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第8話 準備万端整えて!


「……パパ活?」


 クラウは怪訝な表情を隠さない。当然だ。この世界にパパ活なんて概念はないだろう。


「ざっくり言うと、若い女性が年上の男性と一緒に食事をして、対価としてお金を受け取る行為よ」

「なんで食事をしただけで金がもらえるんだ。それ、男が金を払うのかい?」

「そうよ」

「理解に苦しむ」

「そこは同意するわ」


 私自身、パパ活経験なんてない。元の世界で女子高生だった頃、経験者から話を聞いてただけ。

 正直、当時は理解が出来なかった。どれだけ楽で簡単でも、オジサン相手に媚びなんて売りたくない。お金を出す男もホント馬鹿。普通にバイトでもしてたほうがよっぽどマシだと思ってた。


「でもね……背に腹は替えられないってわけ」


 国を追われ、何もかも失った私が持つ武器。それは熱狂的なファンが付くほどに恵まれたこのルックス!

 そしてもう一つ、以前の人生から持ちこんだ私だけのとっておきの武器がある。


「ターゲットはガラブ伯爵よ。うまく近付いて金を毟り取ってやるわ」

「ふむ……確かに君のルックスはあの男の気を引くだろうね。だがそれだけで大金を奪い取れるかな?」

「黙って笑ってるだけじゃダメね。だから武器が必要なのよ。……クラウ、ガラブについて知っていることを全部教えてちょうだい」


 クラウは椅子に腰を下ろしたまま、軽く肩をすくめる。


「オレがそんなに暇に見えるかい?」

「もちろん支払いは存分にするつもりよ。今の私には地位も権力もお金もない。でも必ず全てを手に入れて、治療費、滞在費、家庭教師代諸々含めて倍額……いえ、言い値で返すわ」


 まっすぐに視線を合わせる。ここが勝負所だ。今の私に頼れる相手は、彼しかいないのだから。

 一瞬の間を置いて、クラウがにこりと口角を上げる。


「……いいだろう。ただし支払いはいらない」

「え? でも」

「その代わり、あんたがそこまでの地位に上り詰めたら俺の頼みを一つ聞いてほしい」

「頼み?」

「今は秘密だ。その時になってから言うよ。大丈夫、命や地位を要求したりはしない」

「秘密主義ね。……わかったわ。今は私のほうがよっぽど無理を言っているわけだし」

「契約成立かい?」

「ええ。これからよろしく、クラウ」


 それからの一週間。私はクラウがどこからか持ちこんだ本を片っ端から読み込んだ。

 ガースバルト帝国の歴史、経済、産業。ゲームをやりこんでいたおかげである程度の知識はあったから、それを補強する形でひたすら理解を深める。

 ガースバルト帝国は現在、貴族同士の対立が活発化している。大きな派閥は主に穏健派と武闘派。長く穏健派が主流だったものの、しばらく前に皇帝家の跡継ぎを巡って大きな騒動が起き、貴族の勢力図にも変化があったらしい。

 これは私にとっても好都合だ。恐らく潜り込める隙は充分にある。


「……ところで、あなたの正体はいつになったら教えてもらえるの?」


 懐かしいドレスに袖を通し、新品の靴を履いてゆっくりと立ち上がる。

 薬草がよく効いたおかげで、もう足は痛くない。少しずつリハビリをして、体力もずいぶん回復した。


「言ってるだろ。森に住む風来坊だよ」

「はいはい、腕のいい衣装屋と知り合いの風来坊ね。あれだけズタボロだったドレスを、よくここまで修復したじゃない」

「やっぱりあんたはそういう格好が似合うな」

「ありがとう。……どう、変じゃない?」


 その場でくるりと一回転。クラウは笑って手を叩く。


「いいね。どこからどう見ても立派な悪女だ」

「まあ失礼ね。貴族の令嬢みたいって言ってくれないと」


 ただし、悪役令嬢だけどね。


「準備は出来たわ。パパ活作戦、開始するわよ」


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