第17話 悪役令嬢センサー!
「それじゃあな、ミュート!」
「イデアさんもまた~」
ミュートの双子の兄・デュークと、彼の先輩だと言うビクムは陽気に手を振って去って行った。
どこからどう見ても陽キャの二人に対して、ミュートはずっと大人しい。まあ、わかるわ。陽キャの輪に入るのってつらいもんね。
黙って歩き出すミュートの後を、私も黙って追いかける。追い払われるまでストーカーしちゃうもんね。
なんたって、死体隠蔽工作の片棒を担いでもらわなきゃならないんだから。
「……なんでついてくるの?」
「話がしたいからに決まってるでしょ」
「仕事の話なら断ったよね」
「他にも話があるのよ。……さっきのデュークって人、あなたのお兄さん?」
「そう。僕よりずっと立派で優秀な兄」
「剣が得意なの?」
「……今度、セインハーモニアと剣術の親善試合が行われるんだ。親善って言っても国同士の仲が悪いから、代理戦争みたいなもんだけど。デュークはバースカルトの代表として出場する」
「国の看板を背負うほどの腕前なのね。すごいじゃない」
少しの間が空く。話を続けるか、やめるべきか。迷うような沈黙だ。
「……勝てば国中から称賛されて、山ほど報酬をもらえる。でも、負ければ……前回出場したバースカルトの代表選手は、試合に負けた翌日に死体で見つかった」
「怖っ! ヤバすぎない? この国」
「そのぐらい体面を気にしているってこと。これまでは軍人ばっかり代表になっていたけど、デュークは今回初めて民間から選出された。絶対負けられない戦いに挑むんだ。……すごいよね。僕と違って強くて勇敢で」
……なんだかコンプレックスの気配をびしばし感じる。
顔は似ていても中身は全然違う兄に山盛りの劣等感を抱えてるのかな。どこの世界でもあるんだな、そういうのって。
一度話し出したらミュートの口は止まらない。これまでずっと溜め込んできたんだろう。それを話す相手が私でよかったのかはわからないけど。
「僕はデュークみたいになりたかった。……皮肉だよね。変装すれば誰にだって成り代われるのに、本当になりたい相手にはどれだけ頑張ってもなれない。虚弱体質の僕がどれだけ努力しても、デュークの才能は手に入らないんだ」
「昔からお兄さんが羨ましかったの?」
「……そうだよ。生まれた時からずっと比較されてた。デュークは優しくて、誰にでも好かれて、運動が得意で喧嘩も負け知らずで……僕にないものをみんな持ってる。僕には何もないんだ。自分自身に価値がないから、誰かに成り代わろうとしてきた……」
ミュートの足が止まる。細い路地で振り返り、賑やかな雑踏を寂しげに見つめる。
あなたにだって特技はあるとか、居場所はあるとか言うのは簡単だ。でも、彼が本当に欲しいものはきっとこれからも手に入らない。
それがわかるから何も言えない。彼だって慰めの言葉を欲していない。
「……本当になりたいものになれないから、変装の仕事を辞めるの?」
結局投げたのはそんな質問ひとつ。
ミュートは雑踏から視線を外して、子どもみたいな顔のまま小さく頷いた。
「ああ。仕事を辞めてこの町を離れるつもりだよ。デュークがいない場所へ行けば、僕は僕のままでも生きていける気がするから」
「そう……残念だわ」
「仕事を受けられなくて悪かったね」
「違うの。……私はあなたの変装術を素晴らしいと思ったから。ああ、上手く言えないわ。ごめんなさい」
ミュートは少し首を傾げてから、初めて私に微笑めいた表情を見せてくれた。
「その言葉だけで充分だよ。ありがとう」
それが別れの言葉だってことはわかった。私は黙って彼を見送る。
居場所がない辛さは私も少しわかる。なんたって石を投げられて追われたぐらいだし。まああれは自業自得っていうか、悪役令嬢の行く末って感じ。
無力さを噛みしめながら、とぼとぼと道を戻る。
その途中。私は路地裏で妙なものを見つけた。
「……だろう? ……問題……からな……」
デュークと一緒に居た先輩、ビクムがフードの男と話し込んでる。妙だと思ったのは、さっきの陽キャの空気が全然なかったせい。
これは怪しい。悪役令嬢センサーがそう告げるので、もう少しだけ路地裏に近付いてみる。
聞こえてきたのはビクムの嘲笑だ。
「何も知らずに騙されっぱなしだぜ。馬鹿な男だよな、デュークは」




