両親への婚約報告の前に、心の距離が近づきました。
空からのデートに、ぎゅっと近づくふたりの距離。
初めて見た景色より、隣の彼の手がいちばん温かくて――
でもそのあとは、ドキドキのご両親へのご挨拶。
緊張で震える彼が、なんだかちょっと可愛く見えました。
その日初めて私は空から見た自分の国を見た。
「とっても綺麗‼︎」
「うん。そうだね。」
シオンはゆっくりと旋回する。
森に川、そして街、移りゆく景色に私は興奮を隠せなかった。
「すごいすごい!こんな景色が見られるなんて、シオンありがとう‼︎」
「どういたしまして。また、エルにならいつでも乗せてあげるからね。」
「うん!是非また乗せてね。」
「じゃあそろそろ降りるね」
ゆっくりと旋回しながら徐々に高度が下がって行く。
だんだんと近づいてくる実家の景色も、いつもとどこか違って見えた。
「……なんだか、初めて見る場所みたい」
私がぽつりと呟くと、シオンの背中から優しい声が返ってくる。
「空から見ると、いつもの風景も特別になるんだよ」
「本当に、そうね……」
屋根の色、庭の形、道を歩く人々の姿まで――すべてが愛おしくて、胸がきゅっとなった。
(これが、私の国。私の大切な場所)
ゆっくりと高度を落とし、シオンの白銀の翼は元の場所、私の実家の前に降り立った。
「ついたよ、エル」
シオンがドラゴンの姿を解いた。
「うん。ありがとう。」
自然と手が重なり合う。
空の散策で一歩、心の距離が縮まった気がした。
なんだか照れ臭くなって、彼の指にギュッと力を込めた。
その時――
「お、おかえり‼︎ どうだった?」
ファリスが植え込みの陰から顔を出した。どうやら着地を待ち構えていたらしい。
「とても楽しかったわ」
「それはよかった! シオン、やったな!」
「エルに喜んでもらえて、僕も嬉しいよ」
「はいはい、イチャつくのはそのくらいにして。お次はどうするんだ?」
そう聞いてきたファリスに、私が答える。
「お父様とお母様に、婚約のことを報告しなきゃ……それと、前の婚約が破談になったことも」
「破談って、もしかして……レオナルド王子と?」
シオンがすっと眉を寄せて尋ねる。
「えっ、なんで知ってるの?」
「調べたんだ。君に婚約を申し込むために、必要だったから」
「一応、情報の規制はかけていたはずだけど……」
さすが、大国ドラゴニア。侮れない。
「ま、そんな話は後だ後っ!」
ファリスがやや興奮気味に実家の門を指差した。
「ちょっとくらい落ち着けよ、ファリス……」
シオンが呆れたように肩をすくめる。
繋がれた手に力が入り、私は笑った。
「だって待ちくたびれたし〜
さっさといくぞ!2人とも」
「ふふふ。わかったわ。案内するから、二人ともついてきて」
私は門を開け、ふたりを我が家へと招き入れた。
実家に戻った私は、すぐに両親への謁見を申し出た。
返答はすぐにあり、私たちは謁見室へ向かうことになった。
けれど、途中の廊下で近衛の兵士に呼び止められる。
「王よりの伝言です。応接室に来るようにとのことです」
「……もしかして、私が男性を連れているからかしら」
「だろうな!」
横を歩くファリスが、にやりと笑って答える。
「娘が男二人も連れて帰ってきたら、まずは非公式で確認したいって思うだろうしな。
なあ、シオン?」
「……」
返事がない。
不思議に思って後ろを振り返ると――
「ひゃっ⁉︎」
シオンが、尋常じゃないほど震えていた。
「えっ!? ど、どうしたのシオン⁉︎」
「き、きき、緊張して……」
「えぇ!? さっきまであんなに堂々としてたじゃない!」
「だ、だって……いざお父様とお母様の前に立つって思ったら……もしエルとの婚約、認めてもらえなかったらって思ったら……うぅ……」
顔を青くして、小刻みに震えるシオン。
私は慌てて彼の手を握りしめ、笑いながら言った。
「大丈夫よ、シオン。
私の両親は、私に――甘いの」
厳しく育てられた方だとは思うけれど、決して愛されていなかったわけじゃない。
むしろ、私の選んだ道をきちんと見てくれる人たちだと知っている。
だから、シオンのことも。
ちゃんと話せば、必ず理解してくれる。
私が笑顔で頷くと、シオンも頷き返してくれた。
「君の言葉を信じるよ。」
私達は応接室の扉を開けた。
「シオン! シオン! 大丈夫か?」
「……ダイジョウブ。エルノコト、シンジテル……」
「全然大丈夫そうに見えないわ。」
「姫さん! なんとかしてやってくれ。こんなんじゃ、挨拶もまともにできねぇ。」
「なんとかって……何するのよ。」
「知らねーよ。俺だって、こんなシオン見たの初めてだし!」
「ダイジョウブ……ダイジョウブ、ダイジョブ……」
「どんどんひどくなってるじゃないの……」
「シオン! しっかりしろ!
このままだと、お嬢様方からの人気もなくなるぞ⁉︎」
「お嬢様方って……誰のこと?」
「そんなの決まってんじゃん、姫さん。
読んでくれてる読者様だよ!」
「ブクマや評価ポイントも、上がってきてるらしいわね……」
「アリガトウ……アリガトウ……」
「ダメだ。完全に壊れてる。
姫さん、アレだ。キスでも一発かましてくれ!」
「!!!!」
バターンッ‼︎
「シオン⁉︎ 大丈夫⁉︎」
「あーあ、倒れちまった。
……というわけで、ここまで読んでくれてありがとう!
お嬢様方こそ、俺の恋人ってな!」
「ちょっとファリス! 早く来て!」
「呼ばれたんで、行くわ!
まだブクマや評価してない方、よかったらポチッとしてくれ!
それじゃ、またなー!」