赤毛のラット
更新し直しました!新キャラが出ています!女の子です!ぜひご覧ください!
「ここまでで十分だ。色々世話になってしまった。本当にありがとう。」
「いいんだよ。じゃあな、...良い旅を。」
「ああ。そっちこそ、良い旅を。」
[ ブロロロロロ....... ]
「じゃあなーーハンクーー!!」
「どうもありがとうーー!」
またどこかへと旅立っていく車に、マヤとガロもそれぞれ別れを告げ、俺達も次の町へ移る。ここからそう遠くはない町だ。結構栄えているらしい。
でも、そこを訪れるには、まぁまぁな覚悟をしておいた方がいいと言われた。
.......なんでも、
奴隷売買が行われているらしい。
〜息吐けぬ者の町〜
ーー
人は“商業の町”と呼んでいるらしいが、その実態は目に見えて黒い。
「旅の方!そんな軽装備で大丈夫かい!?ホラホラ寄って買ってってー!!」
「お嬢ちゃんネックレスは好き?ほら!綺麗なのいっぱいあるよ!」
このだだっ広い市場だけを見れば騙される奴もいるだろう。でも、先に実態を教えられた俺達には、この賑やかな市場がなんとなく汚く見えた。
「(ここは一応普通の市場っぽいな...。...別に奴隷市場なんてのもあるのかね。)」
露店を見渡しながらそんなことを思う。
その時、それなりの身なりをした奴が ニヤニヤしながら俺達の横を通り過ぎて行った。
「(仲間を何人か引き連れてるな。)」
「......ちょっとあっちの方行ってみようぜ。」
「あっち?.......こことはだいぶ様子が違うようだけど......もしかして。」
「......奴隷市場か?」
「多分そうだと思う。確かめるためにも行ってみねぇか?」
「私は構わないわ。」
「オレもいいぜ。気になるし。」
2人の返事を聞いた後、俺達はずっと奥の方、町の深い所へと足を向けた。
ーーーーーー
「.....目に見えて治安が悪くなってきたわね。」
マヤの言葉通り、あの賑やかな市場がある町とは思えないほど、小汚くボロボロな、所謂、スラム街が顔を出した。
あちらこちらに酒瓶が転がっている。ついでに飲んだくれも。
...さっきまで綺麗だった青空が、急に灰色になったみたいだ。薄暗くて危ない雰囲気がツキツキと肌を刺してくる。
「あの赤いのなんだ?」
ガロが指差す方を見れば、風になびく赤い布らしきものと、微かに人の笑い声が聞こえた。下品な声だ。
「...行ってみよう。」
その声の方へ、俺達は足を向けた。
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.....下品な笑い声が聞こえた方へと進むと、そこには.....
「うわっ.......。」
マヤが絶句する。ガロの顔もやや引きつっていた。
「......この町の本性がこれか...。」
.....そこに広がっていたのは、あからさまな人身売買の場......つまり、
奴隷市場だ。
赤毛のラット
......全体で、ざっと、18、24...、30人ほどの奴隷達がいる。奴隷市場にしては少ないほうか?だとしても不快なのは一緒だ。
「さぁどうだい!奴隷にもってこいのラット族だ!2匹買うと1匹タダ!さぁ〜買ってって!」
こんな文句があちらこちらから聞こえてくる。
...数え方に全く情を感じない。奴等にとってはただの商品だからなんの違和感もないんだろうが、ほぼ人と変わらない姿の彼等をそう数えているのを見ると、どうしても思う所がある。
.......俺が何言ってんだって話だけどな。
「ひっでぇ....。」
「お!そこの坊ちゃん!夜は寂しくないかい?いい“道具”があるんだよぉ!」
「あ゛?いらねぇよ。」
道具.......。側のラット達を指差してはっきり言いやがった。
「......エド、ここ気分が悪いわ。」
「...そうだな、もう出るか。ごめんな2人共、付き合わせちまって。」
「いや、オレも見てみたかったしお相子だ。」
「それは私も........ねぇ、あそこ何かしら。」
「?」
マヤが指差す方には、何やら小屋のようなものが見える。他よりも少しだけ立派な佇まいで、原色の看板が目が痛くなるほど沢山付いている。
そして、一番大きな看板には、
「.........“見世物小屋”?」
その時、
「はーい!!見世物小屋今日もオープンだよ〜!!さぁさぁ!よってらっしゃいみてらっしゃい!今日の一番手は!世にも珍しい!
“赤毛のラット”だーー!!!」
「「「オォーー!!!!!」」」
周りが一斉にそちらへ振り返り、我先にと見世物小屋へ入っていった。
「赤毛のラット....?そんなに珍しいのか?」
確かに、店のラット達は皆落ち着いた髪色をしているが......。
「マジかよ....赤毛......!?」
「ガロ?」
「なぁ!ちょっと見に行こうぜ!」
「あ、ああ、俺はいいけど、マヤは?」
「私も大丈夫。でも、そんなに珍しいの?」
「ああ。動物で言うところの...アルビノみたいなもんだろうな。でもそれよりもっと希少な存在だ。生物学を凌駕する力を持っているって話だ。
.....オレもそこまで詳しくはねぇから、知ってるのはこれぐらいだ。でもとりあえず見てみてぇ。」
人だかりができている見世物小屋の入り口で3人分の見物料をパッパと出した。意外と安いんだな。
中に入ることはできなさそうだから、仕方ねぇ。遠いが、ここで我慢だな。
マヤを肩車して、奥のステージが見えるようにする。背が高くてよかった。
「お集まりの皆さん!よく来てくださいました!今日初めにお見せするのは、世にも珍しい赤毛のラット!この小屋に通ってくださっている人なら、見たことがあるんじゃないですか?でも今日は初めてのお客さんもいらっしゃるようですから、簡単にご説明いたします!
