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第14話 姫とギャルと邂逅

投稿を忘れていたので本日は朝に1話投稿、夜にもう1話投稿とさせていただきます。申し訳ございませんでした。

***

SIDE:風川風奈

***


 話は3ヶ月前まで遡る。



 ウチは、不思議と恋愛というものには特に縁のないJKだった。

 確かに同性の友達は沢山いて、人と話すのは何より得意。世間話しながらスイーツを一緒に摘んだりできる関係に持ち込むなんて3日あればできちゃう。だから、自分でもイケイケギャルな自覚はある。


 …………なんだけど、その分ウチは恋愛というものをしたことがない。もっと言えば恋愛感情を持って人を好きになったことがない。

 一度見たものを絶対に忘れない記憶力を生まれつき持っているせいで勉強は他人の3倍速ぐらいでできちゃうし、それで空いた時間とか休みの日なんて軽い運動とかやった後はほぼ全ての時間を“リビコン”に費やしちゃってる。

 もしかしたらウチは、恋愛に注ぎ込むべき精神力を全て“リビコン”に向けてしまっているのかもしれない。ゲームが恋人だなんてマジ笑える。

 

 だけど、そんなウチに転機が訪れた。



「俺、お前みたいな可愛い女の子と付き合ってみたかったんだよね。カップルにならね?」



 ある日の放課後、若林茶螺男わかばやし ちゃらおという隣のクラスの男子が急に告白してきた。

 どういう形であれ、こうやって人に愛を告げられたことはない。

 何を思ったのか、こんな機会は二度とないと考えそれを直ぐに承諾してしまい。彼と付き合うことになった。

 ただ、これは大きな間違いで、今思い返しても馬鹿なことをしたなと思っている。



***


 若林はボクシング部なのもあってか体格が良く、しかも日焼けしていて、パッと見でチャラ男だと感じ取れる人物だ。

 学校内で悪い友達集めてタバコ吸ってるし、暴力にも抵抗がないし、授業を真面目に聞かないどころかサボってる日も多い。そんな奴なので、紳士的なデリカシー等も当然ない。



「付き合ってんだからいいだろ?」



 と言いながら体を触ってくるのは日常茶飯事。友人からも別れるように早々に勧められた。

 なのにウチは、恋愛してみたいという好奇心に勝てなかった。もしかしたらこの人のことを好きになるかもしれない。今はそうじゃなくても何か起きる可能性だってある。そう信じながらズルズルと彼との関係を続けていた。

 強いていえば、キスやその先だけは上手く断れた。ある意味それを言質に何かされるかもしれないという直感が働いていたんだと思う。



 そんな日常を続けている内に1ヶ月が経った。そしてある日、ウチと若林はデートとして近所のゲームセンターに来た。

 リア充の溜まり場だけど、今のウチはリア充としてここにいる。そういう機会がやっと訪れたのだとなにか嬉しくなっていた。


 ちなみに、ウチはゲームセンターといえばガンシューティングが好きで、1度コンテニューしまくってクリアした後、完全に敵の配置を記憶した状態で確実に銃弾を当ててノーダメージクリアをするスコア荒らしをたまにやっていたりする。この記憶力があるなりの人生の楽しみ方は“リビコン”に限らず色々あるのだ。

 が、彼に一緒にプレイするよう誘ってみても、



「えー趣味じゃねぇ」



 とスルーされ、何故かUFOキャッチャーのコーナーに来ている。

 正直ここ最近は実力勝負に見せかけてアームの強度がこれまで入れられたコインの数によって変動する確率機《運ゲー》が多いため、あえてやることは少ない。


 なにより、運だけの勝負は嫌いなんだ。記憶力も反射神経も無駄になるから。多分20歳(はたち)になってもパチンコとか競馬はやらないと思う。

 とはいえ彼も彼でウチに何かしてあげたいという気持ちは伝わる。


 とりあえずは最近流行っているちいさくてかわいい生き物のぬいぐるみをねだっておいた。

 透明なガラスケースの中に、両腕で抱きかかえられるほどに大きいぬいぐるみが1つポツンと景品として置かれている。

 それを掴もうとする大きいアーム。

 強度が変動する、運だけのゲーム。

 降りるアームはぬいぐるみを掴むが、ズルリとターゲットを落ちてしまう。



「なんですぐアームからズレるんだよ!」



 確率機も知らないなんてマジウケる。

 でも、なんていうか、ここに来てこいつと一緒にいるのが冷めてきた。

 趣味が合わないどころか全面的に人として噛み合わない。


 今日のデートが終われば別れを告げてしまおう。

 そう考えている内にも若林は一向にUFOキャッチャーに勝てず、遂には2000円は投入したようだけど、それでもアームはずっと弱い強度だ。無駄だというのに何やら試行錯誤している。どうしていい格好をしたい男というのはこうも惨めなのか。



