遊戯妖精
毎年訪れるハロウィン祭。街はゴーストやカボチャのランタンで彩られ、大人達はお菓子を用意し子供達は妖精の衣装を作ってハロウィン祭が来るのを待っている。「今年もやっぱりあの子が、リリーが来るんでしょうね。あの子、お菓子が好きだから」お菓子を用意しながら、パトリシアはウキウキした笑顔を咲かせている。宝石のようなキャンディーをカラフルなセロファンでラッピングする手付きは、まるで職人のようだ。パトリシアのご主人、ギブランもお菓子を箱に詰めて、街の子供達の人数分用意していく。「来るさ、今年も!お菓子もお祭りも好きだもんな」「楽しみだわ……今年はあの子、どんな仮装をしてくるかしら」「毎年びっくりさせてくれるよな!カボチャの天使だったり、去年なんかはお菓子そのものになってたな」毎年お菓子を頂戴しに来るリリーは、いつも大人達を楽しませてくれる。「あれには、こっちがびっくりしたわよ!もう……リリーが来る事自体イタズラだわね」もう、と言いながら、パトリシアはリリーのそんなところを好んでいる。「今年も忘れられないハロウィンになるといいな!」「待ち遠しいわ」二人ともハロウィン祭が、リリーがお菓子を頂戴しに来るのを心待ちにしている。
そしてハロウィン祭同日……街の子供達が様々な衣装を着て大人達からお菓子を頂戴している。「トリックオウトリート!」「かわいらしい妖精さん達、さあさ、お菓子よ」「ありがとー!」パトリシアがキャンディーを配ると、妖精達は無邪気に去っていた。街を見渡しパトリシアとギブランはソワソワしている。その時だった。「トリックオウトリート!」リリーの元気な声が聞こえた。「「リリー!」」声を合わせて二人が振り向くと、リリーは以外な仮装で姿を見せていた。両者驚き、声もでない。「びっくりした?今年は最後だから、この仮装に決めたの」「リ……リリー……貴女……」「最後……とは、一体?」前にいたのは、二人と同じ年の女性だった。リリーの真の姿だ。「神様に教えてもらったの。もうすぐ私は生まれ変わるから、行かないといけないって」「え?神様にって……まさか」「リリー、行くって……もしかして?」リリーは少し困った笑顔で答える。「天国」「「!」」二人とも覚悟はしていた。いざその日が来ると気持ちが追い付かない。「覚えてるわよね、四十年前のハロウィン祭の日。あの日高熱が出て死んでしまった私の願いを、神様は聞いてくれたの。大事な幼馴染みと年に一度だけ会うのを許してほしいっていう願い」パトリシアとギブランは覚えてる。ハロウィン祭に街を回ってお菓子を頂戴するという約束を交わした事を。あの日の約束を最後に、リリーは旅立った。「あれから長い事ワガママ言ってたけど、もうさよならの時間が来たの」「リリー、待って!」「神様は待ってくれないのかい?」「ごめんなさい……ずっとこのままだと、皆は前に進めないからさよならするわね」リリーのからだが朧気になっていく。時間だ。「リリー!せめて……キャンディーを……!」パトリシアは消えそうなリリーに、キャンディーを差し出した。リリーの手がキャンディーを取ろうとする……と、リリーは消えてしまった。「リリー……いつか、私もそっちに……」
「私達は、忘れないさ……」渡そうとしていたキャンディーも何処かに消えていて、見付からずにいた。二人にとって、一生忘れられないハロウィン祭となった。