山爺
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午前6時。
寝惚けた頭を無理矢理叩き起こし、すっかり起きて働き始めていた従業員の人達に挨拶をしつつ、ランニングの為に一時宿を出させてもらった。
街がまだ寝静まっている明朝、薄っすらとかかる朝靄の中を軽く走っていく。
鳥の鳴く、涼しげな空気が漂う街の中で深呼吸をしてみれば、少し気怠い頭や、何かが詰まっているような肺が、一新された様に醒めていく。
明けたての空と相まって、晴れやかな心地だ。
道中、旅の道具を扱っている店を見つけた。
ランニングがてら見つけておきたいと思っていたからちょうどいい。ここへ立ち寄ろう。
走り終わって宿に戻って来た時、宿の時計はちょうど7時を指し、街にある時計等の鐘が鳴った。
この音でマヤが起きたかもしれない。
ドジって書き置き一つ残してこなかったから、もしかしたら俺を探しているかも。
そんなことを思いながら、静かに急いで部屋へ向かう。
部屋へ入ると........杞憂だったな。まだ寝てる。
しかもわざわざ、俺のベッドで。
寝かせておいてやりたいが、早めに出ておいたほうが良いだろうから、肩を軽く揺すりながら声をかける。
「マヤ〜、起きろ〜。」
「んん.....?あ、おはよう.....。」
「おはよう。」
眠気眼をこすりながら、マヤがゆっくり起き上がる。
「あなたのベッド、あなたの匂いが移ってて凄く寝心地がよかったわ。」
「あはは、そうか。」
「おじいちゃん家の匂いみたいで...。」
「早よ出ろ。」
マヤの準備が整った後、宿の従業員達にお礼と別れを告げ、まずランニング中に見つけた店へ立ち寄った。
そこの店の主人が言うには、あの山は登るにはまるで適していないらしく、まず行き着くまでに森のモンスターに喰われるのが関の山だろうと言われた。
「今まで何人か山へ向かっていったが、帰って来たのは片手で数えられるほどだ。
アンタらはあの孤児院の問題を解決してくれた恩人だから、できれば行かないでほしいが...........でも、行くんだろ?」
その言葉に、ただ目を細めて薄く笑ってやった。
ーーーーーーー
準備を終え、森の入口へ着いた俺達は、モンスターが闊歩するそこへ躊躇することなく入っていった。
まだ日が昇ってから時間は然程経っていないが、目覚めているモンスターもいる。
しかし、まるで近寄って来ない。寧ろ逃げていく。
「(....俺から血の臭いでもするのかな。)」
自分達より強い相手にも向かっていくガスタノスとは違い、普通、モンスターには危機管理能力がしっかり備わっている。無理には絶対来ない。
どんなに洗い流しても消えない血の臭いを、奴等は感じ取ったんだろう。
「...あなたがいるからかモンスターが出て来ないわ。ここまで順調過ぎて怖いぐらいだわ。」
「...まぁ、ここでわちゃわちゃしてるのもアレだしな。」
会話しながらどんどん歩いていく。
やはりいっこうにモンスターは出て来ない。しょうがないとはいえ、出て来てくれないとつまらねぇんだけどな......。
「今、どこまで来てるのかしら?森が深過ぎてよく見えないわ。」
「ん?そうだなぁ〜。あ、俺が上に行って見て来るか?」
「上に?どうやって?」
「鞭を使うんだ、よっ!」
[シュッ!]
あの頭が他より高い木の枝に鞭を巻き付かせる。
そして魔力を一気に抜き、勢いよく鞭のボディを縮ませ、身体を高く打ち上げる。
[シュオンッッ!]
[ガサッ!!]
