Lovie・Rat
更新致しました!少しシリアスな回です。
短いですが、どうぞご覧ください!
彼女の名前はラビー・ラット。
愛らしく優しい子に育つようにと名付けられた彼女は、今、重く冷たい枷を手足に嵌め、牢屋のような部屋に入れられている。
親に売られたせいで。
...彼女がかなり酷な状況に置かれていることは重々承知だ。
この上なくデリケートなことだから、彼女の家族のことなんて勿論聞けるはずがない。
だから、俺のちょっとした身の上話や、空気が重苦しくならないような楽しい話をこちらから相手へ投げかける。
仕事でこんな変な依頼が来ただとか、元々違う世界にいただとか、道中の出来事、人との出会いのこと、ガロとマヤのこと.....
それらを簡潔にまとめ、面白おかしく調子を変えて話す。
心の距離が近くなるのを感じるまで約7分。良いペースだ。
.....そろそろいいだろう。
ということで、少しだけ彼女の奥に踏み込む。
「あの話を聞いて驚いたんだ。モンスターを生身で倒すなんて聞いたことなかったからさ。凄く強いんだな。」
「......そういうふうに生まれたから、きっと、これが当然なんだと思うわ。”わたし”が凄いんじゃないの。」
「そういうふう......。.......“赤毛”か。」
彼女は弱く頷き、言葉を続ける。
「........わたし、戦うのは嫌いなの。
......嫌いなの.......なのに、どうしようもない所が、......本能が、戦わせてくるの。」
「............。」
「敵に向かうと身体が熱くなるの。倒したら本当に気持ちがいいの。........でもその後、いつも死にたくなるわ。誰を守る為でもなく、大嫌いな人の為に命を奪わなきゃいけない......。」
「..........。」
“戦ってみたい”。その気はとうに失せていた。冷静な状態で聞いていたおかげだろう。
でもきっと、それだけじゃない。
「“目醒めた時”から、わたしのコレは変わってくれないの.......。棄てられるなら棄ててしまいたいのに、できない........。」
......そうか、この娘は......
「....似てる。」
「え?」
「俺と君は似てる。...少しだけどな。だから気持ちは解る。」
「......!...解ってくださるの...?」
その言葉に、俺は静かに頷いた。
......解るんだよ。どうしようもないんだよな。
棄てて普通になれるならどんなにいいだろうな。
良い親の元に生まれてたらどうなってたんだろうな。
それでも、この異常は、変わらず居着いていたんだろうか。
「........逃げたいか?」
「......逃げたい.....。でも、あの人が怖いの。」
戦えばラビーの圧勝は確定だ。そもそも相手にもならないだろう。彼女の強さの前ではまさに羽虫程度の男だ。
でも、心は簡単には変わらない。植え付けられた恐怖がデカいほど厄介だ。力があっても、チャンスがあっても逃げられなくなる。
.....俺もそうだった。真冬に外に放り出された時、足が血塗れになってでも、誰かに助けを求めに行くべきだった。なのに、俺はずっと、扉の奥の相手に、泣きながら謝り続けていた。
「.....じゃあ、俺が連れ出す。」
「.....え?」
「......夜、またここに来る。必ず助けるから。」
「で、でも..」
「助けさせてくれ。」
「!!」
「......ここで死なせたくない。」
「......!!.........分かったわ、待ってる....。」
....もうすぐ時間だ。早くここを出ないと。
「必ず来る!待っててくれ。」
「....!はい!....ありがとう....!」
......考えはある。ここの奴等はどうも気に食わねぇから、大きく出るつもりだ。
「(マヤ、ガロ、ごめんな......。)」
ーーーーーーーーー
「悪い!待たせたな。」
2人の元へ駆け寄る。
「.....丁度30分。大丈夫よ、待ってないわ。」
「.........。」
「...?」
2人の様子がおかしい.....何かあったか!?
「大丈夫か?誰かに何かされたり...」
「いいえ、そうじゃないの。ただ........