「クソッ、もう二度とやらねぇ!」



 結局、彼は筐体に手を叩きつけ、追加で本気の蹴りまで浴びせ、店員に白い目で見られ始めたところでこのゲームセンターでのデートを終えることになった。

 正直最後に筐体に暴力を振るったのは嬉しかった。付き合う価値のない短気な男だと割り切れる最後の判断を下せたから。


 出口へ向かう途中、ウチらはカードを排出するトレーディングカード要素がウリの児童向け筐体のコーナーを通った。男児向けなら特撮ヒーローやロボットアニメ、女児向けなら魔法少女やアイドルモノと言ったジャンルと様々なものがあり、子供も大人《大きいお友達》も順番を守って平等にプレイしている。


 そこで、偶然にも“マジパラ”というゲーム筐体のプレイ座席にウチの高校の生徒が座っているのを確認した。

 ピンクでフリフリした衣装にバンドバッグとまるで自分をお姫様だと思い込んでいるかのような姿から、一目見て隣のクラスにいる太田姫子だとわかる。



「あいつ、ガキ向けのゲームやってやがるぜ」



 そんな彼女に対して若林がかける言葉は、目に見えて他人の趣味を見下すモノだった。

 改めて彼の人間の見方というものが自分勝手で愚かな奴なんだと理解させられてしまう。


 何故そう思うかといえば、太田姫子のプレイするゲームそのものにある。

 あの手の女児向け筐体は実は音ゲーとしてしっかり作り込まれておりゲーマーからの評価も高いモノ。なのでウチみたいなクソ彼氏に振り回されてやりたいことができていない女にとって、それを楽しめている彼女はかえって妙に輝かしく見えていた。


 だから、ちょうどプレイが終わった時にウチから声をかけた。



「姫川じゃん、ヤッホー☆」



 元気いっぱい、ウチなりの挨拶だ。

 そんなウチに気付いた彼女は()を睨みつけるような目をしながらウチを見つめこう返した。



「え〜何〜? 嫌味なの〜? そっちは彼氏連れてリア充してて、ウチみたいな趣味にリソースぶち込んでる奴に対して現実でマウント取りたいワケ〜?」



 い、いきなりそこまで言わなくても良くね!?


 正直にそう思ってしまった。

 まあ、ウチの声のかけ方が悪かったのも事実だし反省しておこう。ぴえん。

 ただ、同時にウチは彼女の妙に甘い声色のその言葉が耳に響いたとき、体全身に伝うような快楽を覚えた。


 こんな2次元みたいな雰囲気を出せる少女がいるだなんて考えてもいなかったけど、なんて言うか本当に可愛い声だ。


 学校でたまに聞くものと同じなのに、それがウチに直接向けられた言葉だということに何か特別な意味を見出してしまったほど。

 この声でずっと名前を呼ばれたい、甘やかされたい、お話したい。

 そんな気持ちが湧いてきた。

 ウチは彼女の声を聞いている内に、いつの間にか若林の事が本当にどうでもよく感じていた。



「おい、もう帰るぞ」



 そして、若林にそのまま引きずられてしまい、ゲームセンターから去ることになった。



***



「ねぇ」



 帰り道。デートもそろそろ解散するであろタイミングでウチは、若林に思いをぶちまけようと話を切り出した。



「なんだよ?」



 ハッキリと意思表示して、ウチと若林の恋人関係を終わらせる。その思いを込めて声を出した。



「ウチら別れね? 今日のデート、なんていか噛み合わなくてさ、付き合っていくのは流石に無理な気がしてきたんだけど」



 事実は事実だ。自分でこの言葉を出せてとてもスッキリしている。

 けど、現実は非常に厳しいものだった。



「ああ? ふざけんな」



 なんと、若林はウチの言葉を前に本気で怒りを顕にしだした。ウチの手を引っ張って走り始める。一体どこへ連れていこうというのだ。



「ここまで来た意味、分かるよな」



 10分程引っ張られ続けると、そこはラブホテル街の前だった。



「…………………………」



 ここへ辿り着いたとき、全てを理解した。

 ウチも馬鹿じゃない、こいつは最初から体が目当てだったんだ。恋愛しようだなんてハナから考えていない。最低最悪のクズだ。



「はぁ? ふざけんなし!」



 流石に男女の筋力差があるせいで掴まれた腕を振りほどくのは厳しい。

 反面、運動神経そのものには自信があり、走って逃げ切れ気はする。なら、上手く腕を離した隙に逃げるべきなんだけど……若林はそれを直感で理解しているような素振りを見せていて安易に実行できない。

 ホテルの中へ連れ込まれたら本当におしまい。絶体絶命だ。



 ――――――その時。



「はーい、動画撮ったわよ〜♡ それ以上やればコレ学校と警察の両方に提出するからねー♡」


 

 ぶりっ子気取りなお姫様が、スマートフォン片手にウチらの後ろから現れてそう告げてきたのだ。

 彼女は太田姫子。さっきウチが失礼な挨拶をした人物。

 まさか、ひっそりと後をつけてたの!?