「!もう大分近いな!」
上へこの身を送り出せば、荘厳な山がもう近くに見える。
下が前よりもずっと暗くなってきていたから、そろそろだとは思っていたが、
「(あとほんの少しだな。)」
下へ落ちていき、同じように木の枝等を使いつつフワッとマヤの隣に着地。
「あと少しだったぜ!いやー目がチッカチカした。」
「...そんな使い方も出来るのね...!」
「ん?フフ、そうだな!木と木の間を猿みてぇに渡ることもできるんだぜ〜?」
「すごい...!ただの武器じゃないのね...!」
武器マニアだからか食い付きが良い。
「使い手があなたってこともあるでしょうけど、中々用途が広い武器なのね....。盲点だったわ、今まであまり注目しなかったの。」
「いいじゃねぇか。注目なんてこれからいくらでもd..」
「銃とか剣とか、王道的なものには手を出してきたわ。でも目立たない物だからこそ、他より輝かしいものが隠れてたりするのよね。」
「そ、そうね?」
「まだまだ私も甘かったわ...これからはもっとちゃんと隠れてる子達を掘り出していかないと....。」
「(...ふっ) いくらでもできるさ。さ、先行こうぜ。」
「ええ。」
武器のことになるとここまで熱くなるんだな。
「ここまで武器に明るくて熱心なやつがいると頼もしいよ。」
「まだまだよ、私なんて。お父さんの足元にも及ばないわ。」
「じゃあいつか超える日が来るかもな。」
「....来るかしら。」
「来るさ。」
「だといいけど。」
.....意外と自己評価低いんだな。
「まぁあの足臭オヤジに負けたままでいる私じゃないけどね。」
撤回。低いんだか高いんだか。
「お父さんのこと嫌いなのか?」
「嫌いじゃないわ。普通に、家族って感じの好きよ。」
「家族って感じの好き...。」
「そうそう。」
仲が悪かったわけじゃないんだな、よかった。
......家族とは仲が良い方が良いだろうからな。
そうこうしている間に、やっと山の麓に着いた。
思っていたよりもずっと切り立った山肌は、まるでこれから先へ来るなとでも言っているようだ。
どう突破するべきか....
もうこの際、山に風穴でも開けてトンネルもどきでも作ってしまおうか.....。
♪ 〜 ♪〜 ♫〜 〜 ♪〜
「.....ねぇ、これ、歌?」
「.....ぽいな...。」
微かに聞こえる、嗄れた声。男のものだ。
「あっちからだな。....どうする?」
「行くわ。」
「よし。」
歌が聞こえる方へと山肌に沿って歩いて行くと、ポッカリと空いた洞穴を見つけた。
遠くに明かりが見えるその洞穴からは、あの嗄れた歌声が増してはっきり聞こえる。
「.....この中からだな。」
♪ お客人かなぁ? ♪
「「!!」」
俺達に気付いてる....
♪ 入っておいで〜 ♪
「...招かれてるな。」
「お招きには応じないと、よね?」
「...ああ。」
♪ おいで おいで〜 ♪ ヒッヒー ! ♪
テンションたっけぇな....。
♪ 遥か 遠く 樹海の夢は 郷里を飛んで
浬の向こうまで 〜 ♪
「....愉快な人なのね。」
「....人だといいな。」
♪ おっ? 来たね〜 来たね〜! ♪
植物の緑と、洋燈の光。小さな花が生えていて、なんとなく和やかな空間だ。
♪ いらっしゃ〜い ! 何年ぶりかな〜 ♪
「.....あなたは?」
♪ ワシは〜 ♪
「山爺じゃよ。旅の人。」
「!!!」
急に雰囲気が変わった....!
「...エド。」
「ああ。」
「.....ん? ああ違う違う!敵意があるわけじゃないんじゃよ!だから構えた鞭と剣を下ろしておくれ。ワシはただ、ここを通してあげようと思って呼んだだけじゃよ。」
「.....通す?.....この向こうに?」
「当然!この山を普通に越えて行くのは不可能じゃろう。だからワシが助け舟として、ここを通してやるのじゃよ!」
「そうだったのか...、よかった。」
「但し!!」
「「!?」」
「ここを通れるのは.....
