ゲートの向こう、冒険の舞台
更新致しました!
夢は両手を広げて彼等を待っているーーー。
ぜひご覧ください!
翌朝、少しだけゆっくり起きた俺達は、それぞれ身支度をし、食堂で朝食を済ませた後、船着場へと歩き出した。道中の町の風景を目に焼き付けながら。
船着場は沢山の人で賑わっている。
俺達のように次の場所へと移る人や、ツアーとして参加している人、他にも様々だろう。
「この船はエスターシャ行きです。お乗りになりますか?」
「ええ、お願いします。」
そう言って料金を手渡す。
マヤは自分で出すと言うが、これぐらい奢ってこその男だろう。出した財布をしまわせて、不本意そうな顔は無視しておいた。
「私のこと子どもだと思ってるでしょ。だからこうやって甘やかして....」
「違うって。ただ、日頃の感謝としてな。」
「.....あなたの親じゃないわよ。」
ムッとした表情と声色で言うもんだからつい笑ってしまった。
そうだな!親じゃないな! と笑うと、からかわれたのが気に食わなかったのか、マヤの眉間にがっつりシワが寄る。その後素直に謝ると、いつもの表情に戻ってくれた。
でもそうか。確かに、日頃の感謝=親に対するものって感じするよな、イメージ的に。
....親に恩返しか.....。
って、駄目だ!また暗いことを.......。
「今日も良い天気で良かったわ。ねぇエド。」
「ん?フフ、そうだなぁ。快晴とまではいかないが、気持ちがいいな。」
手すりに寄っかかって空を見上げる。昨日よりも優しい空だ。
「おはよう、旅の人かの?」
1人のご老人が声をかけてきた。この感じ、間違いなく魔道士だ。
「おはようございます。そうですよ。エスターシャで降りる予定なんです。」
「おはようございます。」
マヤも俺に続いて挨拶を返した。
「おや?そちらにも...いや、すまんの〜!君が大きすぎて、その子に気づけなかったわい!」
「あはは!それはしょうがない!」
「.......。」
マヤがまた不服そうな顔をしている....。身長いじりは地雷らしい。
「ま、まぁ、とにかくそうです。旅っていうか、冒険ですけどね。」
「だったらエスターシャへ向かうのは正解じゃな。あそこはいい!ここよりずっとな。」
そこから彼は、エスターシャのことを俺達に話してくれた。
「エスターシャ自体は小さな街なのじゃが、出てしまえばそこはもう壮大な冒険の舞台じゃ!どこへ行ったって間違いではない!冒険者にとって、全てが最高の道となるからじゃ。弱い奴らはすぐに死んでしまうじゃろうが、強い奴らにとっては、まさにもってこいの舞台!恐怖も未知も不思議も意味不明も、そこら中にゴロゴロ転がっておる!」
「.......!! いいですね...!」
「そうじゃろう。君達は境界人じゃよな?だったら余計素晴らしいものになる。」
そうなることを願おう。
「ただ、気をつけなければいけないことも沢山あるぞ。一つ、コレだけは言っておく。
.......ファルガスファミリーには、マフィアには絶対に関わるな。関わってもせめて敵にだけはなるな。よいな?」
「.......ええ、分かりました。」
マフィアか......。さぞかし強いんだろう。
権力も、“力”も。
でもマヤがいるからな。大丈夫、致し方ない場合以外は近寄らない。
「ご忠告ありがとうございます。」
「いいや、いいんだ。.....良い旅を、2人とも。」
「あなたも、良い旅を。」
「お身体にはお気をつけて。」
「ははは!ありがとう、お嬢ちゃん。君も。」
俺達に別れを告げ、彼はどこかへ行ってしまった。部屋に戻ったのだろうか。
......エスターシャへ着くには1日かかるらしい。今日を船の上でゆったり過ごせば、明日にはいよいよ本格的に冒険が始まる。
「どう歩いても正解なら、どう歩こうか迷っちゃうわね。」
「そうだな。でもだからこそ、あまり深く考えないで行こう。なんとなく、足が向くほうにさ。」
足が向くほうに、気の赴くままに。
それがきっと、冒険だと思うんだ。
.........しかし、その前に一つ、大事なことをしておかなければ。
それは、知識をつけることだ。
「エスターシャに図書館はあるのかな。あるようなら、まず図書館に行きてぇな。」
「図書館?」
「ああ。俺はこの世界を知らな過ぎる。やっぱり世を上手く渡るには、ある程度の常識と知識が必要だからな。」
「そうね、確かに。私も色々頭に入れておきたいわ。いちいち戸惑わなくてもいいように。」
「よし。」
じゃあまずは図書館に........ん?
