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神官ミリアは神の言うことしか聞きません 10

「そうね、それじゃあ今度教会に行かせてもらうわ。クィーラ様に祈らないと」


「あ、ありがとう、ございます……! あなたには必ずやクィーラ様の恩寵が下るはずです!」


 感激した様子で両手を合わせるミリア。


 これで今日二人目の信者獲得である。

 

 街の家々を訪ねる訪問勧誘は、このところ調子がよかった。


「やったわー!」

 家を出るなりピョンピョン跳ねるミリア。


 神官服のスリットから大事なところが見えているのに気づいていないようなので、じっくり鑑賞させていただく。

 眼福であった。


 それにしても――


「やり方を変えただけで、勧誘ってこんなにうまくいくものなんだ」

 俺は呟いた。


 先日、他教団の神官ラーニャから信者勧誘のノウハウを学んでからというもの、ミリアは信者を獲得できるようになった。


 クィーラ教の信者はここ一週間で8人も増えた。


「私の力ではないわ。クィーラ様の恩寵のおかげ、ラーニャさんの教えのおかげ――そして子羊さん、あなたのおかげなの」

 ひしっと、俺を抱きしめてくるミリア。


「僕? 僕なにもしてないよ?」


「あらあら冗談言わないで。私が辛い時、あなたはそばにいて励ましてくれたじゃない。今日だって、こうして布教についてきてくれる――あなたとの出会いは私の人生で一番の宝物よ!」


 すりすりとこすりつけられるミリアの頬が心地よくて、俺は目をつむった。

 

 たまにはこういうのも悪くない。


女の母性、いい……!


**


 ミリアには信者以外の友達も増えた。


 時々、魔導書グリモア屋のルビィが教会を訪れるようになったのだ。


 俺が「ミリアの話し相手になってやってくれないか」と頼むと、優しいルビィは快く応じてくれた。


 今日も教会を訪れ、ミリアになにやら悩み相談をしているルビィ。

「あの……前も相談した、彼氏のモトキくんのことなんですけど……モトキくん、おっぱいのことしか頭にないみたいで……たまに会いにきてくれても、わたしの上着のボタンはずしておっぱいで変態的なことするだけで……わたしの書いた小説も、最近読んでくれなくて……」


「あらあらルビィさんたら最低男にとらわれてしまったのね……そんな男の子には一度ガツンと言ってやらなきゃだめよ。そうだ、あなた得意の攻撃魔法をたたき込んでおやりなさいな!」


「でも……はじめてをあげた男の子だし、怒れなくて……結局許しちゃって――たまに本気で燃やしてしまいたくなるけど……!」

 ちらっと、恨みがましい目を子供に化けている俺に向けてくるルビィ。


「…………」

 俺はそっと、二人のそばを離れた。


**


 またある日には、頼んでもいないのに教会にリューが来た。


 ミリアにわめくように嘆きを聞かせるリュー。


「ちょっとちょっと聞いて下さいよ神官さぁん! 私の彼氏がひどいんですよもー! やべえんすよあいつ、ええ、やばいんです。おっぱいの事しか考えてないんです。頭の中もおっぱい。出てくる言葉もおっぱい。触るのもおっぱい。しまいにゃセカンドつくって乳くりあって、今度はサードまで作ろうとかなめくさったことを……!」

 ドンドン、と教会の長机を叩くリュー。


「あらあら……この街にはずいぶんと性にだらしない男の子が多いのね。心配だわ、いつの間にこんなに風紀が乱れてしまったのかしら。一度こらしめてしまいなさいな。クィーラ様の名の元に暴力を許可します」

 

「…………」

 俺はそっと二人の元を離れた。


**


 教会に祈りを捧げにくるようになった街の人たち。

 彼らはみなミリアに「ずいぶん雰囲気変わったね」と声をかけていく。


 ミリアが優しく、そして明るくなったと褒めていく。



「ふんふんふーん♪ らーん♪」

 

 音の外れた鼻歌を歌いながら洗濯物を干すミリア。


 手をかざし、眩しそうに太陽を見上げる彼女の顔には、生きることへの喜びが満ちあふれていた。


「お父さん」

 ミリアは空に向かって呟く。

「私、もう寂しくないの」


 そうしてミリアはぎゅっと俺の手を握った。



 幸福な日々――だがミリアの平和は唐突に終わる。


**


 その夜、ミリアは奇妙な感覚に目を覚ました。


 全身をぬるい水に包まれるような――。


「…………っ」


 目を開けると、ミリアは空にいた。


 全身に吹きつける風。


 夜空を覆う雲、その隙間から漏れる月の明かりが少し眩しい。


 見慣れた街の家々は遙か下方。

 

 現実感が希薄になる。

 もしかして自分は、生まれた時からずっと空の上にいたのかも――思わず、そんな空想をしてしまう。



『――女神クィーラの忠実なるしもべ、ミリアよ』


 ミリアの眼前に、クィーラ教の聖人シルヴァが出現した。


「シルヴァ様……」

 ミリアは両手を合わせ平伏した。


『ミリアよ、よくぞ信者を増やした。そなたの努力と成果にクィーラ様はお喜びだ』


「……女神様が……あぁ……なんたる光栄!」

 

 自分のたゆまぬ努力を、愛する女神が認めてくれた。

 ミリアの胸は誇らしさでいっぱいになった。


 だが――


「シルヴァ様、こたびの成果は私一人の力で成したものではございませんわ……! 私一人ではなにもできはしませんでした。祝福は、私ではなく私と共にいてくれた方々に!」


『その慎ましさも、そなたが女神の忠実なるしもべである何よりの証拠である』

 シルヴァは微笑む。

『ところで、そなたに一つ仕事を頼みたい』


「仕事、でございますか? は、はい! わたくしめになんなりとお申し付け下さいまし……!」


 光臨した聖人に仕事を頼まれる――ミリアにとって、それは光栄以外のなにものでもなかった。

 

 なんでも、どんなことでもするつもりだった。


 だが――。


『ミリアよ、このところお前と共にいるあの男児。――やつを殺せ』



「…………え?」


 ミリアは耳を疑った。



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