.....ホテルに行ったら話すわ。ここよりそっちのほうがいい。」
「....分かった。」
何があったのか、それが定かではないまま、俺達はホテルへと足を向けた......。
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〜〜〜〜〜〜〜
〜マヤ視点〜
「.....いいとは言ったけど、30分で何ができんだ?」
「さぁ。でもエドだから。」
「.....“エドだから”で理由が成り立つの怖えぇな。」
「ふふっ。」
確かに怖いけれど、だからこそ心強いわ。それになんとなく自信があるのよね。私達には絶対手を出さないって。
.....時々様子がおかしい時はあるけど、私が呼びかければちゃんと応えてくれるし、いつも過剰なほど気を遣ってくれるし。
「.......?アレ.....。」
「? 何?」
「......!!ガーベントの子だ........!!!なんで奴隷市場に.....。」
「ガーベント...!?! ああちょっと!」
私が全てを言いきる前に、ガロはその檻の近くへ向かっていった。人混みのせいで、あまり近寄れはしなかったけど、ここからでも十分に見える。
「......!!確かにガーベントだ....純血の.....!!......ハッ...、恐ろしいほど高値だな。」
「.....嘘でしょう?どうして.....。」
「攫ってってきたんだろ...!!!」
「!!」
ガロの声が怒気をはらんで震えている...。
「.....絆の強えぇ種族なんだ。捨てられるとはとても思えねぇ。ていうかありえねぇ。.......そんなに金が欲しいかよ....!!」
ガロがハンマーに手をかける。
「駄目よ!....怒りに任せちゃ駄目。」
「......チッ!」
かけた手を下げても、その目はずっと商人を睨んでいる。こちらを意にも介していない商人を。
でも、気持ちは十分過ぎるほど解るわ。ましてや、ガロはあの子と同じ種族だから、私よりもずっとずっと激しく怒っているはずだわ。......あの子、きっと愛されていたでしょうに、汚い奴の汚い金の為に攫われて.........。
私は自分の意志で家を出てきたけれど、お母さんも、お兄ちゃんも、妹や弟達のことも、ずっと大好き。だから旅立つ時、凄く寂しかったし、なかなか離れ難かった。
.......きっとこの子も、私と同じぐらい、家族のことが大好きだと思う。証拠という証拠は無いけれど、でもきっとそう。
「許せないわ.......。」
自然と握る手に力が入る。
.......コレはただのエゴだけれど、でも....
「....ガロ。」
「あ?」
「1つ、考えがあるの。」
〜〜〜〜〜〜〜〜
「........というわけで、奴隷達を全員まとめて逃してあげたいの。あんな所で、変な人に買われて酷い仕打ちを受けるよりかは、そっちのほうがずっといいんじゃないかって思うんだけど.....どうかしら。
........なんて、流石にエゴが過ぎる.........
!」
エドが.......
「........?」
笑ってる?
ーーーーーー
〜エド視点〜
ホテルの部屋で、2人共神妙な顔持ちで何を言い出すかと思えば........そうか、
そうか.......ふふっ、まさかだったな。
「実は俺も同じことを考えてたんだ。.....まぁまず、ラビーと......あの赤毛の娘と話したことを教えよう。あの娘はな.....」
そうして、マヤとガロに彼女とのことを話した。
2人共、終始哀しいような、苦しいような表情を浮かべていた。
話終わった時、もう3人の考えはしっかり一つに固まっていた。
お互いに顔を見合わせ、少しだけニヤッとする。
そして、このエゴに塗れた計画の話を...
...悪巧みを始めた。
ーーーーーーーー
.....その日のうちに俺達は行動に出た。とりあえず、今日できることは今日しておきたい。上手くいかなきゃ元の木阿弥だ。
まずは金集めだ。逃して無一文のまま放任なんてことはできねぇからな。ちょっとした“贈り物”をするのさ。
一旦ホテルを出て市場へと向かう。
....俺は見逃さなかったんだぜ?
