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掌編短編まとめ

最強の男

作者: 紫葉 太郎

遥か昔南の国に、誰にも負けたことがない最強の男がいた。


名はジンヴァブ。


ジンヴァブは例えどんな者が表れても一太刀で全てを薙ぎ払ってしまうような男だった。


ジンヴァブはあまりにも強く、とうとう国の中で自分と戦おうとするものがいなくなってしまった。


ジンヴァブは国を出て、より強い人間を探した。


最初に訪れたのは西の国、その国には世界一と言われる剣士がいた。


しかしその剣士でもジンヴァブに傷を付けることはできなかった。


結局ジンヴァブは西の国でも最強になってしまった。


次にジンヴァブが訪れたのは東の国。


その国には世界一と言われる格闘家がいた。


しかしその格闘家も結局指一本ジンヴァブに触れることは出来なかった。


結局ジンヴァブは東の国でも最強になってしまった。


最後に訪れたのは北の国。


その国には世界一と呼ばれる魔術師がいた。


しかしその魔術師はジンヴァブを前に魔術を唱えることすら出来なかった。


周辺国をすべて周り終えた頃からジンヴァブはこの世界中で自分に勝てるものなどいないのでは無いかと

考えるようになった。


自分にとって戦うこととは生きることそのものだった為、ジンヴァブはふと自分が世界最強の男になることでその後の人生で戦うこと、即ち生きる意味が無くなってしまうことが怖くなった。


そこでジンヴァブは弟子を取り、その弟子を自分と同じ程の強さに育てることが出来れば死ぬまで永遠に戦い続けることが出来ると考えた。


早速ジンヴァブは南の国に帰り沢山の弟子を取ることにした。


興味本位で集まる者も多く百人ほどがジンヴァブの元に集まってきたが、結局過酷な特訓についてこれず三か月後には百人から六人にまで弟子の数が減っていた。


そして更に二か月後。弟子の数はとうとう一人だけになってしまった。


残った者の名はアンダビ。


この男はとにかく出来が悪く、ジンヴァブに言われた特訓をこれまでまともにこなせたことは一度も無かった。


しかしやる気だけは人一倍あり、この五か月間一度でも弱音を吐いたことは無かった。


それどころかどれだけ苦しくても、体がボロボロになっても一日の終わりには必ず笑顔でジンヴァブに礼を言うようなそんな男だった。


正直ジンヴァブはアンダビに期待はしていなかった。


たとえどれだけ特訓をしたとしても自分程の強さには到底なれる筈が無いと諦めていた。


しかしジンヴァブは一度でもアンダビを捨ててしまおうなどと考えたことは無かった。


気が付くとジンヴァブはこの生活、アンダビに特訓をつける日々が楽しいと思えるようになっていたのだ。


ジンヴァブには家族はいない。生まれた頃から一人で生きてきた。


そんなジンヴァブにとってアンダビは初めて出来た家族のような存在だった。


それから十年が経ち、毎日ジンヴァブの特訓をこなし続けたアンダビはジンヴァブ程では無いにしろ国で名が通るほどの強さに成長していた。


そして更にそこから五年が経った頃、とうとうアンダビはジンヴァブと互角に渡り合えるほどの強さに成長していた。


しかしそれと同じ頃にアンダビは重い病に掛かってしまう。


世界的に見ても治った例の無い死に至る病だった。


当初の目的をやっと達成できたことよりも何よりも息子同然に可愛がってきたアンダビが死ぬことにジンヴァブはとてつもなく絶望した。


諦めることが出来なかったジンヴァブは世界を周った。


しかしどの国の医者に話を聞いても治る方法は見つからなかった。


それでも諦めることが出来なかったジンヴァブは片っ端から多くの人間から話を聞くことにした。

時には力で脅したり、苛立ちから人を殺めることもあった。


そんな日々を過ごしていくうち遂に一つだけ病を治す方法を発見する。


それは魔術によって病を治す方法だった。


そしてそれには強者の屈強な心臓が必要だった。


この世界でそれに該当する心臓を持っているのはジンヴァブだけ。つまり自らの心臓を使うしか病を治す方法は無かった。


しかしジンヴァブは迷うことなく心臓を差し出すことを承諾した。


それどころか笑顔で「そんなことで良いのか!」と喜ぶ程だった。


その後ジンヴァブはその魔術を行える魔術師を連れ、急いで国に戻った。


そして一目散にアンダビの元へ向かう。


しかしそこにアンダビの姿は無かった。


それもその筈だ。ジンヴァブが病を治す方法を見つけるのに十年もの月日が経っていたのだから。


どうやらアンダビはもう2年も前にはこの世にいなかったらしい。


ジンヴァブもそのことには薄々気づいていた。


しかしそれでも、どうしてもその現実を受け入れることが出来なかったのだ。


ジンヴァブは絶望し、大声で泣いた。


今までのアンダビとの生活を思い出し、そしてどれほど強くても、例え世界最強だったとしても叶えられないことがあることをジンヴァブは知る。


いついなくなったのかは分からないが、気が付くとジンヴァブは国から姿を消していた。


それどころか他国でもジンヴァブの姿を見たものはその後現れなかった。


どこでどのようにして最強の男が死んでいったのか。


それを知っているのはジンヴァブ本人だけだった

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