第7話 パパ活をするのよ!
「帝国を乗っ取るとは大きく出たもんだ。さすがイデア・アバティーノ嬢。しかしどうやるつもりだい?」
面白そうに笑うクラウを睨んで、私は枕に背を預ける。包帯の巻かれた足は痺れるように痛くって、まだ動ける状態じゃない。
「そうね……まずはバースカルトの軍を動かせる立場に上り詰めないと」
「ほう? どうやって」
「それはまだ考え中。一兵卒として部隊に潜り込むのは現実的じゃないし時間がかかりすぎるわね。手駒は多めに欲しいけど……」
「驚いたな。かなり本気じゃないか」
「おなかが減って頭が回らないわ。食べ物をくれない?」
「はいはい。まずはスープからだな、ずいぶん長く寝てたし」」
スープと聞いただけで、ぐう、とおなかが鳴った。最後に食事をしてから、一体どれだけの時間が経っただろう。
民衆はまだ私を捜索している? 私の家は? 家族はどうなった?
ベッドの上でわかることは何一つない。ああ、なんて無力。
「ほら。ゆっくり食べな」
目の前に湯気の立つスープの器が差し出される。受け取ると、温かさで視界がぼんやりと曇った。
「……ありがとう」
スープを一口すすろうとした、次の瞬間。
ドーン! チーン! バーン!
雷のような打楽器の音が空気を震わせた。追従するのは威勢のいい金管のメロディーライン。
ちょっと! 今はもっとセンチメンタルな空気出すとこでしょ。雰囲気ぶち壊しなんだけど。
「うるさ! 何この演奏!?」
「来たな……」
クラウがカーテンをそっと開け、窓の外を見るよう促してくる。
そこにはいたのは緑の森を行進する、赤い制服の音楽隊。更には金ぴかの武装で固めた、オモチャみたいな兵士たちがぞろぞろと続く。
「ガラブ伯爵の部隊だ」
「え!? タラコ!?」
「ガ・ラ・ブ!」
「聞こえないわよ!!」
凄まじい打楽器の殴打音がひっきりなしに響き、とてもじゃないけど会話が出来ない。
目配せをしあって、ひとまず行列が立ち去るまでスープをすすりながら外を眺めることにする。
(あ、あれが偉い人かな?)
揃いの制服を着た兵士の中に、ひときわギラギラ輝くオジサンの姿が見えた。一人だけ馬に乗っているからとにかく目立つ。あれじゃあいい的だ。暗殺とか警戒してないのかな。
馬上でも偉そうにふんぞり返って、時々兵士に向かって何か叫んでる。どう見ても無能な指揮官タイプ。でもお金は持ってそう。
やがてギラギラ行列は森の奥へ消えていき、辺りに静けさが戻った。隠れ潜んでいた鳥たちがやれやれとばかりに鳴き始める。
「はぁ……鼓膜が破れるかと思ったわ」
「街中でやると苦情が出るから、最近こういうひとけのない場所を歩くようになったんだ。正直オレも迷惑してる」
「あんなの毎日聞かされてたら死んじゃいそう。あ、スープごちそうさま」
「食うの早」
「おなかが減ってたのよ! で、あれは誰なの?」
「ガラブ伯爵だよ。自分の権力を誇示するために、ああやって派手な楽団を連れて行進するのが趣味」
「伯爵ね……バースカルト帝国ではかなりの権力者なの?」
「代々軍人を輩出する家柄だから、軍部には顔が利く。まあ戦争がない今は金食い虫だと批判を浴びているんだが。見ての通り、頭の出来は」
「悪いのね」
「ご名答。地位だけの男だよ、あいつは」
ずいぶんな言いようだ。この分だと、帝国内でもガラブ伯爵の評判は良くないのだろう。
とは言え、私にとっては好都合。
「決めたわ。あの男から資産を搾り取る」
「は?」
「頭が悪くてお金があって人望がない。うってつけの人材じゃない。何をするにもまずは先立つものが必要だしね」
「あいつから金を毟り取っても誰も困らないが……どんな方法で?」
「それはね……」
髪をさらりと後ろへ流し、とびきりの笑顔を作る。
「パパ活をするのよ」