ep.13 初めての視察で、ドラゴン王子にいい所見せちゃいます!
今回は、ドラゴニアの村への“初視察”に向かいます。
けれど、初めての土地・初めての現場・そして……初めての迷子?
村の子どもたちとの触れ合いに、シオンの溺愛っぷりに、そしてファリスの鋭いツッコミまで。
エルの“お仕事編”スタートです!
「それじゃ、行ってきます!」
朝の執務室で、私はシオンに元気よく頭を下げた。
今日から、側近としての“はじめての視察”に出発するのだ。
(未来の妃としての初仕事にもなるのだから、気合い入れないと!)
自然に見えるよう振る舞ってはいるけれど、内心はかなり燃えている。
「無理はしないでね。困ったことがあったら、すぐ連絡して」
「うん、大丈夫! ちゃんとメモも取るし、橋の様子も見てくるから!」
シオンは、私ひとりでの視察が心配らしい。
本当は着いてきてくれようとしたけれど、どうしても政務の都合がつかなかった。
(だからこそ、頑張りどころよ!)
これは、私が“側近としての信頼”を築く大チャンスでもある。
にこっと笑って、私は執務室を後にした。
好奇心と、ほんの少しの緊張が、心臓をドクドクと弾ませる。
(これが、私の最初の一歩)
エルミナ・リヴェリア。
政略の道具として育ち、婚約破棄され、神に拾われ──
そして今、自分の意志で未来を選ぼうとしている。
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馬車に揺られて三十分ほど。
目的地の小さな村に到着すると、整えた服の裾を軽く押さえながら、地面に足を下ろした。
「ようこそいらっしゃいました、エルミナ様」
出迎えてくれたのは、にこやかな笑みを浮かべる村長だった。
「本日はお邪魔いたします。視察の記録を取らせていただきますね」
なるべく丁寧に、けれど硬くなりすぎないように――そう心がけて挨拶を返す。
(うん、ばっちり……!)
……と思った、そのとき。
「あれ、王妃さま?」
「ほんとだー! かわい〜!!」
突然、数人の子どもたちがわらわらと駆け寄ってきた。
「ええと……私はまだ王妃じゃないの」
夢を壊すのは気が引けたけれど、まだ正式に結婚したわけではない。
だから、やんわりと否定しておく。
「こらこら、エルミナ様を困らせては駄目だ」
村長が苦笑しながら助け舟を出してくれるも、子どもたちには関係ないらしい。
「ねぇ、ドレス何枚持ってるの!?」
「お姫さまって毎日ケーキ食べてるの?」
「お城ってやっぱり魔法あるの!?」
キラキラした目で矢継ぎ早に質問され、私はたじたじになりながらも笑ってしまった。
(正式なお披露目も近いし……少しぐらいならいいわよね)
「ええと……ちょっとずつ答えるわね?」
思わぬ人気ぶりに戸惑いながらも、私はその輪の中に自然と馴染んでいた。
子どもたちだけじゃない。村人たちの視線も、どこかあたたかい。
(こんなふうに、誰かに笑顔を向けられるって、悪くないな)
王族や貴族の世界にある、張りつめた“利害”の気配が、ここにはない。
あくまで、純粋な好意と好奇心。
(こういう場所も、この国の一部なんだ)
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橋の補修状況を見に行くころには、私もすっかり村の空気に馴染んでいた。
資料と実地を見比べ、メモを取り、職人さんたちに丁寧に話を聞く。
「王妃さま、これ資料通りで大丈夫そうですかね?」
「はい、強度は申し分ないと思います。ただ、次の大雨に備えて、補強案を添えて報告しておきますね」
(よし、領主経験も無駄じゃなかった!)
視察が一通り終わったあと、村人が声をかけてくれた。
「他にも見たいところがあれば、お連れしますよ」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。少しこのあたりを見てから、村に戻りますね」
「奥の森には近づかないでくださいね。あそこ、村人でも迷うので……」
「はい、気をつけます」
注意もちゃんと受けて、気を引き締めた……つもりだった。
けれど、その直後。
「……あれ? 道って、こっちで合ってたよね?」
ふと、資料に載っていた小道を確認したくなり、
ほんの少しだけ村の道から外れてしまった。
──それが、間違いの始まりだった。
気がつけば、周囲には人の気配がない。
さっきまで通っていたはずの広場も見えない。
(……まさか、迷った?)
焦りが背中をつつく。地図はある。でも、今どこにいるのか分からない。
(森には近づくなって言われたのに……)
森の木々は同じような景色ばかりで、目印が見当たらない。
気がつけば、すっかり木陰の奥へと入り込んでしまっていた。
思わず、私はその場にしゃがみ込んだ。
(私、何やってるんだろう……)
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「……見つけた」
優しくて、でも少し怒っているような声が頭上から降ってきた。
「シオン……?」
顔を上げると、そこには息を切らしたシオンが立っていた。
靴は泥だらけで、上着の裾には草の葉が絡まっている。
「ごめん……少しだけ、迷っちゃって……」
「無事でよかった」
そう言って、彼は私の手をそっと取った。
「気になって村に来てみたら、村長に“まだ戻ってきてない”って言われて。
それで、君が森に入ったかもしれないって聞かされて……ずっと探してた」
その言葉に、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
「……ありがとう」
「一人で行っちゃ、だめだよ。次からは、俺の隣にいて」
その言葉は、どこまでも優しくて、甘かった。
私は、たまらず彼に抱きついた。
抱き返してくれる腕のぬくもりに、涙がこぼれそうになる。
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城に戻ると、いつものようにファリスが出迎えてきた。
「よっ、姫さん。初任務で遭難って、なかなか伝説だな」
「遭難じゃないわよ! ちょっとだけ道に……」
「“シオンにいいところ見せようとして大失敗”ってオチか? あちゃ~」
「うるさいっ!」
「で、シオン。お前は何か言わないの?」
「……無事だったってだけで、十分」
「惚気かよっ!」
「ち、違うし!」
「……はぁ。俺も婚約してぇ……」
「女の子からかわなくなったら、ファリスにも可愛いお嫁さん、見つかると思うよ?」
「……………黙るわ」
⸻
その日の夜。
視察報告をまとめ終えた私は、窓の外を見上げた。
空には星が瞬いていて、まるで今日の出来事を祝福してくれているようだった。
(これが、私の最初の一歩)
そう思った、ちょうどそのとき――
「エル! お兄ちゃん寂しかったんだぞ!」
「えっ……あっ、お兄ちゃん!」
私の部屋に、ひょっこりと現れたアスガルド。
(会いにいく約束、すっかり忘れてた)
「姫さん!シオンにいい所見せようキャンペーン残念だったな!」
「うるさい。ファリス。」
「なぁ、シオン?」
「その話、普通に嬉しいし、エル可愛い。」
「姫さん。ごめん。
普通に成功してたみたい。」
「それよりエル、君の部屋にいるの男じゃない?」
「…‼︎」
(やばい!バレてる)
「落ち着け、シオン!
ドラゴン化するな!
姫さん、あれ、誰なんだ!?」
「お兄ちゃん。」
(本当の事は言わないでおこう…)
「……。」
「シオーン‼︎おい、気絶するな。
姫さん、シオンが震えて白目向いてる‼︎
助けてくれ‼︎」
「大丈夫⁉︎シオン‼︎」
「お兄様…エルのお兄様…。」