!!?
「マヤ!空みろ空!」
「え?.....あ!」
マヤは少し興奮したように、柵の一番低いところへ足をかけ、乗り出して遠くの空を見る。
「......竜?」
「じゃないか?だって....」
こんなに離れていても、はっきり見える。
遠くの空にいるにもかかわらず、その輪郭は鮮明だ。周りに鳥達を従えて、さも、これが当たり前だとでも言うように、悠然と、そして堂々と、悠々たるこの大空を泳いでいる。
「...........!!」
なぜか、涙が溢れそうになった。
諦めていたものが、目の前にあるからだろうか。
転生したにもかかわらず、21年間、何も無かったなぁ。
21年間..........
「ハッ.......。」
自嘲気味に、少しだけ笑う。
最初からこっちに生まれていれば、どうなっていただろう。
........どんなに良かったか。
でも、それだと、マヤには出会えていなかったんだろうな。
「マヤ。」
「?」
「ありがとうな。」
「....!ふふっ!」
優しい風が吹く。心地の良い風が。
あの時、あの林の中で吹いた風と、同じように優しく。
あの時からずっと、どこかで、優しい声が聴こえる。
聞き慣れた声だ。
それなのに、
何時もの声が、ずっと煩い。
ーーーーーーーーーー
......夜が明けて、太陽がすっかり顔を出し切った頃、待ちに待った上陸の時が来た。
あともう少しでエスターシャに着く。
「エド〜!早く〜!」
「ちょ、ちょっと待って、頭が......。」
クッッソガンガンする。そんなに飲んだかな。早めに切りあげたつもりだったが.......。
幸い、記憶は飛んでいなかった。
痛む頭で、昨日のことを思い出しながらサッサと準備をする。
〜〜〜〜〜〜〜
船の中は意外にも施設がかなり充実していて、バーやレストラン、大浴場.....、小さいがカジノもあった。
昨日、マヤが寝た後、1人で俺はバーへ行った。飲みたかったのもそうだが、本命は情報収集だ。
そこで出会ったのは1人のオヤジ。エスターシャには若い頃一度だけ行ったことがあるという。が、
「俺はあそこに足を踏み入れるには弱過ぎたよ。」
そう自嘲気味に笑いながら、色々と話をしてくれた。
まず、残念ながら、エスターシャには図書館は無いらしい。それほど小さい街なんだとか。
次に、エスターシャにはゲートがあって、その向こうには広大な自然が広がっており、そこにはモンスターがうようよいるらしい。それでも街にモンスターが来ないのは、護衛の魔道士が、街全体に結界を張っているからだそうだ。
時々突破されるらしいが、エスターシャは冒険者達の街。加えて用心棒も雇っているので、何も心配することはないんだと。
「(ゲートの向こうに行く前に、ぜひ戦ってみたい。)」
依頼じゃねぇから殺すことはできねぇが、ただ戦うだけならいいはずだ。
「兄ちゃんゲートの中に行くのか?勇者だな〜!」
「そんな大それたもんじゃねぇさ。それに、1人じゃねぇからな。」
とかなんとか話していたら、いつのまにか飲み比べが始まっていて、両者ヘロヘロになって......。
〜〜〜〜〜〜〜〜
現在の頭痛に繋がる、と。アホかよ。
リュックの中から回復薬を取り出し、一気に喉へ流し込む。少しむせながらドアの前に立っているマヤの元へ。回復薬ってのはなかなか万能で、二日酔いすら治してくれるらしい。
「大丈夫?頭痛のほうは。」
「ああ、もう平気だ。悪いな。」
「(もう2度とあんなに飲まねぇ.....。)」
絶対に..........多分、多分......。
外に出てみると、もう街は目と鼻の先にあった。
よかった、ギリギリ間に合ったか。
ケットシーン、リシエンタ、バースリー、リリンシータニーときて、第5の街。
「“エスターシャ”〜!夢みる冒険者の街〜!」
「来た〜〜...!!」
最初この世界に来た時はあんなに混乱していたのに、今では冒険を求めてうずうずしている。
単純だと言われようが、こうして楽しめているなら俺の勝ちだろう。
「ご乗船ありがとうございました〜!」
俺達2人と、魔道士の爺さん、その他何人かが降りると、船はまた次の目的地へと出発して行った。