ワシのナゾナゾに答えられた者のみじゃ♪」
「「な、ナゾナゾ?」」
「そ〜うじゃ〜冒険者達よ〜!!ワシのナゾナゾに....
答えてみるがよい ♪ 」
ーーーーーーーーー
「ここを通りたくばナゾナゾに答えてみよ!」
この奇妙な爺さんは山爺といって、この山を司る仙人のような役割らしい。
ナゾナゾに答えられれば、ここを、山の向こうへの近道として通してくれると言うが ーーーーー、
「もし答えられなかったら?」
「勿論、通すわけにはいかん。この山を眺めて帰れ。」
「この山に風穴を空けて通ろうとしたら?」
「貴様の身体に風穴を空けてやる。」
.....まぁ、そりゃそうだよな。
押してでも通ろうとすれば当然ぶち当たる。
「人を殺すのは依頼された時だけでしょ?エド。」
「ああ、そうだ。」
俺の殺しにおいてのポリシー。前世、殺し屋だった時から変わっていない。モンスターだけは論外として、あとの奴らは依頼を受けた時以外絶対に殺さない。これだけはちゃんと守ると決めてある。せめてもの自制だ。
「(だから困ってんだよな〜....。)」
俺の頭、そこまで柔らかくないからな.....。
「では、よろしいかな?ナゾナゾ早速いってみよ〜!」
頼むぞ...!分かる程度のやつ来い....!
「第1問!鳴くと喧しい鳥がいる。この鳥は敵が現れるとその牙を剥き、首を綺麗に喰い、そこに円形を作り出す。この鳥ってな〜んだ?」
「「チェーンソー」」
俺とマヤが同時に答える。
「お〜!正解じゃ〜♪ これはちと簡単すぎたかの!でもまだこれからじゃ!続いていくぞ!
第2問!山では涙海では目薬、人には恵みか死をもたらす。これな〜んだ?」
涙ってんだから下に流れるものだよな....目薬は上から落ちて馴染むもの....
「さぁ!これな〜んだ?」
「!分かった!あ」
「雨。」
「あ。」
「正解〜!答えは雨じゃな!調子良いの〜♪ 」
「私のが早かったわね。」
「.....そうね。」
...別に悔しくないぜ。
「次いってみよ〜!
第3問!ソイツは薄い布団を何枚も被って寝ているが、それら全てを引き剥がすとようやく起きる。だが、ソイツは1時間、時には5分程度で、また布団を被って寝てしまう。ソイツってな〜んだ?」
.....!!?
意味わかんねぇなんだそれ....!ニ○トじゃねぇのか!?
「.......??....?」
マヤも分からねぇっぽいな.....何なんだ...!?
「じゅ〜う!きゅ〜う!」
「制限時間あるのか!?」
「あった方が面白い〜♪ な〜な!ろ〜く!..」
ヤベェ!考えろ...考えろ...!
「さ〜ん!に〜い!」
薄い布団......何枚も.....?ハッ!!
「ぜ〜「栞だ!」
「ほ?」
「本の栞!違うか!?」
「お〜正解〜!よく分かったの〜!正解は栞じゃあ!」
良かった!合ってたか!
「栞?」
「ああ。薄い布団は本のページ。1時間とか5分とか言ってたのはほんの比喩で、何時間もぶっ通しで読む奴もいれば、すぐ飽きて本を閉じる奴もいるってこと。ですよね?」
「そうじゃその通り〜♪よ〜く分かったの〜♪」
「....!なるほど...!聞いてやっと分かったわ。」
「いやー焦った。」
まだもう一問ぐらいあるか...?これ以上の来たら流石に.....
「それでは、最終問題〜!」
!最後か....!
