ep.10 はじめての国で手繋ぎデート。ドラゴン王子と歩く未来へ
正式な婚約を経て、ついにドラゴン王国・ドラゴニアへ――
新しい未来に胸を躍らせるエルとシオンの、手つなぎ街歩きデート回です。
異国の文化と彼の優しさに触れて、彼女の心にも小さな変化が…。
ふたりの関係が一歩ずつ進む、ほのぼの甘めの幕間エピソードをお楽しみください!
朝焼けが静かに空を染めていく。
「準備、できたわ」
最後の荷物を抱えて、私は深く息を吐いた。
窓の外には、すでに用意された馬車と、待ってくれているシオンとファリスの姿があった。
「姫さん、出発するぞー!」
「ファリス、うるさいわよ……! シオン、待たせたわね」
「ううん。君が来てくれるだけで嬉しい」
照れくさそうに笑う彼の顔を見ると、少しだけ不安が消えていく。
私が選んだ道。この足で、未来を歩いていくんだ。
*
馬車に揺られて数日。王都を離れ、険しい山々を越えると――
「ここが……ドラゴニア?」
広がるのは、空と同じ色の巨大な湖。その周囲に築かれた、空へ伸びるような白い城。
その美しさに、思わず息を呑んだ。
「シオン、ここがあなたの国……?」
「うん。君を迎えるために、少し飾りすぎたかもしれないけど」
「……素敵」
本当に、夢みたい。
だけど、どこか現実離れしたその景色は、まるで“異界”に足を踏み入れたようで。
(ドラゴン族の世界って、こんなに……荘厳なのね)
「ようこそ、ドラゴニアへ。僕の妻として、女王として――君の居場所だよ、エル」
胸の奥が、熱くなる。
*
入城後、盛大な歓迎を受けたのち、私はひとときの休息を与えられた。
「ふう……疲れたけど、すごく優雅な空気。なんていうか、どこか“野生”も感じるのよね」
「そりゃあドラゴンだしな、俺たち」
「……なんか、ちょっと怖くなってきたかも」
「平気さ。怖くなったら俺が助けてやる。シオンには内緒でな」
「……冗談でも頼もしいわ、ファリス」
ドラゴニアでの日々が、どんな未来を連れてくるのかはわからない。
でも今は、この心の高鳴りを信じて、踏み出そう。
――私はもう、ひとりじゃない。
「さあ、今日はドラゴニアの街を案内するよ」
そう言って、シオンが差し出した手を私はぎゅっと握った。
「正式な儀式の前に、君にこの国を好きになってほしくてね」
「うん、楽しみにしてたの。シオンと街を歩けるなんて初めてだもの」
城を出ると、私たちは手をつないだまま、城下町へと歩き出す。
まず目に飛び込んできたのは、ドラゴンの鱗を模したような屋根の建物たち。
淡い青や紫の石材で造られた街並みは、どこか幻想的で、空の色と溶け合っていた。
「すごい……全部が異国って感じ」
「このあたりは水竜の一族が多く住んでいて、建物も涼しげだろ?」
「ほんと。空気まで透き通ってる気がするわ」
そう言いながら、ふと香ばしい香りが鼻をくすぐる。
「……この匂い、何かしら?」
「ふふっ、気づいた? あれは“火竜のパン屋”さ。香辛料をふんだんに使った、ちょっと刺激的なパンなんだ」
「お腹空いてきたわね。……買ってもいい?」
「もちろん。ここの焼きたては絶品だよ」
シオンが手際よく金貨を渡し、渡されたパンはほんのり赤く、見た目からして少し辛そうだった。
「じゃあ……いただきます」
ひと口かじると、外はカリッと香ばしく、中からほんのり辛いソースと甘いチーズがとろけ出す。
「んっ……! なにこれ、美味しい! すっごく香りが豊か!」
「気に入ってくれてよかった」
シオンの嬉しそうな顔に、私も自然と笑みがこぼれる。
その後も、空飛ぶドラゴン用の交通台を見たり、空中庭園の小さな湖で涼んだりと、観光はどれも新鮮で――
「ねぇシオン、ここって……デートって言ってもいい?」
私の問いかけに、彼は一瞬だけ目を見開いたあと、頬を少し赤らめてうなずいた。
「もちろん。今日は君を笑顔にする日だもの」
そんな風にまっすぐな言葉をくれる彼に、私はちょっとだけ胸を押さえる。
(……もう、“好き”なんて言葉だけじゃ足りないくらいかも)
夕暮れどき、私たちは最後に城の高台にある見晴らしのいい場所へと登った。
「ここから見るドラゴニアの夜景は格別なんだ」
日が落ちると、湖面に反射する街の光が星のように輝き出す。
「綺麗……」
「ねぇ、エル。ここで約束させて」
「……なに?」
「君を必ず、この国で一番幸せな花嫁にする」
少し緊張した声とともに、そっと私の手を握る彼の指に、どこか震えを感じた。
そのぬくもりごと、私は両手で包み込むように握り返す。
「……信じてる。だって私も、あなたの隣で、世界一幸せになるつもりだもの」
その瞬間、彼の金の瞳が夕焼けに照らされて、まるで宝石のように煌めいた。
――新しい生活は、優しい風とともに、静かに始まっていた。
「ねぇ、今回ってデート回でいいのよね?」
「……うん。手もつないだし、パンも一緒に食べたし」
「でも、相変わらず男としては…もがッ」
「シオン、そんな真っ黒な色のパンどこから出したの?」
「ちょっと、燃やしただけだよ。」
「ボリボリ…シオン、食べ物を無駄にしたらダメなんだぜ。」
「大丈夫なの? ファリス。パンではありえないような音鳴ってるけど。」
「ああ、姫さんは知らないだろうけどこいつの幼馴ーゴフッ」
「シオン! ファリスが死んじゃう!」
「これぐらいで死なないよ。」
「なら、いいけど。おさななってどういう意味?」
「そんなこと言ってた? さぁ、そろそろ行かなくちゃ。」
「シオン、腕引っ張らないでー!」
「…ゴホ。ブクマ…増えて嬉しいぜ。
できたら俺のファンになってくれー!
ブクマが俺の恋人だから。……バタン」