「(降りる奴少ないな....。ほとんどがただの旅行者だったのか。)」
船を見送り、振り返れば、まるで西部劇のような街が、俺達を出迎えた。
街の中へと入って行けば、
「お爺さんの言っていた通り小さな街ね。武器屋に酒屋....あのテントは何かしら。」
「何だろうな、行ってみるか。」
訪れてみると、そこは宝石店らしかった。
「!いらっしゃい。お買い物?それとも鉱物の鑑定かい?」
青年が出迎える。
「いや、何の店か気になって見に来ただけなんだ。...こんな所で宝石なんか売ってて大丈夫なのか?」
「ああ。ここには酔っ払いはいても、盗人なんてお粗末な奴はいねぇからさ。それにもし襲われても、周りは冒険者や魔道士だらけ。犯人が逃亡する隙なんてねぇよ。」
確かに。
「...この宝石、すごく綺麗...。」
「おっ、それ俺もお気に入りのやつ。“ トワイライ・ルーン ”。別名、“ 蛍の涙”って宝石なんだ。ミントグリーンが優しくも鮮やかだろ〜!すげぇ小さいけど、他のどれよりも年寄りなんだぜ?」
「「へ〜」」
マヤと声がハモる。
こういう話好きなんだよな〜。昔、学校で博物館見学なんかに行った時も、誰よりも興味深く説明を聞いていた記憶がある。
「それが使われてるネックレスが、コレ。お値段たったの3000フーロ!」
「たっけぇよ!...こんなに小さいのに3000フーロ...!?」
日本円で30万..... こんな豆粒サイズで......。
「....欲しいか?欲しいなら買えなくはないから..」
「買ってもらいたいなんて思ってないわ。」
「他のもあるけど、どうする?嬢ちゃん。」
「......コレください。このブレスレット。」
「お、いい趣味だね〜嬢ちゃん!毎度!」
そのままテントを出る。
「私はあなたの子どもとかじゃないんだから、あまり甘やかさないで。」
「はい...。」
ふと、思った。恩返しのつもりも勿論だが、もしかして、何でも買ってやろうとしてしまうのは........
「(俺がジジイだからか....!?)」
気持ちはまだまだ若いつもりだったが、順調にジジイになっていたのか......!!
....孫のようにみてるなんて言ったら、マヤは怒るだろうな。っていうかそもそも、マヤは俺が転生したことも知らないからな。
言おう言おうと考えていたのに、言わずにきてしまった。まぁ打ち明ける必要もないだろうけどな。
「そのブレスレットも綺麗だよな。」
「ね。....そういえば、何の宝石が使われてるのか聞かなかったわ。」
「戻るか?」
「いいえ、いいわ。」
太陽の光にブレスレットを照らして、満足そうにその様子を見ている。
キラキラと光る オレンジ色の暖かな宝石は、マヤの涼やかな雰囲気と相まって とても良く似合っている。
俺も何か買ってみれば良かったかな....。いやでも、いい年したジジイが身に付けたところで....容姿は若いけどな。
「(それでも、あんなに綺麗なものは 俺には似合わないだろう。)」
そんなことを思いつつ、準備を整えるべく、俺達は市場へと足を運んだ。
そこで食料や水などの必要な物を買いながら、同じくこれからゲートへ向かうという魔道士と、少し話をした。修行のために訪れるのは、これが4度目だという。今回は、最低限の荷物だけで挑むらしい。
ゲートの向こうは、強い者以外を阻む場所。
裏なんてない、勝者が勝者のセカイ。
笑えるのは、強い者のみ。
そう言い放った相手の顔は、微塵も臆してなどいない、覚悟の決まった表情だった。
相手の熱が移ったのか、今の気持ちに拍車がかかる。
他の冒険者や用心棒と戦うことなんてもうどうでもいい。そんなことはしていられない。
壮大な冒険が、すぐそこで 俺達を迎えようと待っているのだから。
今、ゲートの向こう側へ 足を踏み入れた。
ご閲覧ありがとうございました!
前作の踏襲もう少し続く予定です!どうかお付き合いください.....!
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