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第7話 『創世司書』

 巨体は、眼前に不動の山の如く立ち塞がる。ひらひらと靡く布は身体を隠し、動きが読めない状態にあった。だが、恐らく機動力はシズクの方が高い。魂の特性が分からないうちは、遠距離から戦うのが得策だろうか。

 シェルデンは背後に背負った二本の鉈を構える。特に何か、特別な加工がされているわけでもない、ただの危険物だろう。

 シズクは竜の図鑑を腰ポシェットに、しっかりとしまい込む。移動、戦闘、雑用、そして秘密の本の四冊、よく使う汎用の本から『戦闘』の本を取り出して、七十二ページを開き構える。

「『創世司書(ライブラリア)』」

 左右同時に迫る刃を遮るよう、両手へ盾を生み出す。守ることに特化した物は、並大抵のことで消えたりはしないと言う。

 続くように、二十四ページ。クロスボウを錬成し、両手の盾を投げ捨てて照準を合わせた。

 が、なぜだろうか。無意識のうちに、構えたシズクの腕はライアとフランクリンの交戦する方向を向き、戻ることはない。

 幸いにも腕以外は、マトモに動くようだった。背後を見せたことを好機に、シェルデンの刃は迫るばかり。クロスボウを投げ捨て、その辺に散っていた盾の一つを爪先で拾い上げ、宙で回転するようにして隙を埋める。

 攻撃を逸らす魂か。いや、或いは——

 

「他者を操る魂……か?」

 

 シズクの脳内にて、パズルのピースが当てはまるように。二年前、ザスディアを襲った異形の大群、あれは何故だろうかと考えていたのだ。

 当時のギガノスに、野生のモンスター群を束ねるような力や権力は無かった筈。故に、答えを導き出すように。

 シェルデンの魂、恐らく『洗脳』の類か。モンスターの思考は単純であり、それぞれの群の頂点、長をマインドコントロールしてしまえば、下っ端共は勝手に戦ってくれる。

 この魂の力で、ザスディアは滅ぼされたのだろう。

「そうか……お前かぁ‼︎」

 奴の魂の正体が見えた。シズクは自制を解除し、ようやく、本来の力で戦える。

「なんノ話だァ?」

「あぁ、いやぁなんでもねぇ‼︎テメェを潰すことにしたってだけだよッ‼︎」

 豹変したように、言葉を荒くする。熱くなる性格、と言うのだろうか。今のシズクには、今まで見てきた冷静な性格など、どこにも見当たらない。

 振り回される鉈を潜り抜け、巨体の足元へ。股下を潜るように滑り込み、ローブの裾を掴んで通り抜け、全力で引っ張る。視界の悪い仮面では攻撃もしづらいだろう。それに、シズクの企みに気付けていないようだ。

 ローブに足を引っ掛けたシェルデンはそのまま巨体を支えきれず、倒れ込む。続けざまに五十一ページ。鎖鎌が描かれていた。

 仮面の隙間へ刃を引っ掛け、こちらに全力で寄せるように。前のめりで倒れ込んだシェルデンは、シズクの姿を捉えることすら出来ていない様子だ。

「これがぁ‼︎祖国の怨みだぁ‼︎」

 シズクは、武器の本を閉じて、四冊目、秘密の本を取り出す。神々しいごちゃごちゃとしたディティールの九十八ページを大きく開いて、その面を引き寄せられるシェルデンの背中に押し当てる。

古代(エンシェント)起源魂『トリシューラ』」

「貴様、なンのつも……⁉︎」

 言葉を遮るように、シェルデンの腹部を貫く三又の紅い槍が飛び出す。吹き出す血を浴び、余計に紅を増している『トリシューラ』の姿は、とてつもない威圧を放っていた。

 シズクの『秘密の本』とは。かつて存在した起源魂所持者が扱ったとされる力を纏め、編纂した『起源魂図鑑』である。

 形の記された物限定ではあるが、別世界で伝説と扱われた武具等を生む特性を持った起源魂を『一時的に我が物とする』事ができる。

 正直、どの起源魂よりも出鱈目な力だ。

 シェルデンを難なく突破したシズクは、怒りを全て出し切ったような、清々しい笑みを浮かべていた。

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