市場の中にあったデカい掲示板を。そして、その掲示板に重なり合うほどに貼られた依頼の山をな。
早速3人共それぞれに依頼を選んだ。
......それぞれに選んだはずだったが、内容は皆同じようなもの、そう、モンスター退治だ。
町外れの森に厄介なモンスターの群れがいるらしい。その他にも色々、町へ来て悪さをする奴等がいるんだとか。
まさに絶好の依頼だ。こういう依頼は金が一気に入ってくる金鉱脈だからな。しかも殺しができる。一石二鳥だ。
というわけで早速、その件の森へ。
俺から逃げ回るモンスターの気配をすかさずガロがキャッチし、確実に仕留めていく。
途中からそれぞれで別れたからか、効率はさらに上がった。
勿論俺はずっとモンスター達に逃げられていたが、鞭を使って森を飛び回っていれば、案外ちゃんと見つけ出せるもんだ。
そうやって順調に依頼をこなしていきながら、奴隷達の逃げ道もしっかり確保する。
全員が一か所に逃げるより、3か所ぐらいに別れて逃げたほうが追跡を免れるだろう。
幸い、この町の近くには、深い林をそれぞれ挟んで、2つ3つ、他の町があるらしい。飛行船があるという話も聞いた。
少しでも金があればなんとかなるだろう。ある程度人数を固めて逃すから、いざって時は助け合えばいい。
あの奴隷商達も、逃げた奴隷にそこまで執着はしないだろう。この町の警察がザル過ぎるだけで、他はちゃんと機能しているらしいからな。無駄に追ったせいで捕まるのは避けたいだろうし、大丈夫だろ。
ものの2時間で依頼を終え、一時ホテルへ。3人の報酬を合わせると、ざっと3000フーロ(日本円で30万円)になった。
「......モンスター退治ってこんなに儲かるんだな...。だったらオレ、今までにとんでもない額稼いでることになるぜ。」
「ずっとゲートの森でモンスターと戦ってたんだもんな。いや〜惜しいな〜!」
「ん゛〜〜.....!!」
この3000フーロと、俺の所持金から6000フーロを2人に内緒で足して、合計9000フーロ。これだけあれば十分だろう。
市場の奴隷の数は30人程度。だから一人頭300フーロ程度になる。それでまず服でも買って......人手が足りない所なら、せめて雑用としてでも雇ってくれるはずだ。それが駄目なら靴磨きでも、小さな依頼でコツコツ金を稼ぐでもいい。方法はいくらでもある。
マヤやガロが言っていたガーベントの子に関しては、また別の考えを用意してある。きっと大丈夫だろう。
準備はあらかたできた。
夜を待ち、今度は俺1人で見世物小屋へと向かう。またラビーが例によって最初に出て来たが、前よりもなんとなく表情が明るくなっていたのが嬉しかった。
そして見世が終わった後、前回のような方法でラビーの元へ。今回は前よりずっとすんなりだったな。
そして“悪巧み”の内容を話した。最初は凄く驚いていたようだったが、“他の子達を助けられるなら”ということで、協力してくれることになった。
小屋を出る前に、明日の“事”がよりスムーズに進むように、“とあること”をしておいた。
ラビーは売り物じゃないし、今の俺には金も無い。作戦にほぼ全財産遣うからな。加えて表から出すのも不可能....。となると、
やっぱりこれしかない。
「...フッ。」
......“抜け道”ってのは、案外、相手側が用意してるもんだ。
〜Lovie・Rat〜
!おまけ!
{ キャラクターの扱う武器 }
[バトル・リトルヘッド].....ガロ・ルヴァン
ロング型のバトルハンマーで、名の通り、頭部が小さめな造りになっている。それでも威力はかなりのもの。ガーベント達が仕事で使うハンマーをバトル用に改造したもの。
[コールド・キス].....マヤ・ルーツカ
彼女の父親が作ったもの。風の魔力型を持つ彼女にはピッタリのレイピアで、その名の由来は......お察しの通り。
死者に温度は無いのである。
[エドワードの鞭].....エドワード・バンディ
エドが旅の武器職人に作らせた特別な鞭で、イグニスリザードという凶悪なモンスターの尾を使っており、他のバトル用の鞭を寄せ付けぬ強さを誇る。
殺しがより有利になるようにと、ただその為だけに造られた鞭。名など不要とされたため、今日も名乗る宛がない ーーー。
ご閲覧ありがとうございました!
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