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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

供養塔

偽物の光は本物よりも劣る

作者: 鶯埜 餡
掲載日:2019/07/19


《メンヴェル宝飾店》と書かれた看板の店を身なりのいい一人の青年が訪ねた。



 その店内は普通の宝飾店とは違い、煌びやかな雰囲気ではなく、どこか落ち着いた雰囲気を醸し出していた。それもそのはず、ここの店主は商人というよりも職人と言った方が似合う人物で、実際、彼自身で仕入れた原石をこの奥の工房で加工しているので、必然と余分なものが取り払われていた。


「いらっしゃいませぇ」


 栗色の髪をした少女が、彼の存在に気付いたようで、ひょっこりと番台から顔を出して、青年に声を掛けた。

 彼は少女が店番をしていることから、目的の人物が奥で作業中(・・・)だと理解した。


「やぁ、娘さん。バルゼディッチという者だけど、レンジェロさんは作業中かな」


 バルゼディッチと名乗った青年は、少女にレンジェロという人物を呼び出すように伝えた。

 はい、少々をお待ちをぉと言った少女は店の奥に入り、やがて、パタパタという足音とともにおとうさぁん、と呼ぶ声が聞こえてきた。


 紺色の髪の青年はこの店に来るたび、店番をしている少女のことを可愛らしい少女だな、と思っていたが、決して恋愛という感情からくるものではなかった。





 しばらくして、奥から出てきたのは、少女の父親である栗色の髪を持った男性で、この宝石店の店主だった。職人らしく頑固を体現したような人物なのかと思いきや、そうでもなく、柔らかそうな印象で、最初に店を訪れた人はたいそう困惑する。


「やぁ、レオ」

 そういう男性は、ぼりぼりと頭を書きながら、青年に椅子をすすめた。お前は奥に行ってなさい、という父親の言葉に、少し不満そうな顔をしながらも、はぁい、と言った少女は、素直に奥に入っていった。

「ごめんなぁ、ガブリエラに店番させていて」

 ちょっと、他のお客さんの注文が同時に入っていてねぇ、と言いながら、店主は研磨剤などがついた手を洗い、青年に紅茶を淹れた。青年は店主の謝罪にいえ、とにこやかに言った。


「ハロルドさんの加工技術は誰にも真似できるものではありませんし、それに、こちらのお願いを聞いていただいているんですから」


 青年はそう言いながら、懐から小包を取り出した。


「そう言ってくれるのは、嬉しいねぇ。で、それが新しいブツなのかい、レオ?」


 ハロルドはその小包を丁寧に開け、中にあった緑色の塊を、綿手袋をつけた手で持ち上げた。



「ええ、先日の夜会でさる令嬢から頂いた偽物(イミテーション)のエメラルドです」


 そう、近年、レオの周辺では偽物の鉱石が出回っていて、その真偽の鑑定をハロルドに何度も依頼していた。

 ハロルドが小包の中身を見ている間に、レオが説明していく。


「だろうねぇ。ここまできれいなエメラルドはあり得ない」

 細かい部分までジュエリースコープを使って隅々まで調べていく様は、まさしく商人らしい姿だ。



「しかもなぁ、この偽もんのエメラルドはただの偽もんじゃない」



 ハロルドの言葉に、紅茶を飲んでいたレオが固まった。

「どういうことです?」

 ティーカップを置き、身を乗り出して聞く姿は、貴族の息子でもなく、王太子の側近という姿でもなかった。



「そのまんまの意味だよ。これは綺麗すぎる」



 そう断言したハロルドはポイとレオに投げてよこした。レオはそれを危なげなく取ると、光にかざしてそれを見てみた。


「言われてみれば――――はぁ、そうなんですか」


 見ればわかると渡されたものの、本職でないレオからすると、なんか本物の輝きと違う、というくらいにしか分からなかった。


「ああ、そうだ。お前も王太子の側近しているくらいなら、それくらい覚えておけ」


 ハロルドはそう言いながらも紙に本物の鉱石、人工的に作られた鉱石、偽物の鉱石について書いていく。


「まず、本物の鉱石は形が不揃いだ。しかも、表面や内部に瑕があるものだって出てくる。それを見せないようにあらかじめ、オイルを塗っておくことが多い。それでも、中の傷は消えないからなぁ。だからすぐにわかる。

 そして、人工的に作られた鉱石。こいつらは今まで夜会で出回っていたもんだ。だが、こいつらはすぐに見分けられる。なぜなら、石ん中に含まれる成分が全く違うからだ。だから、光にかざしゃあ、すぐに見分けられた。