赤毛のラットは、とにかくすばしっこくて頑丈で、ドブネズミって呼ばれてる種族にはあり得ないほど強いんです!
しかしなんと!不幸にも親に売られてしまった奴がウチにたった1匹....」
「前置き長ぇぞ!!」 「早く見せろ!!」
客席から野次が飛ぶ。話ぐらい大人しく聞けねぇのかよ。
「分かりました分かりました!それでは早速、ご覧に入れましょう!
コレが!赤毛のラットだーー!!」
「「「ワーーーー!!」」」
.......汚い大歓声を浴びながらステージ袖から出てきたのは........
「.......女の子じゃねぇか.........。」
目に絶望の色を浮かべ、手足に付いた頑丈な枷を引き摺り、ただ虚ろに客席を見遣る、
1人の、少女だった。
ーーーーーーー
「赤毛のラットは滅多なことじゃ死なないもんでねぇ、昨日もモンスターを倒させてきたんですよ!もちろん!なんの装備もさせないでね!」
「「おぉー......!!」」
「凄いな....。」「マジかよ....。」
客席からそんな声が上がる中、マヤとガロはずっと苦い顔をしていた。
「装備無しって.....頭イッてんのかよ....。」
同意見だ。同意見だけど........
「(....装備無しでモンスターと殺りあっただと....!?しかも勝つなんて......!)」
心臓がバクバクと脈打つ。こんな興奮はいつぶりだろう。
戦いたい。
殺り合いたい。
「(殺したい......!!!)」
殺した時の快感は如何程か.....!!!相手が強ければ強いほど、殺した時に身体に奔る、電流のような快感もその強さを増す。
「(鞭無しの俺じゃ歯が立たない相手....!!!)」
....よく考えれば、当たり前のことだ。相手はトクベツ中のトクベツ。異端中の異端。
それでも.......!!!
「エド......エド!」
「!!」
「大丈夫?それともう終わりそうだからそろそろ行きましょう?もう嫌だわここ....。」
「オレも.....悪い。」
「謝らなくていい。気が利かなくて悪かった。.......。」
.........。
「......悪りぃ2人共、ホテルまで送るから、ホテルかあの市場で待っててくれ。金が必要なら渡す。」
「!? どういうこと?」
「何すんだよ?」
「あのラットと話がしてみたい。30分もあれば十分だから。」
「あの娘と?.....いいけど、たった30分でいいの?」
「ああ、それだけあればいい。」
「オレも構わないぜ。30分ぐらい、入り口で待っててやるよ。」
「大丈夫か?気分悪くならないか?」
「平気だって。な?」
「ええ、大丈夫よ。それに、
何かあっても、近くにあなたがいるんだもの。心配事なんて無いわ。」
「......!...悪いな、ありがとう。」
.....仲間から信頼されるのって、なんか、いいな。上手く言えねぇけど。依頼人からの信頼とはまた違うものがある。
「(さて.......。)」
まずは支配人と話さねぇと.....。
「.....いいとは言ったけど、30分で何ができんだ?」
「さぁ。でもエドだから。」
「.....“エドだから”で理由が成り立つの怖えぇな。」
「ふふっ。」
「すいません!支配人?」
「ん?ああ、今日の見世は一旦終わりですよ。また夜どうぞ。」
「ほんの少しで構わないんです。あの赤毛のラットと話すことはできませんか?」
「できません。ウチはね、そういう店じゃないんだよ。」
「ほんの少しでも...。」
「だーかーらー!駄目と言ったら駄m」
〜10分後〜
「アハハハハ!面白い奴だな〜!」
「いやいやあんたには負けるよ!ハハ....で、話はできそうか?」
「ったく.....しょーがねぇな!お前だったらいいよ!特別だぞ?」
「よし!気前良いな〜、俺が女なら惚れそうだ。」
「アホか!早よ行け!ずっと奥行って突き当たりを右だ!」
ぶっきらぼうに鍵を渡された。
「分かった、ありがとう!」
楽勝楽勝〜。
「(奥行って突き当たりを右〜。)」
ほんのりと赤いランタンが天井に灯る薄暗い廊下を歩いていく。
さほどしない内に、それらしき場所へと着いた。
「....この部屋か。部屋っていうかコレ.....。」
...牢屋だな。
「.....誰ですか?」
中から声が聞こえる。か細く、それでも優しそうな声だ。
「入り口で見世を見ていた客です。貴女と話をしてみたくて、無理を言って通して貰いました。.....ここを開けても?」
「.....!わたしと、お話を...?.....はい、開けてください。」
大きい錠を外し、扉を開けた。中の様子は、やはり牢屋のように冷たくて居心地が悪い。
「エドワード・バンディです。すいません、迷惑ですよね...。」
「そんなことないわ!あっ......。ご、ごめんなさい。....嬉しいわ、人が訪ねてきてくれて。でも、せっかく来てくださったのに、何もお出しできないの.....。」
「大丈夫、もてなされる為に来たんじゃないんです。純粋に少し、話を聞きたくて。」
「....!はい、わたしが答えられるものであれば、何なりと。」
まだ時間には全然余裕がある。
あまりゆっくりはできないが、相手を知れるいい機会だ。
「(そう、相手を知れる........。)」
....目の前の、強者を。
ご閲覧ありがとうございました!
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