ep 14 突然の兄登場!慌てるエルと動き出す陰謀
久しぶりに現れた“神様の兄”は、全力で寂しさを訴えてきた。
人間界での新生活、秘密の婚約、そして──言えないことだらけの今。
神様との再会は、少しうるさくて、でもやっぱり温かくて。
「まだ話せないけど、あなたのおかげで楽しい」そう伝えたくなった夜の話。
「エル! お兄ちゃん、寂しかったんだぞ!」
深夜の静寂を切り裂くように、扉が勢いよく開かれた。銀の髪がふわりと舞い、部屋の中央で仁王立ちするのは、神界の兄・アスガルド。
「……なんでここにいるの?」
私は思わず目を丸くした。
「決まってるだろ! 妹が会いに来てくれないから、兄の俺が来たんだ!」
「えっ、ちょっと……夜中だよ? 神界って暇なの?」
「暇ではない! だが妹が来てくれないほうが、よほど重大な問題だ!」
「私は私で忙しいの。引っ越しもしたし、仕事も始めたし……」
「知ってるぞ! 村で迷子になって、王子様に助けられたって話!」
「……なっ⁉︎」
ドクン、と心臓が跳ねた。そんな話、彼にした覚えはないのに。
「ちょっ、なんでそれを……⁉︎」
「……いや、今のは完全にハッタリだったんだけどな?」
「…………」
「な、なんだその沈黙は⁉︎ 本当に何かあったのか⁉︎」
「ややこしくなるから! そういうのは、聞かないで!」
勢いに負けて、思わず声を荒らげてしまった。
(本当のことを話しても、どうせ信じてもらえない)
人間界に戻ってすぐに新しい婚約者ができて、その国に移って、その人の力になりたくて“側近”として働き始めた──なんて、どこの恋愛喜劇だろう。
「もう少し落ち着いたら、ちゃんと話すね。
……来てくれて、ありがとう」
まだ打ち明けるには早いけれど、この兄になら、いつかはちゃんと話そうと思える。
「……今、なんて?」
「なんでもなーい!」
ベッドに倒れ込む私に、アスガルドは半泣きで抗議してくる。
「お兄ちゃんに聞こえる声で言ってくれー!」
その姿が、なんだかとても“お兄ちゃん”らしくて、少しだけ……好きだった。
「で? 今は困ったことはないのか?」
「とくには。引っ越して王城で働いてるの。自分の力で生きていこうと思って」
「さすが俺の妹だ! 早くも新天地で頑張ってるとは偉いぞ!」
「まぁ……たまに失敗もあるけどね」
(本当は迷惑をかけてることのほうが多いかもしれない)
でも、そこを掘られたらややこしいことになる。
とくに、シオンやファリスの話なんて出した日には――
(絶対拗れる)
アスガルドは優しいけれど、少し独占欲が強い。妹が他の男と仲良くしているなんて知ったら、きっと手がつけられない。
「でも、元気そうでよかった」
「うん。……新しい生活は、まだ慣れないけど楽しいよ」
そう言葉にしてみると、不思議と心が軽くなった。
「……そっか」
アスガルドはそっぽを向いた。けれど、彼の耳がほんのり赤く染まっているのを、私は見逃さなかった。
「じゃ、そろそろ帰る。神界の花に水をやらないとすぐ枯れるんだ」
「え、もう?」
「神界も人間界も、案外忙しいのさ」
そう言って扉へ向かった彼は、出る直前にふと足を止めた。
「……なぁ、エル。変わったこと、ないか?」
「え?」
「特になければ、それでいい。……でも、もし何かあったら、すぐに連絡しろ。いいな」
その声音には、珍しく真剣な色が滲んでいた。
「……わかった」
私は小さく頷いた。アスガルドは背を向けたまま、ひらりと手を振って姿を消した。
──
そのころ、リヴァリア王城・謁見の間。
月明かりの差し込む空間で、レオナルド王子が玉座に腰を下ろしていた。彼の前には、膝をつくジルの姿がある。
「王子、本当にあの計画を……?」
「必要性はお前も理解しているだろう」
ジルは答えず、窓の外を見やった。そこには、干上がった池が広がっている。
突発的な干ばつ、停電、地震──
「女神の加護を失ったと考えるのが、最も妥当だ」
王子の言葉に、ジルが目を伏せる。
「……しかし、妹はまだ記憶を取り戻していないはず。それなのに、なぜ……?」
「おそらく、その正体に気づき、加護を利用している者がいる」
レオナルドは、無言のまま一枚の文書を差し出した。ジルが目を通し、血の気を失う。
「まさか……エルがドラゴニアの王子と婚約していただなんて……そんな話、両親からは何も──」
「口止めしていたのだろう。邪魔が入らぬようにな」
ジルの手から、紙がひらりと落ちた。
「これでは、我々の計画が……」
「問題はない」
レオナルドは紙を拾い、不敵に笑う。
「女神の記憶を呼び戻し、その加護を奪い取る。
祖先がかつて行った、“例の方法”を使ってな」
文書には、確かにこう記されていた。
──“ドラゴニア王子シオンと、エルミナ・リヴェリアの婚約”─
「なぁ、今回って……俺ら出番なしか?」
「……そうみたいだね」
「お? もしかして“あのお兄さんに会わなくてラッキー”とか思ってたり?」
「……!」
「やっぱ顔に出たな。ヘタ…」
「何か言った?」
「いいえ。……それより、物語がまた一歩、動いたな」
「うん。正直、知られたくなかったことだけど」
「で、これからどうするつもりだ?」
「とりあえずは……何も知らない“ふり”で」
「ってことは、“続きは本編をお楽しみください”ってやつか?」
「そういうこと」
「というわけで──今回も最後まで読んでくれてありがとう!」
「改訂が入って、少し読みづらい部分があったかもしれませんが……」
「そこはちょっと我慢してくれな! あと、ブックマークと評価、本当にありがとうな!」
「……増えてきて、うれしいです」
「よーし、次は俺もガッツリ登場させてもらえるように頼むぜ!」




