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ep.9 焦がれた瞳が映す先



晩餐会の夜、私と彼は中庭で静かに未来を語り合った。

見つめ返されたその瞳に、思わず胸が熱くなる。


――これは、婚約者として、また一つ心を重ねた記録。


次なる舞台は、ドラゴンの国・ドラゴニア。

その旅立ちの前に、少しだけ私たちの距離が近づいた気がした。


晩餐会が無事に終わり、私はシオンとともに中庭へと足を運んだ。


夜風が肌を撫でるたび、気持ちは少しずつほぐれていくけれど――

それでも、さっき見た彼の瞳の奥に残る鋭さが、心の奥をじわじわと焦がし続けていた。


「エル?」


ふと、シオンが私の顔を覗き込む。落ち着いた瞳が、静かに私を映している。


「ううん、なんでもないわ。」


「よかった。君のご両親からも許可をいただけたし……そろそろ、僕の国に行ってみない?」


その一言で、私の興味は一気に切り替わった。


ドラゴン族が治める巨大な国、ドラゴニア。

文明も、街並みも、人々の暮らしも、私の知るものとはまったく違う――そう思うだけで、胸が高鳴る。


それに、婚約が成立した今、私が生きていくべき場所はもうここではない。

これからは彼の隣に立ち、彼の世界を知り、そして私自身を知ってもらいたい。


星が降るように瞬く夜空の下、私は彼の前で両手を広げた。


「ねぇ、シオン。私を――あなたの国へ連れてって。」


「もちろん。君を妻として、心から歓迎するよ。」


――きっと、まだ見たこともない景色が待っている。

そしてその景色を、彼とともに見られる未来が、きっと美しいものであるようにと願った。


 


「シーオーン。」


背後から、間の抜けた声が聞こえた。いや、間抜けというより、いつも通りというべきか。


「……ファリス。何の用?」


僕はぶっきらぼうに返す。が、彼はお構いなしににやにやと笑っていた。


「いやー、よかったのかなって。」


「何がだ。」


「シオンって、意外とヘタレなんだなぁって。」


「っ……!」


図星を突かれて言い返せない僕に、ファリスはおかしそうに笑い続ける。


「いいんだよ、これで。」


真剣な声で返すと、彼はからかうような笑みをやめ、どこか優しげに目を細めた。


「ま、俺はさ。お前が背負ってるものも知ってるから強くは言えねぇけど。姫さんは、きっと許してくれるよ。」


「……わかってる。エルは優しい。だからこそ、僕自身の覚悟がまだ足りないんだ。」


「ならゆっくりつけてけばいい。焦ることねぇよ。」


「うん……ありがとう、ファリス。」


「でもな?」


ファリスが顔を近づけ、にやりと笑う。


「男として逃げたのは、ちょっと情けねぇぜ?」


「……っ!」


「おーい、姫さーん!俺、喉乾いたー!なんか飲み物くれー!」


「え?いきなり? なら、私の部屋に来る?」


「おいおい、婚約者放ったらかして男を誘うのか?」


「ち、違うわよ! 荷物まとめに行くついででしょ!」


気になる一言、いや、二言を残してファリスはあっさりと去っていく。


僕は一人残されて、小さく笑った。


「……やっぱり、見抜かれてたか。」


エルにはまだ隠していることがある。

それをどう伝えるか、悩んでいるのも事実だ。


でもファリスが笑ったのは、それだけじゃない。


エルの瞳に宿っていた強く燃える光――それはもう、少女のものではなかった。

あの視線に気圧されて、僕はただ逃げた。それだけのこと。


「ねぇ、エル。僕も飲み物、欲しいな。」


ファリスの後を追うように、僕も彼女のもとへ走った。


「えぇ!? シオンまで?」


「うん。でね、僕もエルの部屋に行きたいな。ファリスは……まあ、行かなくてもいいと思うけど。」


「姫さん、俺を置いてかないよな?」


「さあ、どうかしら?」


彼女のからかうような笑顔が眩しくて、今はただ、彼女と笑っていたいと心から思った。


 


「ここが私の部屋よ。」


城の最上階にある部屋へ、二人を案内する。


「へぇ~、姫さんの部屋か。」


ファリスは興味津々といった様子で部屋を見渡している。


「仲良しのメイドさんと相談しながら、家具とか壁紙を少しずつ変えていったの。お気に入りなんだ。」


「意外とシンプルなんだな。」


「可愛い雰囲気にしようと思ってたんだけど、結局落ち着く方が好きで……あれ? シオンは?」


視線を向けると、なぜか彼が入り口で立ち止まっていた。


「……シオン?」


すると、横でファリスが大爆笑し始める。


「ぷっ……ははははっ! なんだよお前、マジで赤くなってるし!」


「え? どういうこと?」


「姫さん、シオンね、姫さんの部屋に入るの、緊張してるんだよ。」


「えっ……ちょっと、それ可愛いんだけど。」


私はくすっと笑い、彼の前に立って手を差し出す。


「自慢の部屋なの。ぜひ、入って。」


「……うん。」


ようやく部屋に足を踏み入れたシオンは、慎重に室内を見渡していた。


「じゃあ、私ちょっと荷物をまとめるから、ふたりはテーブルにでも座ってて。

飲み物、メイドに頼んでくるね。」


すぐに戻れるよう、冷たい飲み物を三つ頼んだ。

氷が溶ける前に、支度を済ませなきゃ。


私はテキパキと動きながら――

心のどこかで、すでに始まりつつある新しい生活を、そっと想像していた。


いよいよ新しい生活が始まる





「ねぇ、エル! 今回はファリス抜きで、二人で話さない?」


「うん。別にいいけど……どうしてそんなに焦ってるの?」


「そうだぜ、シオン! どうしたんだ?」


「ファリス‼︎」


「え? なに? どうしたのシオン。……世界の終わりみたいな顔してるけど?」


「姫さん……シオンのやつな、ちょっと調子が悪いんだ。」


「僕、本当に気分が悪くなってきたよ。ちょっと抜けるね……」


「シオン、大丈夫なの?」


「んー。体調は大丈夫だと思うけど、男としては……なんつーか、可哀想だな。」


「どういう意味?」


「同じ男として言うなら……ただのヘター――」


「ファリス。黙れ! あと、ちょっと来い!!」


「ねぇシオン!? どこ行くの!? ドラゴンの姿でファリスに何する気!? そんなのぶつけたら、ファリス燃えちゃうよ!?」


「ゴォォォォッ‼︎」


「よし、これで大丈夫。

今日も読んでくれてありがとう。

評価やブクマ貰えると嬉しいです。」


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