ep12 ドラゴン王子の側近になりました。
シオンとファリスに優しく迎えられ、異国ドラゴニアでの生活にも少しずつ慣れてきたエル。
でも……「慣れる」だけじゃ、何も変わらない。
女王になる覚悟とは何かを問われた彼女が選んだのは──“働くこと”!?
目指すは、シオンの隣で国を支える“側近”ポジション!
今回は、文官エルミナ誕生&執務室ドタバタ回です。
仕事に恋にツッコミに(?)忙しい姫の一日、どうぞお楽しみください♪
「働かせてもらおう!」
気合を入れて、朝から私はドラゴニア城の執務棟へ向かっていた。
エリュナ様との対面は、正直言って衝撃だった。
(暇だなんて思ってた自分、反省して……!)
あの鋭い眼差しと真っ直ぐな言葉に、ぐさぐさ刺さった。
でも、それだけじゃない。
彼女に言われて気づいたのだ。
(私は、本当にシオンの隣に立ちたいって思ってたんだ)
だったら、立ち止まっている暇はない。
「目の前の現実から逃げないって決めたんだから、まずは──行動あるのみ!」
とはいえ、プリンセス業しかしてこなかった私にできる仕事なんて……。
家事? ダメ。
メイド業? 絶対ダメ。
……そうなると──
(執務仕事、なら……いけるかも!)
一応、領主代行としての経験はある。
文書作業もしてきたし、堅物な貴族たちとやり合った日々もある。
(うん、やるしかないわね!)
そう思って、意気揚々と王専用の執務室へ来たはいいものの……
(……どうやって切り出すの?)
扉の前で五分ほどウロウロしてしまった。
頭の中でセリフを反芻しては、言えずに戻るを繰り返す。
(だめだ、悩んでても進まない!)
「失礼しますっ!」
勢いに任せて扉を開けた。
「エル?」
中にいたシオンが、驚いた顔でこちらを向いた。
机には山のような書類、そしてうっすら目の下には影。
(……これは、予想以上に重症だわね)
だけど私の顔を見た瞬間、彼はふっと笑ってくれた。
「どうしたの? 何かあった?」
「ううん。あのね、お願いがあるの」
一歩、彼に近づいて──まっすぐに目を見る。
「働かせてください!」
「……え?」
ぽかんと口を開けるシオン。
あまりにストレートすぎたかもしれない。
「えっと……ちゃんと説明すると、私、今まで何もしてこなかった。けど、これからはあなたの隣に立つ人間として、自分の足で立ちたくて。だから──」
「嬉しいよ!」
言い切る前に、彼がテーブルの書類をバンと置いて、私の元へ飛んできた。
「えっ!? ……邪魔じゃない?」
「そんなわけない!」
彼は私の手をぎゅっと握って、嬉しそうに笑った。
「エルになら、任せられる仕事がある」
「わたしに?」
シオンはそっと手を離し、窓の外を見ながら呟いた。
「僕はね、人を信用するのが苦手なんだ。だから、執務も翻訳も──全部、自分でやってきた」
(……ああ、そういうことだったんだ)
机の上のモンブランみたいな書類の山も、翻訳まで全部一人で……。
「でも、エルになら見せても平気だ。任せられるって思える。僕にとって、それはすごく大きいことなんだ」
「──わかったわ!
こう見えて領主経験は長いのよ。
書類のモンブランだって、登頂してみせる!」
「うん、頼もしいな」
と、そこで彼が急に表情を変えた。
「ただし。側近は大変だよ?
命令には絶対服従。逃げても……許さないからね?」
ウインクしながらも、目だけが笑ってない。
(逃がさない、の意味がなんだか違う気がする……)
「もちろんですっ!」
思わず背筋がピンと伸びる。
それを見て、彼は満足そうに笑った。
「じゃあ──この机の上の書類を、片っ端からお願いね」
「任せて!」
……と言いながら、視線を落とした先の紙の山に若干後悔しかける。
(あれ全部やるの? いける……いける、はず!)
「大丈夫。隣に俺もいる。二人でやろう」
その言葉に、もう一度勇気が湧いてきた。
***
午後になっても、私は“文官エルミナ”として机に向かい続けていた。
手分けして進めるうちに、仕事のコツもつかめてきた気がする。
「この橋の修復計画、財源はこっちで回せるんじゃない?」
「ふむ……本当だ、さすが」
シオンが軽くうなずいて、にっこり笑った。
「仕事、早いね」
「任せて。こう見えて、文官修行中だから!」
そのとき、ガチャッと扉が開いた。
「よう、姫さん。……って、何してんの?」
ファリスが手をひらひら振って入ってくる。
「お仕事中よ、見ての通り」
「へぇ〜。花嫁修行か?」
「違う!」
「じゃあ執務室デートか?」
「それも違う!」
「あはは、落ち着けよ」
シオンが笑いながら肩をすくめた。
「こら、ファリス。からかうなよ。
エルは真面目に頑張ってるんだから」
「へいへい。でもなぁ……シオン」
「……なに?」
「ずーっと姫さんのこと見すぎじゃねぇ?
仕事、どこいった?」
「……黙れ。仕事しろ」
「はーい。俺も手伝いまーす」
笑いながら席に着くファリス。
一気に執務室の空気がゆるくなった。
「……エル」
ふいに呼ばれて顔を上げる。
「ありがとう。隣にいてくれると、すごく安心する」
「わたしも……」
自然と、顔が近づいて──
「……って、おい! 俺は今、孤独中ー!」
「ぷっ、ごめんね、ファリス!」
「……俺も婚約してぇ……」
ファリスのぼやきを背に、また書類整理に戻る。
けれどどこか、心がほんのりあたたかい。
(こんな日々が、ずっと続けばいいのに)
──これが、私の新しい“はじまり”だ。
「……というわけで、働かせてもらいました!」
「本当に来るとは思ってなかったよ。驚いたよ、エル」
「あの書類の山見て、よく逃げなかったな……」
「シオンと一緒なんだから、逃げないよ!」
「……エルが一緒に仕事してくれて、嬉しかったよ」
「はいはい、惚気タイム終了~」
「べ、別にシオンはそんなつもりじゃないと思うけど……」
「そんなつもりだろ? なぁ、シオン?」
「……ゴフッ」
「ヤベッ! なにも言ってませーん‼︎」
「それでいいんだよ、ファリス」
「シオン? その笑顔、ちょっと怖いよ……?」
「なあ姫さん、これが“ヘタレの本性”ってやつじゃ──」
「ゴォーーッ!」
「シオン、ファリス殺しちゃダメー!!」




