1話 プロローグ
子供の頃、よくじいちゃんに読んでもらった絵本がある。
お金がないのにも関わらず、じいちゃんが無理をして誕生日に買ってくれた絵本だ。
うちは貧乏な建設家の家系で父母は共に管理局が推進している口減らしの為の塔外遠征という名目のために徴兵されて帰ってこなかった。
死んだのか、胚になって極寒の大地を未来永劫さまよい続けるのかは分からない。
という訳で今はじいちゃんと二人暮らしをしている。話を戻すと、その本は昔の人類の話だった。
この本の内容は決しておとぎ話ではなく本当にあった話なんだとじいちゃんは言う。
昔といっても、100年とか200年とかそんなものではなく、2000年以上昔の話。
到底信じられない話ではあるが、真実らしい。
大昔、人類は地上で暮らしていたという内容だ。
今は極寒の大地で植物の1本も生えていない様な不毛の地ではあるが、昔は木々が生い茂る豊かな大地だったとは信じ難い。
その絵本によると、文明は今よりもずっと栄え、飢えや寒さ、病気なども無く、とても良い暮らしをしていたという話。
ここまで聞けばいい話だが続きがある。
突如、星に巨大隕石が降ってきた。
その隕石の衝突によって発生した塵は世界を覆い、この星は光を失った。
急激な寒冷化によって向かう先は生物の大量絶滅。寒冷化だけならば当時の高度文明を誇った人類は対処出来たかもしれないが、隕石は人類にはどうすることもできない一つの廃棄物を産み落とした。
それが寄生生物だ。
寄生生物は隕石内部に含まれていた原始生物というらしく、隕石衝突で発生した塵とともに内部で冬眠していた寄生生物が世界に拡散して、ありとあらゆる生物に寄生し、今では胚と呼ばれる肉塊に次々となって行った。
寄生生物は空気感染はしないものの、接触感染などで爆発的に増えて行った。
寄生生物に感染し、胚となった生物は自我を失い、不老の体となり健常者の体を探し未来永劫彷徨い続ける傀儡となった。
だが人類もただただ胚になるという滅びを待つということは無く、最後まで生き残っていた僅かな人類が最後の希望であり、人類の方舟、塔を築いたのだ。
現在建設暦2500年。
かつての高度な建設技術を失って久しい。
優秀な建設家は迫害され、今や建築家のような汚れ仕事は身寄りのない子供が行う仕事になってしまった。
塔自体にはろくな補修もされず、老朽化と崩落が起きている。