 だが、今回の偽もん(イミテーション)は非常に質が悪い。

 というのも、組成としては本物の鉱石と同じ、光り輝き的には偽もんの鉱石と同じ、といういいとこ取りだ」


 ハロルドの説明に言葉をなくしていくレオ。



「――――お前さんにもこの重大さが分かったようだな」



 ハロルドからは先ほどまでの柔らかい雰囲気は一切消え、商人とも職人ともつかない別の雰囲気が溢れ出た。


「ええ、十分に」


 レオも事の重大さが分かったようだった。


「だったら、次にお前がやるべきことは何だ?」


 試すような視線をレオに向ける。すると、彼は淀みなく応え始めた。




「科学技術の軍事利用防止のために、この宝石の出所を探ることです。


 そのためにはまず、これを渡した令嬢の背後を洗い、他国の関与がないか調べる。


 自国内での話に留まるならば、《ランドルフの剣》の名に賭けて直接、処罰を下すこと以外には考えられません。



 そして、もし、他国との問題に繋がるのならば――――《死神》か《代行屋》の力を借りて、徹底的に組織、黒幕ごと潰す」




 レオの答えに満足そうにうなずくハロルド。



「なるほどな。お前らしい考え方だ。

 だが、《死神》はまだ、お前の手には負えん。今は《死神》も動けないはずだから、せめて『敵対しないことだけ』でも確約が欲しいな。

 奴の秘蔵っ子っていわれている《代行屋》には、まだ俺は会ったこともないから分からんが、《剣》であるお前なら、そいつの力を得ることはさして難しくないだろうなぁ」



 ハロルドの一介の職人、商人とは思えない発言にも関わらず、レオは驚きもせずにそうですね、と神妙に頷く。その表情は少し苦いものを含んでいた。


「過去に《死神》とは何回か、彼の子飼いと思える暗殺者と戦ったことがありますが、確かに、手ごわい相手です。今回はせめて『手を出してこないこと』だけでも、しなければなりませんね」


 レオの落ち着いた答えに、ハロルドはああ、そうだな、とだけ答えた。


「そういえば」

 レオはハロルドの言葉の中で、ふとした疑問を抱いた。なんだ? と質問の続きをするように促したハロルドに、レオは続けた。


「《代行屋》には会ったことはないとおっしゃいましたが、ハロルドさんのところにも、既に情報は出回っているのですか?」


 その問いに、ああ、と頷くハロルド。


「《代行屋》はどんなものにも化け、そして、顧客が受けた屈辱を徹底して復讐し尽くす。それが彼女(・・)の生き様なんだとよ」


 彼の答えにレオは目を瞠った。彼でさえ、知らない情報が含まれていたから。


「さすが、ハロルドさん、元王族なだけあって、よくご存じなのですね」

 レオの言葉に、その称号はよせ、と嫌がるハロルド。

「謙遜したって無駄ですよ。その筋じゃ、ハロルドさん人気ですし」


 ハロルドはますます渋い顔になる。だが、ふと思い出したように、今度はレオに問いかけた。


「お前こそ、あの嬢ちゃんはどうしたんだ?」

 突然のハロルドの質問に、レオは誰の事です? と眉をひそめた。


「ほら、お前さんが婚約していたという隣国の栗色の髪のお嬢さんだよ」


 その特徴にああ、なるほど、と頷くレオ。





「今でも忘れられません。彼女はあの時から聡明で美しかった。この偽物(イミテーション)のエメラルドなんか霞むくらいには」





 彼の言葉に、青春っていいなぁとぼやくハロルド。


「そういえばよ、あの嬢さん、先日、王太子と妹に嵌められて国外追放受けたってよ」


 ハロルドのなんとなく言った言葉に、がたりと大きな音が部屋に響き渡った。


「――――――どういうことです」

 レオは先ほどよりも数段、真剣な、剣呑な視線をハロルドに向けて言った。


「そこまでは知らん。だが、お前さんがそこまでの評価を下しているんなら、大方、冤罪だろうな」


 ハロルドはレオの言葉にニヤリと笑いながら、返した。

 レオは頭の中で何かを考えていたようだが、やがてため息をついて、椅子に座り直した。


「――――はぁ、これは勝算がありませんねぇ。今のところは、一旦、諦めて地道に彼女を探し出すことにします」


 それがいいかもな、とレオの決意に同意したハロルドは、もう一杯紅茶をレオに勧めた。



「じゃ、あとはお前さんの手腕にかかっている。宝石職人組合を泣かせないためにも、そして、技術の軍事利用防止のためにも、しっかりと働いてくれ」


 差し出された紅茶を飲み干したレオは、はい、と力強く頷いた。






 こののち、レオは人工貴石製造技術による軍事利用の阻止をはかるため、《代行屋》カメリアと手を結び、彼女が《代行屋》を行う最大の目的である妹と元婚約者への復讐をほう助するかたわら、自身の目的である人工貴石製造技術の総本山である総合研究所とともに、王国自体を乗っ取った。


 全てが終わった後、彼の幼い時に婚約者だったアメリア・フォルツァンガ元公爵令嬢――《代行屋》カメリアとともに暮らしていく予定であったが、彼女自身がそれを良しとせず、『王族に手をかけた』という罪で処刑された。


 その後、レオは一生、彼女をしのんで独身を貫くとともに、喪服で過ごしたという。実家の公爵位を継いだ後は《喪服の公爵》と呼ばれ、幼馴染の国王を傍で支えたという。

 あらすじにも書きましたが、肥前文俊先生『第6回書き出し祭り』第二会場「花陰に微笑む私」のアンサーストーリーです。


 なので、知っている名前がちらほらと。《死神》が「私」が言っている「あの方」です。

 そして、レオが王国に復讐したいって言っている本当の目的が、それです。

 あからさまに技術潰しますって言っても問題だからね。



 本当は「エメラルド」使って綿飴が降ってきそうなものにするつもりだったんだけれどな、あれぇ?

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