのかな?
気づいてしまった彩葉の顔も真っ赤に染まる。
「あとの処理は、凌に一任する」
「ありがとうございます。社長」
社長室を出たあとは、今朝の応接室へ。
パソコンも全部そのままにされていた応接室に彩葉は驚いた。
今日一日、この応接室を占領していたということだ。
「彩葉。見るのもイヤだと思うけれど、このリストのメッセージを分けてくれる?」
「分ける?」
凌がパソコンで表示したのは、よくある普通の表計算ソフトに書かれたリストだった。
「このメッセージの中で、許せないものにチェックを入れてほしい」
「いくつでも?」
「もちろん」
彩葉宛てに届いたメッセージには酷い言葉もあれば、軽いノリで食事に行こうよ程度のものもあった。
中には読んだだけで気持ちが悪くなるようなメッセージまで。
50件を超えるメッセージから許せないものを選び終わった彩葉は、精神がゴリゴリ削られてしまった気がした。
「ごめん。疲れたよね」
もう髪型も眼鏡もいつも通りに戻った凌に抱き寄せられた彩葉は、充電させてと凌に擦り寄る。
「それは、我慢できなくなるから、困るけど……」
そう言いながらもしばらく抱きしめていてくれる凌に、彩葉の気持ちは満たされた。