 しかも後ろにはさっきのゲーセンの店員が何人かついてきていた。アレはウチを見かねて声をかけたとかでいるの?



「何だてめぇ!」


「姫は〜♡ ひ・め・だ・よ♡」



 人差し指と中指を突き出したピースサインな手で自分の右目を飾りポーズを決める彼女はこの場において1番強い物的証拠を持っており、若林はそれもあって猛獣に襲われているかのような恐怖の表情を見せている。

 暴力で有耶無耶にするには大人が数人待ち構えていて分も悪い。



「わ、た、しー、実は先生の連絡先持ってるからー、今すぐにでもラブホに連れてこようとしてたあんたの動画、送れちゃうのよー♡ 今逃げる分には見逃してあげちゃう♡」



 彼は今、完全に詰みの状態になっていた。

 わざわざ助かる猶予まで与えられているのだ、そうなればできることなどひとつしかないだろう。



「お、覚えていやがれキモブスー!」


「その程度の語彙で罵倒してくんな竿役野郎!」



 若林はその場から走り去ってどこか遠くへと消えていった。

 彼女の口から突然甘さが消えてドスの入った罵声が出てきたことは忘れることにしよう。

 なんにせよ、人生を左右しかねない危機を彼女のおかげで乗り切ることができた。

 ある意味では命の恩人だ。



「あ、あの」


「何ー?」



 だから言おう、ただただシンプルに「ありがとう」と。

 そう思い口を開こうとしたとき、ウチはあることに気づいた。

 それは、心臓の音が有り得ないほどに激しくなっていたのだ。

 何故か口が重たく感じる、何なんだこの感情は。



「マ、マジでサンキュー!」



 気が付けば、ギャルとしてお礼の言葉を述べていた。失礼にもほどがある。

 それもあってか、心臓の音は止まらない。



「今後は彼氏選びに気を付ける事よ♡」



 その場を去っていく彼女は、今まで学校ですれ違ってきたときには思いもしなかったほどに可愛く、そしてかっこよく見えていた。

 どう考えたも演技掛かった喋りなのに、あの姫な口調が可愛くて仕方ない。あの声が好き、もっと聞きたい。好き勝手にわがままを言われたい。そんな感情まで生まれてきた。

 そうして、彼女の後ろ姿を見ているウチはなにかに気づいてしまう。


 そう。


 ウチは、


 ウチは、



 ――彼女のことが好きになったんだ――



 若林と付き合ったのも、この感情に至ったことが今までなかったから、結果として選択したに過ぎない。

 これは何となくの行き当たりばったりじゃない。


 本当の恋だ。



***


 それからの日々の中で、太田姫子を、いや、姫チーの友達になりたいと思って必死に声をかけ続けた。

 ウチはギャルで若者なんだ、自分の普段の距離感でせめて彼女と接したい。だから、別に恋人になれなくていいから、せめて、仲良く遊べる友達ぐらいにはなりたい、そう考えていた。


 ただ、何故か何度声をかけても上手く理由を作られ振り払われてしまい、会話することすらままならない。

 諦めはしないけど、友達になるのも叶わないのかもしれない。ぴえんを通り越してパオンで泣きそうだ。



***


 そんな中、奇跡が起きた。

 なんと、彼女の家へ遊びに行く約束をすることができたのだ。

 本当に嬉しかった。少しは友達として認めてくれたってことかな。そんな興奮でテンションあげみざわ。

 しかも彼女の前でウチの得意な“リビコン”のプレイを披露する事になった。

 今日は本当に運がいい日だ。


 ……だけど、ゲームを起動したことで事件は起こる。

 ウチと姫チーは、“リビコン”の世界へと吸い込まれてしまった。

 でも、そこで戦っている内にわかったことがある。

 今のウチは、あのとき助けてくれた姫チーに恩返しをできるチャンスを得たんだと。


 だから、この“リビコン狂人”としての知識を使って姫チーを助ける!


 そう思い、戦いに臨むことにした。

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