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13 消えない焦燥感

 「サイラス、サイラス、起きて。お仕事行かなくていいの?」

 「ん―――、あれ? ルナがいる……夢かな……?」

 サイラスは寝ぼけながら、ルナを抱き込んで再び眠ろうとする。

 抱きしめられたまま、ルナはサイラスの肩を揺さぶる。


 「ねぇ、サイラス、起きて。今、一体何日で、何時なのかしら?」

 「……ルナ、可愛い。ん―……。あ、ルナを王都に連れてきたんだっけ?」

 「そうだよ。サイラスが転移魔術で、私も一緒に移動させてくれたけど、ここに着いて二人とも疲れてそのまま眠ってしまったみたい。ごめんなさい。そのままの格好で寝たからベッドが泥で汚れてしまったわ」

 「大丈夫大丈夫。洗浄の魔術を使えば、すぐにキレイになるよ。あ―あと、仕事はマークに事情話して、成人の儀式の日を含めて一週間休みにしてあるから大丈夫」

 サイラスは説明しながらも、ルナを抱きしめる手を緩めてくれない。ベッドで抱きしめられて寝ている状況に、そういったことに疎いルナも頬が赤くなる。


 「ルナ、顔赤いけど大丈夫? 疲れて熱でも出た?」

 さらにはルナのおでこにサイラスがおでこをくっつけてきて、綺麗なオッドアイが至近距離にある。

 「あの、サイラス、離してくれると、ありがたい。というか、恥ずかしいの」

 「わールナ照れちゃってるんだ。かーわい。僕のこと、そんなに好きなの?」

 「うん、好き。連れてきてくれてありがとう。でも、そろそろ離してほしい」

 「離し難いなぁ。でも、ガツガツいって嫌われちゃってもダメだし、解放してあげる」

 サイラスはルナの鼻にキスを落とすと、抱擁を解いてくれた。


 「どうやら、丸一日寝てたみたい。大丈夫、休みはあと五日間あるし、のんびりしてルナが生活するのに必要なものを買いに行こう」


 それからの四日間は、ごはんを食べに行ったり、家でお茶したり、ルナの衣類や生活するのに必要なものを買いに行ったりしてのんびり過ごした。


 ずっと王都に出てくる日を夢見ていた。ルナを疎外する村や虐げるダレンから離れて、ヤクばあちゃんの厳しい修行の日々から解放されることを。サイラスと気兼ねなく会えるようになることを。


 でも、実際にそうなってみて、日がな一日サイラスといると、すごく幸せだけど、心の底からじわじわと不安や焦りの気持ちが湧いてきた。


 いつもサイラスがルナを甘やかしすぎると止めに入ってくれるヤクばあちゃんがいないので、サイラスは際限なくルナを甘やかす。でも、なにもしていないのに、甘やかされれば甘やかされるほど、自分にそんな資格があるのか不安になる。


 ふとした瞬間に、脳内にヤクばちゃんやサイラスの上司である冒険者ギルドのギルド長のマークの言葉がよぎる。


 今の自分はサイラスの足を引っ張っていないかな? サイラスの邪魔になっていないかな?


 早く自立しなくちゃ。ちゃんと仕事して、ちゃんと生活して、ちゃんと家を借りて。

 早く早く、サイラスに釣り合うようにならなくちゃ。


 サイラスが隣にいても、いつの間にかルナの中はそんな焦りの気持ちでいっぱいになっていた。


◇◇


 「あ、そうだ。大事な事忘れてた! ハイ、ルナ、プレゼント」

 

 サイラスの休みの最終日の朝、サイラスが差し出してくれたのは、会って間もない頃にプレゼントしようとしてくれた髪飾り。

 

 ルナはじっと、サイラスの手の中の銀細工の小鳥の形の髪飾りを見た。あの時と変わらず紫色と空色の綺麗な石が煌めいている。


 今の私はこれを受け取るのに値するのかしら?


 「あールナももう十五歳だし、もっと大人っぽいもののがいいかな? 今日、一緒に新しい物を買いに行こう! 髪飾りじゃなくても、アクセサリーでもいいよ」

 ルナが受け取るのを躊躇していると、気に入らないのだと勘違いしたサイラスが提案してくれる。


 「違うの。ずっとずっとこれが欲しかったの。ありがとう。胸がいっぱいになっちゃって。もらっていい? つけてもいいかな?」


  慌ててルナが返事をすると、サイラスはほほ笑んで、ルナの髪に小鳥の髪飾りを着けてくれる。


 「わールナ、可愛い。ルナはなんでも似合うね。今日はどこか行きたい所とかある? 疲れてたら家でのんびりしてもいいよ」

 

 ルナは意を決してサイラスにお願いすることにした。

 「あの行きたい所が一つあって……」


 サイラスに手を引かれて王都の街を歩く。辺境の村、しかも、自分の家とヤクばあちゃんの小屋しか知らないルナにとって、これだけたくさんの人がいる雑踏にまだ慣れない。


 隙間なく建てられてる建物や、ひしめく人々を見ると、その情報量の多さに眩暈がするので、繋いでいるサイラスの手を頼りに足元だけを見て歩く。


 「着いたよ。ねー、ルナ、そんなに焦らなくてもいいんじゃないかな? ほら、一人で暮らすのも二人で暮らすのもそんなに手間やお金は変わらないし。急いで仕事しなくても、しばらく家でのんびりしてて大丈夫なんだよ」


 「………ありがとう、サイラス。なにかしてないと落ち着かなくて。すぐに仕事とか出来なくても、まずは冒険者登録だけでもしておきたいの。サイラスと一緒の時のが心強いかなって」


 「そっか。ルナのためならいつでも時間つくるから大丈夫なんだけど。じゃ、行こうか」


 サイラスの勤め先でもある冒険者ギルドの扉をサイラスが開けてくれて、手を繋いだままサイラスに続いて行く。


 サイラスはルナが冒険者登録する事をかなり渋っていた。もしかしたら、休日まで職場に行くのが憂鬱なのかもしれない。早く一人で出かけられるようにならなければ。ルナのやることリストの項目が一つ増えた。


 サイラスとルナが冒険者ギルドに入った瞬間、場がシンッと静まり返った。心なしかサイラスとルナに周りの視線が集まっている気がする。


 「おやおや、サイラス今日まで休みじゃなかったっけ? ああ、ルナちゃん久ぶり。王都へようこそ。今日はどういった用件だい?」

 サイラスの上司であるギルド長のマークに声をかけられる。見知った顔に声をかけられてルナはほっとした。


 「すみません、冒険者登録お願いします」

 「ハイハイ、王都に着いたばっかなのに感心なことだね。受付はこっちだよ」

 サイラスの付き添いがあることもあって、薬師として冒険者ギルドへ登録する作業はスムーズに終わった。その間、やはり周りからジロジロと見られている気配がする。村での事を思い出して、少し身が竦む。自分はどこかおかしいのだろうか?


 「ねぇ、サイラス、私どこかおかしいのかな?」

 「え? ルナはどこもおかしくないよ。いつも通り、僕の頭がおかしくなりそうなくらい可愛いよ」

 「そう……?」


 ちらりと周りを見渡すと、目線がさっと外される。冒険者と思しき女の人達はみな、自信に溢れていて露出も多くスタイルの良さを強調した格好をしている。ギルドの職員の女性職員は、かっちりしたギルドの制服を着て、仕事の出来そうな美人が多い。サイラスは王都でこんなに魅力的な女の人達に囲まれて、なぜルナを選んでくれたのだろう?


 サイラスの気持ちを疑ったことはないが、ルナは王都にきてどんどん自信を失っていった。

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