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第5話 私は悪役令嬢……けれど!

 こんにちは。そんなこんなで落ちるところまで落ちた絶体絶命の悪役令嬢です。もう処刑まで秒読みでしょ、これ。


「あー……どうしよっかなぁ」


 足の裏の痛みは深刻で、まともに走れなさそうだ。下手に逃げ回るより、この裏路地に潜んで暴動をやり過ごしたほうが生存率は高いかもしれない。


「神様仏様推しの皆様……どうか私を見守って……あわよくば安全な場所へ導いてください……」


 なむなむ念じながら、胸元から一切れのパンを取り出す。屋敷に民衆が押し寄せる中、唯一持ち出せた食糧だ。

 新たな食糧を手に入れる手段なんて、現状あるはずがない。手の平よりも小さな一口サイズのパンで、出来るだけ飢えをしのがなきゃ……。


「では……いただきま」


 す、を発音するより早く、どこかでおなかの鳴る音が聞こえた。

 私じゃない。背後からだ。

 恐る恐る振り返ると、汚れてやつれきった男の子と目が合った。敵意は感じない。が、私のほうを――正確には私の手の中のパンを食い入るように見つめっぱなしだ。

 ――だからなんだ。これは私のパンだし。これで少しでも体力を回復して生き延びなきゃならないんだし。持ってる食べ物は本気でこれ一つだけだし。

 第一、今の私はイデア・アバティーノだ。平民の暮らしなんて一切顧みない悪女が、痩せ細った子どもに情をかけたりする?

 イデアは情に流されたりしない。自分が生きるか死ぬかという時に、他人に施しなんてするはずない。それが悪役令嬢わたしというものだ。

 私は。私は……。


「……ほら」


 気付けば、私の手は男の子にパンを差し出していた。

 男の子はきょとんとした顔で受け取る。憎悪も怒りもない、純粋な驚きの瞳。小さな口が開いて、何かを言おうとする。

 それを聞くより早く私は立ち上がり、路地の奥へと走り出した。

 忘れかけていた足の激痛が蘇る。空腹なんて一瞬で吹き飛んだ。


「いたぞ!」

「イデア・アバティーノだ! こんなところに隠れてやがった!」


 背後から複数の怒声と足音が追いかけてくる。ああ、見つかっちゃった。大丈夫、まだ距離はある。逃げ切れる。

 私はイデア・アバティーノ。それはこの世界で与えられた役割の名前。

 でもこの身体を操るのは『私』だ。悪役令嬢として振る舞う必要なんてないし、この理不尽に怒りをぶつける資格がある。


「どうして……私がこんな目に、遭わなくちゃならないのよっ……!」


 こんな酷い仕打ちを受けるのは嫌だ。処刑なんてもっと嫌だ。

 私は私だ。ゲームのキャラクターなんかじゃない、ただのゲーム好きの一般人なんだから。


 痛む足を引きずって下水道へ入り込み、ひたすら奥へ進んだ。

 追っ手の声と足音はいつの間にか消えていた。それでも怖くて、道もわからないまま闇雲に走り回って――それからのことはあんまりよく覚えてない。


「……あれ?」


 うっすら目を開けると、湿っぽい匂いがした。頬に冷たい土の感触。


「ここ……外?」


 周囲には緑の草木。やたらと丈が高い……いや、これは私がうつぶせに倒れているせいだ。


(こ……こんなところで寝てる場合か!?)


 どうやら町からは出られたみたいだけど、まだそこまで離れてはいないはず。ぐずぐずしてたら追っ手がやってくる。

 早く逃げなきゃ。早く早く。早――。


「うご……かない……!」


 疲れ果てた身体は身動きを一切拒否。指一本も動かせない。

 そんなぁ。捕まって処刑されてもいいって言うの?

 なんとか動こうと芋虫みたいに身をよじろうとした時、ふっと頭上に影が差した。


「おやぁ? ずいぶんと大きな落とし物だね、こりゃ」


 心臓が凍り付く。まさかもう追っ手がここまで?


「だ……れ……?」


 せめて顔を確認しようと限界まで視線を巡らせる。

 ちらりと見えたのは綺麗な緑の瞳。直後、ぐるんと視界が暗転する。

 ああ、エネルギー切れか……。願わくば、次に目を覚ます場所が処刑場ではありませんように。


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