明日の話をしよう
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大剣なんかを使っていれば、魔力どうこうよりもまず、体力の消費がえげつない。
が、俺が扱っているのは鞭。
その軽さ故、並のものでも音速にまで達する武器だ。ましてや、コイツの性能はそれらの倍以上。
だからこそ使い熟すのは容易じゃなかったが、手練れてしまえばこっちのモンだ。
あとは武器としての可能性を広げてやるだけだからな。
鞭で相手の防御結界を粉々に砕く。
しかし直ぐにまた結界が張られる。
再度それを砕く、復元、破壊、復元、破壊....
ひたすら繰り返し、魔法を詠唱させる隙を与えない。
「クッ...!“我は..」
[ パリーーーンッッ!!」
「あ゛ぁもう゛!!」
本気じゃないとはいえ、俺の打ち込む速度に対応できている。
相手は腐っても魔道士。今勝負をつけられねェ。
こっからは根気が要るな。
ーーーーーーーーーーーー
〜マヤ視点〜
「マヤちゃんってどこから来たの?遠くから?」
「いいえ、隣街からよ。ケットシーンって所。」
「ほんとぉ〜にご主人様を狙って来たんじゃないのよねぇ〜?」
「ええ。狙うわけがないわ。」
「16歳なのにそんなにちっちゃいの?」
「ドワーフだから、年を取っても小柄なの。あなたは...”フォレストエルフ”かしら?珍しい子ね。」
私がそう言うと、最初に私に声をかけてくれた小さな娘、フーラ は興味深そうに目を輝かせながら、
「めずらしい?ね、ね!めずらしいってなんで!?フーラめずらしい子なの!?」
....あの院長、魔道士だったらどんな種族か教えてあげられるはずなのに.....。
「フォレストエルフはね、“森の守り姫”と呼ばれている種族なの。
大昔、旅人が森の中で迷ってしまった時、森の出口まで案内してくれたエルフがいたんですって。だからそう呼ばれるようになったらしいわ。
その特徴は、とがった耳の先に、薄っすらと滲んでいる翠色。丁度あなたにもあるでしょう?」
「うん!」
「普段は森の奥でひっそりと暮らしている、家族想いな種族らしいの。だから、ここにいるのは珍しいなって思って。」
.....攫ってきたとかじゃないといいけど。
「そっかぁ!優しい種族なんだねぇ... うふふ〜♪」
頰に両手を当てて、嬉しそうに笑っている。
その表情は、院長に媚びるように浮かべていたあの表情とは、全く違う。
私の話でこんなに喜んでくれるなんて、私が凄いわけではないけれど、とっても嬉しい。
「皆は、あの院長さんから 自分の種族のお話を聞いたことはないの?」
「うん、ないよ!」
「気になって聞いたことはあるのよぉ〜?でもぉ、“知らなくても、お前は俺が幸せにしてやる”って言ってくれたのぉ〜♡」
....思いっきり話ずらしてるじゃない、院長。
「皆本当にここを出る気はないの?」
「ないよ〜!」 「出たくな〜い!」
「ずっといるんだも〜ん!ご主人様のお嫁さんになるんだ〜!」
「.........。」
.....思えば、ここにいる子達は、皆珍しい種族ばかりだわ。どこに行っても重宝されるだろうし、まず、捨てられるような子達じゃない。
それなのに.......。
私は私は?と次々に問いかけてくる子達に、自分が知っていることをちゃんと話しつつ、本題に入る。
「皆はいつまでここにいるつもりなの?」
「.....分かんない。いつまでなんだろう....。」
「(?来た時と様子が.....
! あの人..........ふふふっ!)」
[ ガタッ!]
「マッ、マヤちゃんっ!?どうしたの?!」
いつぞやみたいにわざとらしく立ち上がる。
そして....
「(ふふっ。)」
「ねぇ、こんな所に留まっちゃダメよ。」
「マ、マヤちゃん...?」
「留まっちゃダメって.... ここが私達の居場所なの。“院長”の側が....。」
「本当にそうかしら。」
「....え?」
語気を強める。洗脳がまだ完全に解けていない彼女達の心に、しっかり届くように。
「ここの院長は皆を閉じ込めて何をさせているの?あなた達は、外の世界すら満足に見れないで、院長のお話だけを聞いて過ごしているの?」
「.........。」
「もったいないわ...世界はこんなにも広いのに、皆才能に溢れているのに....!こんな小さな孤児院で、ずっと、過ごすことになるのね...
死ぬまで。」
「死ぬまで!?そんな...!」
「ずっとここにいるの....!?」
「しょうがないわよね、あなた達が自分で選んだことだもの....。もったいないわ...。」
煽る。
「違う....。」
「何が違うの?“ご主人様”のお側にいたいんでしょう?」
「違う....!」
もう一息!
「自分で自分の才能を潰して、それで満足なんでしょ?」
「「「 違う!!!! 」」」
「ハァ...ハァ....、」
皆の声と心が揃った。あとはもう.....