「あんまり難しいのにしないでくださいね。」
「ホッ!大丈夫!易し〜い問題じゃよ〜!」
「......どうかしらね。」
マヤが呟く。
「最終問題!やっと鳴いた鳥も踏み外せば鼠、卓上では愚かな魚と化す。これな〜んだ!?」
.........。
「ほれほれ考えろ〜♪」
「.....!?全然分からないわ....エド、」
「人間。」
「....え?」
「答えは人間。違うか?」
「おぉ...!!! 正解じゃーーーーー!!」
「嘘.....!?凄いわエド!でもなんで人間なの?」
「“やっと鳴いた鳥”は人の誕生を意味していて、“道を踏み外せば鼠“は、罪を犯せば立場が一気に弱くなること。”卓上の愚かな魚“は裁判。”裁かれる“ことを示してる。だから総じて人間のことかな〜って思ったんだよ。」
「さばく...あっそっか!今やっと分かったわ。凄いわねエド。」
「いやいや。」
....経験者は語るってな。
「全てのナゾナゾに見事に正解したお主らには、ここを通る権利をやろう!さぁ行くがよい!冒険者よ!.....ンフッ!フンッww」
「(?何笑ってんだこのジジイ。)」
「早く行きましょ、エド。」
「ああ.....。」
少し後ろ髪を引かれながらも、先へと進む。
出口の光は全く見えない。山を通る道だから当たり前といえばそうなのだが、さっきの気味の悪い笑いのせいで疑心暗鬼になってしまう。
実は出口なんて無くて、あのジジイにまんまと嵌められたのかもしれない。
なんて思って後ろを振り返ると.....
「いない.......。」
あったはずの場所、いたはずの場所が、ジジイごと消えていた。
「......騙されてなきゃいいけど。」
「どうだろうな。胡散臭いジジイだったし。」
♪ 聞こえたぞ〜 ♪
「「!」」
♪ 好き勝手言いやがってこの〇〇〇(ピー) ♪
口悪っ
「...騙されてないみたいね。ごめんなさい。」
「すいませんでした.....。」
....ま、まぁ、確認できたってことで...うん。
そんなこんなで20分、やっと小さな光が見えてきた。あれが出口だろう。
「疲れてないか?喉乾いてたらコレ飲んでいいぞ。まだ沢山あるからな。」
「ありがとう......ってコレ、回復薬?.....喉乾いてたらって.....普通コレは傷の回復に使うんじゃないの?」
「安価で保存も効くし、疲れも癒えるし、この薬品っぽい味もクセになって、つい.....。」
「......回復薬をジュース代わりにしてる人初めて見たわ。」
そういえば正規の使い方をしたことないな。
これからはその機会が出てくるんだろうか......。
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それからもう20分後、やっと、出口まであと少しのところまで来た。
「通り抜けた時が楽しみだ。どうなってるんだろうな?」
「同じような樹海が広がってるよりかは、もっとこう、違う感じがいいけれど.....でもそれって中々無いわよね。」
「まぁまぁ。もしかしたら未知の世界が広がってるかもしれないぜ。」
「ぜひそうであってほしいわ。冒険だものね。」
想像を膨らませれば余計楽しみになる。
”鬼が出るか蛇が出るか“、なんてよく言うが、何が出ても楽しめる自信が俺にはある。
出口の光が大きくなる。
それにつれて高揚感も大きくなる。
あともう少し.....
「まぶしっ.....。」
「ふふっ!」
光の中へと、俺達2人は消えていった。
!おまけ!
[キャラクタープロフィール]
エドワード・バンディ (21) ※精神的には58歳
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・身長&体重...180cm後半、77kg(男目線の細マッチョ体型)
・好きなもの...殺し&バトル、散歩、魚介類
・武器...鞭
・血液型...AB型
・魔力型...焔
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異世界転生した今作の主人公。殺しを何よりの快楽としており、前世と同様、殺しの才能がズバ抜けている。魔性を纏わす世渡り上手の人たらし。
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マヤ・ルーツカ (16)
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・身長&体重...130cm前後、28kgぐらい
・好きなもの...武器、探検、甘いもの
・武器...剣
・血液型...A型
・魔力型...風
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ドワーフ族の少女で、腕の立つ鍛冶屋の娘。
白い髪とオッドアイが特徴。かなりの武器マニア。口が上手い。
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