第6話 えっと……命の恩人……!
「んん……積みゲー崩さなきゃ……あれ?」
ふっと意識が覚醒する。
まず目に入ったのは見知らぬ天井……もとい丸太の天井。見た感じ、木造のコテージだ。
ベッドは固いけど寝心地良好。遠くからは鳥が呑気にさえずる声がする。
(……まだ、生きてる?)
恐る恐る自分の首を触った時、視界に人の顔がフレームインしてきた。
「やあ。起きた?」
おわあ……銀髪キラキラの長身イケメンだ。これ、まだ夢かな? こんな美男子、ゲームの中にしかいないでしょ。
「おはようございます……あいたた」
「寝たままでいいよ。あんた、運がよかったね~。見つけたのがオレじゃなくて山賊だったら、酷い目に遭わされてたよ」
この喋り……チャラ男かな? 外見とのギャップ萌え狙いと見た。
それにしたって本当にすごい美形。『ホワイトカメリアの花嫁』通称ホワ嫁の攻略キャラとして登場していてもおかしくないレベルだ。
(サブキャラにもいなかったはず……敵じゃなければいいんだけど)
ちなみに、キャラのタイプで言えば私の趣味じゃない。すいませんでした。私、黒髪の冷徹宰相系が好きなんだよね。
「あの……あなたは?」
「鈍いな~。状況見たらわかるだろ、命の恩人様だよ」
「それは理解してます。そうじゃなくて、あたた……」
全身の痛みを感じながら、根性で起き上がる。特に傷が深いであろう両足には、ぐるぐる巻かれたヨレヨレの包帯。
なるほどね、不器用属性も追加と。可愛いな。
「素人調合で悪いけど、薬は塗っておいてあげたよ。運が良ければ一週間ぐらいで治る」
「……運が良くなかったら?」
「オレの夢見が悪くなる」
物騒なこと言うじゃない。ちょっと不安になってきた。
「あなたの名前を教えてくださる? 万一の時のためにも、自分の仇の正体は知っておきたいもの」
「ふむ。出来れば恩人として感謝されながら名乗りたかったが、呪うべき相手の名前を知らないもそれはそれで可哀想だ。教えてあげよう、オレの名はクラウ。森の小屋に住む物好きな風来坊さ」
「クラウ……」
どこかで聞いたような、聞いていないような。ホワ嫁に出てきたか? ――ダメだ、やっぱり思い出せない。
「ありがとう、まずは助けてもらったお礼を言うわ。私の名前は……」
「あー、結構結構。冷酷無残、極悪非道、泣く子も黙る絶世の美女、イデア・アバティーノ嬢の名前は隣国まで知れ渡っているからご安心を」
「隣国? 隣国って……ここは……」
「セインハーモニア王国のお隣、バースカルト帝国の領内さ」
頭の中で地図を思い描いた瞬間、口からひゅっと息が漏れた。
「嘘でしょ」
「嘘を言ってどうするんだよ」
「え。は? 私、バースカルトまで自力で逃げてたの?」
「そういうことになるね。オレは国境近くに用事があって、帰る途中で行き倒れのあんたを発見したんだけど」
住んでいた街から国境はそこまで遠くないが、それにしたってこの足でよく移動したものだ。正直自分を褒めてあげたい。
いや、それより問題は『国境を越えた』ということだ。実はホワ嫁の世界の中で二国は非常に仲が悪く、過去には何度か戦争も起きている。今は表立った争いがないものの、敵愾心を保ったまま冷戦中だ。
要するに私は今、敵国の懐の中。これは――つまり――
「……都合がいいわね」
「うん? どういう意味だい」
「そのままの意味よ。私はね、降りかかった理不尽に抗うと決めたの」
何度も死を覚悟した。けれどまだ命がある。だったら、やることは一つだけ。
「無力な私に武器を向け、石を投げ、罵声を浴びせた民衆を……セインハーモニアという国を決して許さない」
家も金も権力も失った女に何が出来るか、見ていなさい。
私はベッドで拳を握り、高々と宣言する。
「この手でセインハーモニア王国を滅亡させてやるわ。バースカルト帝国を乗っ取ってね」