「.....マヤちゃん...私....私達.....。」
そうよ、ダリア。そのまま言えばいい。
「私.....私.....!!」
もう少し。
「頑張って。どうしたいの?」
「私....!!!」
〜エド視点〜
「ハァ゛ッ、ハァ゛ッ.....!!!」
向こうの息が上がり始めた。
ここまで結構時間かかったな...。
”魔力量がダンチな魔道士相手に、迂闊に大技を仕掛けるのは悪手のはず。まずはできるだけ魔力を消費させることが大事だ。“
なんて思ってた自分がアホらしくて仕方ねぇ。
雑魚じゃねぇかよ!一瞬で終われたのに、俺って奴は.....!!
「チ゛グジョウ!!俺の薔薇色の生活を....!!!このクズ野郎!!」
....コイツ、魔道士なんだよなぁ.....。
普通、魔道士といえば、“神に最も近い存在”とまで謳われている種族のはずだ。
恵まれた魔術の才能と、他とは比べ物にならないほどの魔力量を持って生まれ、長い生涯の中で、それをさらに肥やしていく....、それが魔道士。
種族ピラミッドの頂点に立つ種族。
それなのに.....ロマンだらけの種族なのに.......!!!
「裏切りやがったな!!」
「何がじゃ!!!クソッ!!こうなったら...!!!」
相手の杖に魔力が集まり、光のように輝きながら、大きな球を作る。
「これに!!全てをかけてやる!!!」
オイオイマジか!まだここまで残してやがったのか...!
「喰らいやがれやぁああああ!!!!!!」
大きく杖を振った途端、遠くからでも見えるほどの魔力光線が真っ直ぐに飛んで来た。
「死ねぇええーーーーー!!!!!!!」
〜マヤ視点〜
「私.....、私......!!!」
「さあ、もう一息!あなたは、あなた達は、どうしたいの!?」
「私.......!!!世界を見たい....!!!!
外に行きたい...!!!!」
「(勝ったわね。)」
〜エド視点〜
真っ直ぐ飛んできた魔力光線を、真っ向から迎え討つ。
「ただの魔力砲じゃ、俺は殺せねぇよ!!!」
コイツを
鞭で
真っ直ぐに
真っ二つに。
[ ズガァアアアアアン!!!!]
放たれた鞭は、気持ちよく光線を二つに裂いた。
その間から見えた魔道士の顔は.......
「ハハッ!! イ〜イ面だなぁ!!」
ーーーーーーーーーー
「ありがとうございました!おかげでウチの若いのの洗脳も解けました!本当になんとお礼を言っていいか...」
「お礼はいいですよ。依頼されてもいませんし、やりたいからやっただけなので。」
魔道士は無事逮捕され、さらに杖も取り上げられた。アイツヒョロヒョロだから杖さえ取り上げればなんとかなるだろ。
最後まで往生際悪く孤児達に、
「お前らのご主人だぞ!助けろ!」
とか
「育ててもらった恩も忘れやがって!!」
とか、散々ほざいていたが、孤児達は無視を決め込んでいたらしく、一切返事をしなかった。それどころか、目線すらもそちらに向けなかった。ざまぁねぇな。
「大人しく豚箱ん中で反省してな。」
「チッッッ!!!」
特大の舌打ちで返事された。なんだコイツ。
まぁ何にせよ無様だな。
今回、依頼じゃないから報酬は発生しないが、街のために良いことができたんだと思うと少し嬉しいし、住人達の安心したようなこの表情が見れたからなおのこと良い。これも世話焼きの性かねぇ。
孤児達の洗脳が解けた後、彼女達の中から親を探してほしいという声が上がった。
嫌な予感が当たったとマヤが顔をしかめる。
そりゃしかめるよな、攫ってきたってことだもんな。
改めて気持ち悪りぃ魔道士だな。
孤児達は一部里親候補の元へ、その他は一時警察に保護されることになった。
そのうち新しい院長ができるとのことで、心配ごとは一旦無くなったと皆胸を撫で下ろしていた。
「そっちでも、上手いことやってくれたみたいだな。」
「半分はあなたのおかげよ。最後のほう洗脳が取れかかってたから。......ねぇ、私って結構有能じゃない?」
「“かなり”有能だぞ。」
「ありがとう。
........殺されそうになったら逃げるわ。勘は良いほうだから危なくなる前に逃げれる。大丈夫だから、」
「やっぱりまだ諦めてなかったか。」
「........駄目?」
「..................。
いいよ!負けた!」
もう負けてしまおう。ついでに認めてしまおう。懐に入り込まれたことを。
「本当?」
「ああ。これからよろしくな。」
自棄になったわけじゃない。むしろ理性がいつも以上に働いてるぐらいだ。
一緒に歩くからには、歩幅を合わせていかなきゃいけない。俺に合わせることは酷だろうから、きちんと、この子の歩幅に。
不自由になるが、それでもいいさ。いつもより妙に醒めてる頭がそう言ってるんだから。
