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第3話 がんばったんだけど甘かった……!

 結論から言おう。ダメでした。

 色々なイベントが起きた末、イデア(わたし)の処刑が決まりました。あーあ。


「これでも頑張ったのになぁ。やっぱりプラン作成が甘かったのか……」


 自室に閉じこもった私は、これまでの出来事に思いを馳せる。

 始まりは民衆へ配るためのケーキ作り。用意させた大量の小麦粉は、実は民衆が有事の際にと必死に蓄えていたもので――それを強引に奪った私は莫大なヘイトを買ってしまった。

 失敗を取り返そうとしてパンを配ったりパーティを開いたりしたけど、時すでに遅し。全てが裏目に出た結果――


「悪女イデアを殺せ!」

「処刑しろ! 家から引きずり出せ!」


 はい、絶賛大ピンチ。

 窓の外には怒り狂った民衆が集い、罵倒や怒声が聞こえてくる。父はとっくに処刑され、憎悪と殺意の矛先は今や私を集中狙い。


「うう……なんでこんな目に……」


 現実を直視すると身体が勝手に震えてくる。嫌だ。怖い。死にたくない。そりゃ一度は死んだけど、もう一度死にたいなんて絶対思わない。しかも大勢の人に憎まれて処刑されるなんて――

 ガシャン! という激しい物音で私は思考を中断した。


「キャアッ!!」


 大きな石が窓ガラスを割って部屋に飛び込んできたのだ。しかも石は一つだけじゃない。次から次へと投げ込まれてくる。


「つっ……」


 鋭い痛みを感じて額を触れば、指先に血が付いた。飛んできたガラスの破片がかすったらしい。

 ああ。窓の外の人たちは、本気で私を殺すつもりなんだ。


「殺せ! イデアを殺せ!」


 もうすぐ屋敷の中へ、怒りに駆られた民衆が踏み込んでくる。


「八つ裂きにしろ!」


 そして泣き喚く私を捕まえ、処刑台へ引きずっていく。


「殺せ殺せ殺せ!!」


 私はその光景を知っている。ゲームのワンシーンだ。

『ホワイトカメリアの花嫁』のプレイ中は、グッドエンドへ至る途中の小さな結末の一つでしかなかった。散々ヒロインをいたぶってきた悪役令嬢の悲惨な結末を見て、プレイヤーは「ざまぁ」と思うだけだった。

 だって、イデアはそれだけの『悪事』をしでかしてきたのだ。


「だからって……なんで私が死ななきゃならないの!?」


 生きたい、私はもっと生きたい!

 恐怖にすくんでいた足が弾かれたように動いた。民衆の集まる表とは逆側、裏庭を見下ろす窓に駆け寄る。


「民衆は裏庭から攻め込んでこなかった……大丈夫……行ける……」


 ゲームの記憶を必死に辿りながらカーテンを引き剥がし、結び合わせてロープを作る。手が震えて力が入らない。下りてる途中でほどけないといいんだけど。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 窓枠に結びつけた簡易ロープをつたって、地上を目指す。

 高い。怖い。それでも死ぬよりはマシだ。やろうと思えばなんとかなる。あと少しで地面に――


「居たぞ!!」


 頭上から声が響いた。

 反射的に見上げた窓辺に、包丁やシャベルを持った民衆の姿がある。


「あっ……!」


 驚きと恐怖に手が滑る。落下時間は案外短く、すぐにどすんと鈍い衝撃。よかった、まだ生きてる。


「生きてるんなら……こっちのもんよ!」


 跳ね起きて地面を蹴って走り出す。

 ドレスが重い。ヒール靴が痛い。それでもここで逃げなきゃ、間違いなく命を奪われる。


「悪魔の公爵アバティーノの血を許すな!」

「オレたちを散々いたぶったイデアを殺してしまえ!」


 裏庭を飛び出し、暗い路地をでたらめに走り回る。方角なんてわからない。どこへ逃げれば助かるの?


「逃がすな! 殺せ!!」


 殺意が追いかけてくる。投げつけられた石が足にぶつかり、鋭い痛みが走る。


「つっ……う……うう……!」


 涙を拭い、痛みを飲み込んで、私は逃げた。恥も外聞もなく、ただ生きるためだけに。

 生き延びた後どうするかなんて、その時に決めればいい。

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