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5. オルド辺境伯令嬢リーゼロッテ(1)

前半がリーゼロッテの話、後半がピピナ&浮気婚約者ズの話となっております。

 一方のリーゼロッテは、国境を越えた隣国ポルッカのエルド領に来ていた。


挿絵(By みてみん)


 新道建設に着工する報せとアラーチェ港利用の取り決めなどを詰めるためだ。資料を抱え、アラーチェ領から派遣された港湾総括の文官とエルド領主館に入ったリーゼロッテだが、会議の席に現れた人物に目を丸くした。


 鳶色の長髪を三つ編みにして肩に垂らし、日焼けした肌に琥珀色の瞳。この方は……。


「ジュリアス王太子殿下におかれましては、ご機嫌麗しゅう……」


 隣国の王太子ジュリアスが新道建設とアラーチェ港を通じた貿易に並々ならぬ関心を寄せているとは、シャイアから聞いていた。しかし、まさか本人が出てくるとは思わなかった。


「このプロジェクトはエルド領だけでなく、ウチの経済に少なくない影響を齎すからね。それに、一つ間違えば火種にだってなりうるだろう」


 ペリクルスの森を縦断し港に繋がる新道は、なにも真っ当な商人だけを喜ばせるものではない。法の整備や検問の機能が整っていなければ、そこを突いて良からぬ物を売買しようという輩が必ず現れる。


「だが、検問ばかり増やせばいたずらに時間ばかり無駄にする。それでも、禁製品が入り込むのは必ず食い止めなくちゃいけない」


「おっしゃる通りですわ」


 特に魔物素材や薬草の中には怪我や病気に有効なものもあれば、麻薬作用があったり、精神に異常をきたす作用を持つものもあり、取り扱いが難しい。


「うむ。決めなければならないのは、どこに関を置くか、それと具体的に何をどう規制するかだな。我が国と貴国では判断の基準も異なるだろうから、それらも含めてすりあわせていこう」


 どうやらジュリアス王太子自らその作業に加わるつもりらしい。朗らかな笑みを浮かべ、ジュリアス殿下は握手を求めてきた。骨張って大きい、温かな手だった。


「実りある話し合いをしよう。よろしく頼む」


(王都で胸の大きな男爵令嬢にかまけてばかりのどこぞの王子殿下に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ)


 そんなことを思ったリーゼロッテであったが。ドンッとジュリアスがテーブルに置いた資料の山を見て目を点にした。


「こちらが我が国の検問で規制している品の資料だ。確認を頼む」


(こんなに?!)


 堆く積まれた資料は、とてもすぐに読める量ではない。これは……


(夏至祭、無理かも……)




◇◇◇




 リーゼロッテが分厚い資料と格闘している頃、王都の学園では彼女たちの婚約者がロマーナ男爵令嬢ピピナと優雅なアフタヌーンティーを楽しんでいた。


「そういえばもうすぐ夏至祭だねぇ。ねえねえ、ピピナはドレス決まったぁ?」


 そう言いながらフィナンシェをつまみ、ピピナの口に運んでいるのは、アメティス伯爵令息ジャスティン。クロスロード伯爵令嬢イリスの婚約者である。


 なお、夏至祭とは生徒会主催のイベントで、夏期休暇の前に行われる夏の交流会だ。


「ドレスは持っていないので、私は見送ろうかなと思い」


 ピピナが皆まで言う前に、


「それはダメだ! ドレスなら私が用意しよう。心配しなくてもいいよ、ピピナ」


 第一王子レナードがガタンと椅子を倒してそう言い、


「あ! だったらアクセサリーは俺が!」


「ウチで支度していくといいよ。部屋とメイドを貸してあげよう」


 ノクト侯爵令息ダレスとアメティス伯爵令息ジャスティンが先を争うように申し出た。


「なら私は美しい貴女のエスコートをしよう」


 と、そのあとにスピカ侯爵令息クライヴが普段の鉄面皮が嘘のような蕩ける笑みでピピナに提案すれば、ピピナはパアッと目を輝かせて「ありがとうございます!」と花が咲いたように笑った。


「あそうだ! 観劇のチケットがあるんだよね~。ねぇ、ピピナ。放課後空いてる?」


 マドレーヌをつまんでピピナに差し出しながら、ジャスティンが観劇にいこうと言い出した。


「こら、ジャスティン。私たちは生徒会として夏至祭の準備があるだろう」


 第一王子レナードがそれをたしなめた。その顔に、一瞬だけ不愉快さが浮かぶ。

 そう、奇しくもこの四人は生徒会メンバーであった。レナードが生徒会長で、今この場にはいないアラーチェ公爵令嬢シャイアが副会長。他三人の役職は……まいっか。名誉職みたいなもんだし(笑)


 今は薔薇の花が見頃を迎えており、夏至祭まで猶予はあとひと月くらい。本来なら、準備で大忙しになっているはずである。


「ええ~。今日くらいいいじゃん。俺たちだけが生徒会じゃないんだしぃ」


 と、ジャスティンは口を尖らせ、貴重なチケットのボックス席だと強調した。


「じゃ、ピピナ、放課後校門のところで待ってるから」


 そして、誰かが口を挟む前にジャスティンは軽やかな仕草で席を立ち、あっという間に生け垣の向こうに消えた。いわゆる『言い逃げ』というヤツである。


「ジャスティンにも困ったものだな」


 レナードがやれやれとため息を吐き、他二人も相づちを打った。のほほんとしていたピピナは全く気づかなかったが、その瞬間、三人の視線がぶつかり牽制の火花を散らした。


 え? そのあとどうなったかって?


 もちろん、みんなで仕事をサボって観劇に行きましたとも。

誤字報告、ありがとうございます(ノシ_ _)ノシ

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