パンドラの菊池
「菊池祭り」参加作
我々はとうとうたどり着いたのです!
鬱蒼としたジャングルの緑は深く、しかし太陽に輝き。
まるで私達のことを歓迎してくれているかのように。鬱陶しいこの暑さすら吹き飛ばしてくれるかのように。
そう、この秘境の奥にあるという『幻の菊池』との出会いは間もなく。
我々のもとに情報提供があったのは、ニ年前。そこから菊池を調査すること一年間。
さまざまに噂されている通り、言葉にならぬほどの美しさ、見たものを魅了し最大の幸せをもたらしてくれるという。
太陽に輝くとされる、菊池。
名前の由来は、放射状に光を放ち、まるで菊のようだからとも。
画面の前にいらっしゃる皆様、お待たせいたしました。
噂の真実を。
……幸運の光を……手に……。
〇〇〇
画面はそこで回転し、絶叫と共に暗転する。
五年ほどまえに拡散された、チューブネットのミステリー映像。
理由はたったひとつ。
窓の外に溢れるキクチを見ればよく分かる。
太陽のように輝くキクチが、放射状に光を放ちながら、人を啄むのだ。
キクチの頭は太陽のよう。その口と足は鳥のよう。そして、二足歩行をする人類のよう。
だが、彼らの住処は空にある。
外に出た人類を狙撃するかのように、その強靭な足を使い、空へと掴み上げるのだ。
しかし、キクチを完全にスケッチした者はいない。これらは、命絶え絶えのものが持ち帰った情報から推測されているだけなのだ。
今や人類は地下に住処を変えてしまった。地下街で繋がっていた道やビルを伝いながら細々と生活を続けている。太陽の下を跋扈しているのは、キクチだけ。
まるで太陽の子だという学者もいた。
彼らから放たれる光には放射線が含まれており、人類に重大な遺伝子欠陥を齎す。
その生態と弱点を知るために、防護服に身を包んだ自衛隊員、学者、警察などが、キクチを捕獲しようと 何度も試みるが、……いまだにそれは叶っていない。
あの配信の後、何人もの好奇心たちが初めの配信者の後に続いた。
それもきっと、いけなかったのだ。キクチに人類の味を覚えさせ、人類の生息地へと導くこととなってしまったのだ。
真っ暗なビルの一階。その裏手にある窓には分厚いカーテンが引かれている。その中で私は過去のその映像を眺め、何かのため息をつく。
幸運の光だと……?
どん!!!
窓を叩く衝撃音。網目の入った窓。カーテンの隙間からわずかに入るまばゆい光。そして、赤い飛沫が視界の端に映った。
窓を叩いたのは、勇敢なる人類の誇りだ。
そして、空へと運ばれる。キクチの威力はますます強力になっているようにも思われた。彼らはいったいどこへと運ばれるのだろう。
『菊池』は開けてはならないパンドラの箱だったのだ。
そう、ジャングルの秘境の奥にそっと、幻のまま置いておかなければならない存在だったのだ。
決して開けてはならない窓を見つめ、有名になりたくて、好奇心を抑えられなかった我が親友の最期の映像を、もう、何度も繰り返してしまったその映像を、ただ繰り返し流していた。
親友の名前も菊池?




