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観察対象最前線

作者: 幸京

榊、今日こそ、お前の正体を見抜いてやるから。

お前は一体、何者なんだ?

お前はおかしい、怪しい、推理小説読書家の私が絶対に暴いてやるわよ。


榊が私の通学する高校に転校してきたのは2年の4月で、その転校初日に榊は学校中の女子の注目の的となった。なぜなら、榊はとにかくイケメンだった。

ジャニーズにいたらしいよ。元子役なんだって。お祖母さんがアメリカ人って聞いたよ。

様々な噂が流れるも、誰も真相が分からなかった。

なぜなら、榊は授業中に教師と話す以外、一切口を開かなかったからだ。

休み時間に女子に取り囲まれても、小説を読んだり、寝ていたり、外を見ていた。

人見知りなのか、口下手なのか、方言があり恥ずかしいのか。様々な憶測があるも、

それらは全て授業中の教師との受け答えにより否定された。

質問に淀みなく答え、分からないことは素直にその旨を伝え、方言などはまったくなかった。

女子達にはそれがまた惹かれるらしく、ますます榊はモテた。

無論その反面、反感を持つ女子や多くの男子に疎まれた。

5月の初旬の昼休み、机で小説を読んでいた榊の元に山本が近づき高圧的に言った。

「おい、何、シカトこいてんだ」

身体が大きく喧嘩自慢の山本が、榊を見下ろしながら言った。

榊は自分に言われているのが分からないのか、聞こえていないのか、無視をしているのか分からない。

ただいつものように、教師以外とは何も話さず本を読んでいた。

「おい」

山本が再び声をかけながら榊が座っていた椅子を蹴ると、そのまま椅子と共に榊も教室の壁に叩きつけられた。榊は倒れたまま顔を上げ、ただ無表情に山本を見ていた。そんな榊を山本は睨みつけ舌打ちをする。

「すかしてんじゃねーよ。雑魚が」

山本はそう言い捨てながら教室を出た。

教室はざわつき、何人かの女子が榊の元に近づき怪我の心配をしていた。

声をかけるそんな女子達に何を言うでもなく、榊は椅子を元に戻し、再び小説を読みだした。

女子たちは榊の周囲に集まり、山本の悪口をひたすら話すも、

何事もなかったように小説を読む榊の顔は変わらず綺麗だった。

次の日、道端に頭から血を流し倒れている山本を、会社帰りのサラリーマンが発見した。

幸い命に別状はなかったが、頭部への殴打による強いショックから両目とも失明した。担任から翌朝のホームルームで何か知っていることがある生徒は警察、またはどの教師でも良いので話してほしいとのことだった。

山本はその後、自主退学して二度と榊の前に姿を見せなかった。


高校2年生の冬休み直前、榊の家を突き止めた私は、30メートル程離れているビルの5階非常階段の踊り場から望遠鏡を用いて榊の自宅を観察する。家は普通の2階建ての一軒家であり、榊には両親と弟1人がいることが分かった。榊の綺麗な顔とは違い、両親や弟の顔立ちは普通で、家族の中でも榊だけは違った。


高校3年生の初夏、学校の音楽教師が妊娠した。

独身で、榊に惚れている以外は問題はなかったが、どこからか相手は榊だという噂が流れた。

その噂の発信源を、私はすぐに突き止められた。

ただただ呆れた、本当の相手は榊ではなく元彼だろうが。

榊に相手にされず、ストレス解消に寝て妊娠、ありきたりの話で、ため息と共に舌打ちが出る。

お前も両目の視力を失ってみるか?

そうすれば、二度と榊の綺麗な顔を見られず諦めもつくんじゃないか?

榊に近づく人間は、その綺麗な顔に魅せられる、良くも悪くも。

腸が煮えくり返っていたが、当の榊は相変わらずで、今日は外を見ていた。

その変わらない綺麗な横顔を見ていると、自然と怒りは消え失せた。

蒸し暑い外から聞こえる、普段はイライラする蝉の鳴き声が心地よかった。


20年後、まだ私は榊の正体を暴くために観察している。

榊は変わらず綺麗な顔立ちで、個人トレーダーとして働き、ほぼ自宅のマンションにいる。

榊、お前はやっぱり怪しい、一体何者なんだ。


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