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9. オルド辺境伯令嬢リーゼロッテ(2)

流血表現があります。苦手な方はご注意をm(_ _)m

「重傷者からこちらへ! 軽傷者は奥のテントに運んで!」


 場所は変わって、ここはペリクルスの森の入口。


挿絵(By みてみん)


 鎧を纏った騎士たちが慌ただしく行き交う中に、リーゼロッテはいた。


「【光よ 彼の者の傷を癒したまえ ヒール】!」


 リーゼロッテの手から眩いほどの光が溢れ、彼女の前に横たわった騎士の傷が癒えていく。しかし、あくまでも応急処置だ。傷が塞がり、出血が止まれば、あとは薬での治療となる。受傷した騎士本人は辛いだろうが、人手が足りないのだ。



 森でワーウルフの群れが出た。それくらいならオルド辺境伯騎士団で対処できた。通常の数なら。


 群れは異様なほど数が多かった。まるで、森にいるすべての群れが集結したみたいに。しかも、何かに怯えたように死に物狂いで人夫や騎士たちに襲いかかってきたのだ。囲まれて、避難路の確保が遅れ、結果怪我人が多く出てしまった。



(ごめんなさい……ごめんなさい……私のせいだわ!)


 血を流す騎士に必死に治癒魔法をかけながら、リーゼロッテは後悔していた。



 リーゼロッテのいるオルド辺境伯領は、穀倉地帯と隣接している。夏はその広大な地に植えられた小麦が収穫時期を迎えるため、そちらに多くの人手が割かれる。仕方のないことだし、わかっていたことだ。魔物討伐部隊の頭数も揃わないと。討伐部隊の半数は、冒険者ギルドを通して冒険者を雇っている。しかし、彼らも小麦の収穫時期はそちらに多くが流れてしまうのだ。


(私の……力が、なくて……)


 今さら言い訳にしかならないが、国王に直訴してすぐ、婚約者であるダレスに直接会って、騎士団の派遣を頼みはした。けれどダレスは、


「次期辺境伯は僕だよ? どうして女の君が勝手に決めるんだ」


「新道? 何を言っているんだい。君にそんな権限あるわけないだろう。嘘でもついて僕の気を引くつもりなのか?」


 と繰り返すばかりで会話が成立しない。挙げ句、


「リーゼロッテさんったらヒドイ! そうやって権力を笠に着て命令するなんて! ダレスに謝ってよ!」


 ピピナまでしゃしゃり出てきてうんざりしたのだ。


 当主云々はダレスの勘違いだし、リーゼロッテは父――オルド辺境伯名代として話したのに、だ。

 埒があかないので、同じくオルド辺境伯代理として、ノクト侯爵及び嫡男であるロビンにも、ついでにリーゼロッテの名前でロビンの奥方にも騎士団派遣依頼を手紙で送った。返事は来たが、ダレスに伝える、ダレスに頼んでくれという内容だったのだ。念のため、父の署名も入れてダレスに手紙で派遣依頼も送ったが、返事は返ってこなかった。



「オルド辺境伯令嬢、少し休んではどうか。貴女まで倒れてしまう」


 国王が監視につけた文官の青年が、心配そうにリーゼロッテの顔を覗きこんだ。が、リーゼロッテは首を横に振った。


「私が動かなくて誰が動くのです」


 そろそろ魔力が底を尽きてきたのか、指先に痺れるような感覚がある。


「【ヒール】!」


 でも、続けなければ。

 眩い光が白く視界を塗りつぶした。




◆◆◆




 次にリーゼロッテが目を覚まして見たのは、真っ白な天井だった。それが天幕とわかって、リーゼロッテはガバリと身を起こした。


「あうっ」


 途端に頭痛がするが、堪えて辺りを見まわした。


「起きたか、リーゼ」


「お父様?!」


 ゆったりとした足取りでやってきたリーゼロッテの父――オルド辺境伯グリフは、娘の頭をやや荒い手つきでポンと叩いた。


「おまえの奮闘で死人までは出なかったよ。よく頑張った」


「ですが、私の目算が甘くて……!」


 多くの騎士や人夫が傷ついた。それが悔しくて申し訳なくて、リーゼロッテは唇を噛んで俯いた。


「そう思うなら、これを糧として二度と同じ過ちを起こさねばよい。それに」


 一転、表情を険しくしてグリフは言った。


「あのワーウルフは明らかに様子がおかしかった。儂の見間違いならよいが、襲撃の数日前、空に竜騎士がいたように見えた」


「え?」


 竜騎士を持っているのは、この近辺ではノクト侯爵家しかない。


「見間違いかもしれん。ただ、人をやって調べはするつもりだ。リーゼ」


 娘に面と向かい、グリフはこう命じた。


「調査の結果が出るまで、婚約者と会うのも連絡をするのも禁じる。此度のことも口外するな」




◇◇◇




「うわぁ! 高い高い! 素敵ー!」


 数日前、ペリクルスの森上空――。


「コラ、ピピナ。身を乗り出すと危ないぞ」


 竜――大型のワイバーンの背に二人の人間が乗っていた。一人はピピナ、もう一人はダレスである。


「ダレスはこんな大きな竜も乗りこなせるんだね! すごいよ!」


 はしゃぎっぱなしのピピナの曇りなき賞賛に、ダレスは喜んだ。婚約者のリーゼロッテにも、ピピナみたいな可愛げと優しさがあればよかったのだが、残念ながら彼女はダレスの言葉を否定するばかりで、一緒にいてもちっとも楽しくない。それに、将来当主になるダレスに対して、あまりにも傲慢なふるまいを繰り返す。


「ほら、こんなこともできるぞ。掴まれ!」


 手綱を操作して、ワイバーンを森の木々ギリギリの低空飛行をさせると、翼の巻き起こす風で木々が大きく枝をしならせた。


「きゃああっ! すごいねぇ! 力強ーい!」


「ワイバーンの声を聞かせてあげるよ、そら!」


「ギュオオオオオ!!!」


 人間など遥かに凌駕した圧倒的強者の咆哮に身を縮めるピピナを、ダレスは後ろからギュッと抱きしめ、二人はつかの間の甘やかな空中飛行を楽しんだのであった。 

社交シーズン真っ只中ですからね。騎士団長であるノクト侯爵は王都でのお仕事(主に警備)で手一杯です。

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