7. アラーチェ公爵令嬢シャイア(3)
前半ターニャ視点、後半にちょこっとだけシャイア視点です。
その日はいつもと違って、シャイア様は気合いを入れたドレスアップをご所望なさいました。いつもは私がいくら可愛くして差し上げようとしても、遠慮なさるあのシャイア様が! なんでも今日はとても大事な会議なんだそうです。
これは叶えない訳にはまいりません!!
シャイア様を輝かせるために、コウモリのシャーリーちゃんに加えて、トカゲのメルメルちゃん、モグラのトトちゃんを作成いたしました。パステルカラーのお友達です。えへっ☆
この子たちを繋げたヘッドドレス……! ああっ! 我ながら傑作ではありませんか!!
ですが、さすがに三体分とあって重みのバランスを取るのが大変でしたが、ガッチリしっかり頭部に固定しました。いってらっしゃいませシャイア様!!!
「あら。今日は貴女も来るのよターニャ。素晴らしい仕事をしてくれる貴女を皆様に紹介したいの」
え。
ええっ?!
「そ、そそそ、そんなシャイア様、私なんて一介の女官でございますしモジモジ」
「謙遜しないで。貴女は王妃様に認められた美の伝道師ではありませんか。自信を持ちなさい」
私プロデュースの最高にお可愛らしいシャイア様が慈愛の微笑みをぉ!! こ、これは……!
ピコーーン!
「鹿! 鹿でございますぅ!!」
次のトレンドは鹿で決まりです! 今、降りてきました! ああ、モチーフは溢れんばかりのハート。色は空色!! 早く……早く作りたい!!
「アッ! いけませんわジュリアス殿下。私にはレナード様が」
ハッ! いけない。インスピレーションに思わず我を忘れておりました。こ、これから私はシャイア様と会議に出るんです。お化粧は? 髪はほつれていないでしょうか。
「いや、貴女のあまりの美しさにめまいを起こした私を許しておくれ」
ドムッ!
美しい?! めまい?! ドムッ!?
突然降ってきた甘やかなお声、あれはジュリアス王太子殿下……がシャイア様を抱きしめていらっしゃいますぅーー!! これはぁーーっ!!
…………。
………………。
「ごめんなさいね、ターニャ。私、調子に乗りすぎていたみたい」
お部屋に戻られたシャイア様は落ち込んでいらっしゃいました。それもそうです。まさかジュリアス王太子殿下に求められてしまわれるとは。シャイア様にはレナード殿下という愛しい婚約者様がいらっしゃいますのに。
私が上手なお慰めの言葉をあーでもないこーでもないと探しているうちに、シャイア様は一転、とても真剣な顔をなさいました。
「ここは覚悟しなければならないわ、ターニャ」
シャイア様の菫色の瞳には真摯な光、レナード殿下への確かな愛がありました。
「私はレナード殿下一筋ですの。それを示すために、ターニャ、明日からはオシャレ可愛いスタイルはやめて、野暮った地味スタイルを徹底してくれる?」
そ、そんな……!
「そんな……シャイア様は何も」
私は言いました。シャイア様は何も悪くないと。
「ターニャ、貴女のオシャレ可愛いスタイルはジュリアス殿下を惑わせてしまった……。あの場を見ていた者もいるでしょう。ですが、明日も同じようにオシャレ可愛い格好で会議に出れば、それはジュリアス殿下のご好意を受ける意思表明に他なりません。……封印しなければならないのですよ」
「シャイア様ァ」
ベソベソ泣く私を、シャイア様は優しい言葉で慰めてくださいました。
◆◆◆
そんなことがあった翌朝、会議室に現れたシャイアはなんと軍服だった。髪は巻かず、結わず、銀色の滝のように軍服の背を流れ落ちていた。
「ごきげんよう!」
「ご、ごきげんよう!」
突然の変化に、文官たちはギョッと目を見開いたが、その眼差しには腫れ物にさわるような風も嫌悪感も感じられない。
「では、我が国における規制植物一覧ですが……」
軍服の威力だろうか。シャイアが背筋を伸ばして話し始めると、会議室内に良い意味での緊張感がみなぎった。いつも以上の熱い議論と成果を得て、会議は終了した。
(フフフ。男装なんて初めてやったけど、コレいいわね)
なんだか自分が強くなれた気がして、気分が上がる。今までさんざん時間をかけたヘアメイクも何もないので、支度に半刻とかからないのも良い。
ジュリアス殿下の提案でターニャを誘い出して一芝居打ったのだが、ここまで身軽になれるとは思わなかった。でも、嬉しい誤算だ。
(レナード殿下も少しは役に立つのね)
ドムッ! はシャイアの頭からパステルカラーのお友達が落下して床に激突した音です(笑)。ジュリアスがシャイアを抱きしめるついでに頭から外して落としました。
ジュリアス「シャイアを抱きしめたら、目の前にアホっぽいトカゲの顔があったから、反射ではたき落としてしまったよ。ハッハッハ!」