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真面目で何が悪い  作者: 桜庭


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28話

 

 ディートハルト=フォン=ノイマンは、ニコラの言葉通り、大層整った顔立ちをしていた。


 神経質そうな表情で、ジロリとその場にいる全員を見渡す。そして、端正な声で「俺の質問に答えろ、デニス」とこちらを向いた。

 目の前に立つ年若な少年が、肩を震わせながら小さく返事をする。どうやら彼のことらしい。


 シュタルクの少年が何かを言おうとしたが、年長の彼が少年を後ろに追いやった。デニスが恐る恐る口を開く。


「あの……ディートハルト様が、お気になさるような事は何も、」


「それは俺が判断する事だ。使用人風情が勝手に決めるな。おい、オットー」


 はい、と今度は最初に私と対峙した年長の少年————オットーが口を開く。


「ルイスがヘマをやらかした為、少し灸を据えていたのですが……思いの外、時間がかかってしまいまして……」


「それで、俺の迎えが遅れたわけか」


「……大変申し訳ありませんでした」


 深く頭を下げるオットー。低く下げられた頭の下で、彼が歯をくいしばるのが見えた。少しだけ同情するが、口にはしない。従者の務めを忘れたのは彼自身だ。


 小さく、どこか苦々しげな調子で、ディートハルトが息をこぼす。きっと彼自身、気付いているのだろう。従者たちが、何をしていたか。


 そして、どこか己自身をも軽んじていることに。


「まあ、いい。それより、お前らは一体いつまで、俺に荷物を持たせたままでいるつもりだ?」


 パッと顔を上げた少年らが、我先にとディートハルトへ群がる。出遅れたシュタルクの少年が一人、服の裾をもじもじと弄る。

 成る程、先ほど彼が言わんとした事はこれだったか。




 両手が空になったディートハルトは、ようやくこちらに視線を向けた。


「で、お前らはうちの使用人に何か用か」


 氷のような冷たさを孕むアドルフの目と違い、ディートハルトの空色はまるで炎を宿したように苛烈だ。ルイスに視線をやり、すぐに再びこちらへ視線を戻す。ニコラがびくりと肩を震わせた。


「用と言う程ではないわ。けれど、まさかとは思うけれど、彼らの言葉を鵜呑みにするつもりかしら」


 ヘア・ノイマン、と呼べば、その後ろでデニスが「お前っ……!」と声を上げる。ディートハルトがキッと背後を睨んだ。


「控えろ、デニス! 見習いとはいえ、それ以上ノイマン家の恥を晒すな!」


「し、しかし……」


「二度も言わす気か? ノイマンより下位の家とはいえ、使用人如きが気安く口を開いて良い相手ではない、と言っているんだ。お前はもう黙っていろ!」


 唇を噛み締めるデニス。申し訳ありません、とすっかり萎縮した彼を一瞥し、ディートハルトは舌打ちをしそうな勢いで「失礼したな」と口にする。いや、全然思ってないだろ、その顔。

 眉間のシワはそのままに、愛想を振りまく事もなく、彼は私たちに向き直る。


「アイツには、後で相応の処罰を与える。暴言を許せ」


「……構いませんわ。それよりも、」


「さっきの問いの答えか? くだらん。何かあれば、本人から申告があるだろう。いずれにせよ、ルイスにはこの後、詳しい話を聞く」


 ディートハルトはそこで視線を外すと「良いな、ルイス」とシュタルクの少年を見る。


 ルイスは一瞬困ったような顔で視線を彷徨わせた後、消えそうな声で「はい、ディートハルト様」と答えた。きっと気弱な彼は、告げ口をするような事はしないだろう。思わず眉間に力が入る。


 そんな私の表情に気付いてか、ディートハルトは小さく舌打ちをした。オットーが「品が無いですよ」と注意する。


「わかっている。……おい、フォーゲル」


「なんでしょう、『ヘア』・ノイマン」


「いちいち強調するな。どうせ影では好き勝手呼んでいるのだろう。お前みたいな芋臭い女に、貴族面をされるのも不愉快だ。好きに呼べ。代わりに、俺の呼び方にも文句は付けさせん」


 ならいっそ、ポンコツ野郎とでも呼んでやろうか。と思ったが、さすがにそこは耐えた。我慢の効く自分を褒めてやりたい。


 一方、ディートハルトは、私がどう呼ぶかなんてどうでも良いらしく、訂正する間も与えず話を続けた。


「うちのが迷惑を掛けた、という事は謝罪しよう。だが、余計な口は挟むな。空気の読めぬでしゃばりは、貴族社会で生きていけんぞ」


「ご忠告痛み入るわ。けれど『義を見てせざるは勇無き也』だわ。元軍人(ちち)の名に、臆病者のレッテルを貼らせるわけにはいかないのよ」


「そんなお前に『出る杭は打たれる』という言葉を贈ろう。正義の味方ごっこは、子供のうちに卒業するんだな」


「あら、正義の味方(ヒーロー)は殿方の役目ではなくて? 主人としての務めを、私からもお願いするわ」


 ふん、と聞き慣れた音を残し、ディートハルトは踵を返す。


 行くぞルイス、と掛けられた声に、私たちの掛け合いをハラハラしながら見守っていた彼は、大きく肩を跳ねさせた。はい、と意外にも大きな声で返事をしたルイス。直後、恥ずかしそうに頬を染め、私たちに一礼する。それから彼は、尻尾を揺らしてディートハルトを追った。


 オットーたちは、去り際にこちらを一瞥したが、ディートハルトがテラスへ向かうのを確認すると、三人仲良く荷物を持ったまま寮へと向かう。ルイスが付き人として付いているので、彼らは一旦荷物を置きに戻るのだろう。


 あっという間に去って行った嵐に、ようやく私たちは大きく息を吐いた。


「……勘弁してよ、アメリア」


「ごめんなさい」


 ついカッとなってしまったの、という言い訳は、きっと受け入れてもらえないだろうな。






 その夜、自室でナイトティーを口にしながら、私はふと窓の外へ視線を向ける。日本ほど灯りに溢れないこの世界は、夜になると驚くほど静まり返る。遠くで梟の鳴く声がした。



 ルイス、ディートハルトは、共にゲームの攻略対象である。

 ディートハルトとローラントのルートを攻略すると、ルイスルートが出現する。その出会いの場面が、今日と同じような状況だ。


 従者クラスのクルークたちに虐められるルイス。彼らを諌め、ルイスに駆け寄るアメリアを、更に援護するようディートハルトが現れる。


 けれど、その出会いはもっと後の筈だ。アメリアが十六になってからのイベントで、それまでアメリアは、ルイスともディートハルトとも接点を持たない。


 一瞬、イベントが早まったのかと思ったが、どうやらそれも違うようだ。

 というのも、本来アメリアが遭遇する場面で、ルイスを虐げていたのは他の家の従者だった。ノイマン家の従者ではない。


 つまり、アメリアが見かける前から、ルイスはずっと虐められ続けていたのだ。



 もし私がもっと早い段階でそれに気付けていたら、もっと早く、彼を助けられたのだろうか。


 そこまで考え、一人小さく頭を振る。たらればは止めよう。もう済んだことだ。

 ノイマン家の従者たちはディートハルトが窘めてくれると期待して、私は私のなすべき事をしなければ。


 私は、私の魔力について知らなければならないのだから。





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