「エドワード・バンディだ。エドでいい。」
「マヤ・ルーツカ。マヤでいいわ。よろしくね、相棒。」
相棒....武器以外の相棒なんて初めてだな。
「ああ。よろしくな、相棒。」
手を差し出し、固く握手をする。
俺よりずっと小さい手だが、負けないくらいグッと強く握っている。
........マヤはどうか知らないが、俺はこの時、相棒として、何があっても支えていくという想いを握る手に込めていた。
マヤが俺の元を離れていくのは仕方のないことだが、俺からは絶対に離れない。マヤがもう嫌だと言った時以外は。
「よかったわ、しつこくついてきて。」
「ああ、よかったよ。強く追い払わないで。」
.....本当にな。
ーーーーーーーーー
〜マヤ視点〜
その晩は、悪い魔道士を倒したということで、街を挙げての宴が行われた。でも本当は、魔道士を倒した祝いというよりも、....ただ、大義名分をつけて飲み明かしたいってだけに思えたわ。
ぜひ参加してほしいと街の人達や孤児の子達に言われてしまえば、参加しないわけにはいかない.......エドも飲みたそうだし。
宴の雰囲気に呑まれてしまったのか、孤児の娘達はすっかり酔ってしまい、少し前に、親が見つかるまでの仮の家へと帰宅。
エドは向こうで街のおじさん達と腕相撲してるけど、やっぱり負け無しみたいね。
私はというと、おばさんやお姉さん達に捕まっておしゃべりの輪の中。
さっきやっと1人が寝たわ。お酒に強いのねここの人達は...。
「アタシには分かる。アンタの相棒はただの若造じゃないね。」
「まぁ、そこらにはいないでしょうね。」
そこらで出逢ったわけだけど。
「ありゃあ30を超えた男の色気ってヤツさね。.....本当にいい男だよ....。」
「アタシもそう思うー!ヒック!」
30を超えた男....?エドって、私以外には老けて見えてるのかしら?
「雰囲気が年の割に大人っぽいってことですか?」
「んーにゃ!それだけじゃない。」
「....そうなんですか?」
「「うんうん。」」
お姉さん達がうなづいてる。
「...私には分からないわ。」
「マヤちゃんはまだ若いからしょうがない。」
「「しょーがなーいしょーがなーい!」」
そう言ってまた皆一斉に飲み始める。
このお酒の臭い......もう流石に......
「ごめんなさい、私ももう気分が悪くなってしまって...。」
「あら!ごめんね〜お酒の匂いキツかったわよね〜!」
「本当に今日はありがとうね〜!ゆっくり休んで!」
「ええ、ありがとうございます。それでは。」
「じゃあね〜!マヤちゃ〜ん!」
エドには悪いけど、もう宿に向かわせてもらいましょう。
「エド、私 先に宿に...」
「おぉマヤ。宿に行くか?じゃあちょっと待っててな〜。」
そういうと、エドは周りの大人達に挨拶をして帰る準備を始めた。
「悪りぃ悪りぃ。気が利かなかったな。さ、行こうぜ。」
「....いいの?まだ居たいんじゃ...。」
「いいや?明日に差し支えない程度に切り上げようと思ってたぜ。それでも遅過ぎたな。ごめんな。」
「......あなた、老けて見られてたわよ。」
「嘘だろオイ!!?マジかよ......!!」
........まさか一緒に宿に向かってくれるとは思ってなかったわ。
「ふふ〜♪」
「楽しかったか?」
「ええ。でも明日からの方がもっと楽しみだわ。」
.....さぁ、冒険はまだこれからよ。
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〜エド視点〜
「山?」
「そう。あの山を越えてみたいの。飛行船とかじゃなく、自分の足で。」
夜、宿へ着いた俺達は、飯も風呂もとっくに済ませて、部屋でくつろぎつつ明日の話をしていた。
「そんなに高くはないから、きっとできると思うの。」
「どうだろうな。なんにせよ、準備はちゃんとしていかねぇと。」
低い山といえど、相手は自然だ。何が起きるか分かったもんじゃない。
「あなた意外と慎重なのね?」
「そんなこともねぇよ。ナメて大丈夫な奴とそうじゃないヤツがいるから、その場その場で応じ方を変えてるだけだ。」
「器用なのね。」
「そうでもねぇさ。」
とにかく、明日は山に登るらしい。
「早く寝て備えねぇとな。」
「ええ。おやすみなさい。
エド。」
「ん?」
「良い夢を。」
「.......ありがとう。おまえもな。」
きっと子供の頃、親によく言われたんだろうな。
「(......言ってもらえたからには、良い夢を見たいな。)」
なんとなく心が温かくなるのを感じながら、ゆっくり目を閉じた。
〜明日の話をしよう〜
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