992:6thナイトメア・タル・エウルト-7
『全域……毒だと……』
『タアアァァァルウウゥゥ……』
『ぎもぢわるい……』
『どmrxr!』
正に死屍累々という状況だが、『界毒の邪眼・3』モチーフであろう攻撃を放ったタル・エウルトは攻撃終了と同時に再び暴れ始めている。
対するプレイヤーたちも、どれほどのスタック値があろうとも毒は毒であり、10秒以内に回復すれば助かると分かっている。
だから何かしらの手段で免れ、まだ動けるプレイヤーたちは状況の立て直しを図るべく、動き出している。
『rxrrtg! ぢlpfp!』
その中でタル・エウルトの全身の目が紅色に輝く。
『『『!?』』』
戦場全域を対象とするように真っ赤な炎が燃え盛り、動いていたプレイヤーも動けなかったプレイヤーも関係なく紅蓮のカーテンの向こう側へと連れ去り、鉄も骨も溶かし、肉も魂も灰に変えていく。
それは最初の『界毒の邪眼・3』モチーフの攻撃が小手調べでしかなかったことをまざまざと感じさせるような一撃だった。
『rlせs! ぢysm!』
『『『!?』』』
しかし、そんな環境でも生き残ってしまったプレイヤーが居るらしい。
だからタル・エウルトの行動は止まらない。
10秒間暴れたのちに、今度は全身の目がレモン色に輝き、無数の稲妻が迸る。
威力こそ固定値で100ダメージを喰らう程度だったようだが、同時に気絶のスタック値も100入り……10秒間の行動停止が課される。
で、当然タル・エウルトは止まらない。
それどころか、生き残っているプレイヤーの首の直上にギロチンのような呪詛の刃を出現させる。
『うどpm! drrtr・rぃとくぃぢ!!』
タル・エウルトの目が橙色に輝くと同時に、ギロチンが落ちる。
気絶から復帰し、一瞬の間に逃げ出す事が出来なかったプレイヤーたちの首が、即死攻撃によって舞う。
さて、全滅は……これでもまだしていない。
ブラクロが生きている。
後、偶々このタイミングで、あるいは狙ってリスポーンしたプレイヤーたちが生きている。
『ヴぉyくyd! にとfp!』
『出血だったら……これだ!』
蘇芳色の光、次は出血。
だから、直ぐには効果が出ない。
ブラクロは自分に何かしている。
他のプレイヤーたちはタル・エウルトに攻撃を仕掛けているが……効いている様子は見られない。
『ヴぉymしょh! ぞおも!』
『『『んなっ!?』』』
白色の光と共にフィールドが縮まっていく。
数万人が一堂に会しても行動できたフィールドが、タル・エウルトが四つん這いになると殆ど余裕が無い空間にまで狭められていく。
また、狭まる際の衝撃、あるいはタル・エウルトの攻撃や接触によって、先ほど付与された出血が効果を発揮し、次々にプレイヤーたちが爆発していく。
多少の被弾をしつつもブラクロが爆発していないのは……なるほど、普段はザリアの補助に使っているであろう出血の効果が出るのにダメージ以外の条件を与えるような呪術を自分に使っているのか。
此処まで来ると、もはやブラクロだけが見どころになりそうだ。
『tsろv! んpmfp・rlpp!』
『うおっ、やべっ!?』
黒色の光がブラクロと他数名の生き残りへと降り注いでいく。
が、絶対に受けてはいけないと判断したらしいブラクロはいつぞやのザリアがやったようなマントを使った遮蔽物作戦によって回避。
他プレイヤーは……大気圧で潰されている。
『rbstん! yrtss!』
『すぅ……うらああああぁぁぁぁぁっ!!』
紫色の光、恐怖だ。
これをブラクロは遠吠えで解除。
なお、タル・エウルトは邪眼術の間に物理的な攻撃を間断なく放ち続けているのだが、ブラクロは邪眼術への対処をしつつ、そちらの攻撃も全除けしている。
『うよあおytrg! jsmひ・tppぢyp!』
『ぐっ……』
無色透明の光、乾燥、それに満腹度の減少。
ブラクロは何かを握り潰す事で、これに耐えたようだ。
『qzさ! fssぃ・どcrrfp!』
『つぉらぁ!!』
「「「!?」」」
ここでブラクロが信じがたい姿を見せた。
具体的に何をやったのかは分からない。
だが、タル・エウルトが鉄紺色の光を放つ直前、ブラクロが何かをして……結果的に、ブラクロの方を向く全ての目があらぬ方向を向かされた。
結果、フィールド全域を満たし続けるはずだった黒い炎は、ブラクロが立つ周囲、僅かな空間だけ飲む事は無かった。
そして、その狭い範囲の中とタル・エウルトの身体の上を駆ける事によって、ブラクロはタル・エウルトの物理攻撃を避け続けていく。
『rどqdrfp! ゆsじ・mrぃtp!』
『効かん!』
「あ、魅了完全無効化持ちだったのね。ブラクロ」
桃色の光、魅了。
ブラクロ自身は無対策でこれを受けているが、何も影響が出ていない。
それよりも周囲だ。
これまでの攻撃で死んだ万を超えるプレイヤーがゾンビと化して復活、ブラクロに向かって駆けていく。
勿論、現在の環境は黒い炎で一帯が満たされているし、タル・エウルト自身も暴れているので、ゾンビの大半は再び倒れるだけだが、一部のゾンビはブラクロの身体を抑え込もうと、一心不乱に駆けてくる。
『むしろありがたいぐらいだ……なっ!』
『mぽいあおf! qryptp・ystrちぃyp!』
だがゾンビの壁はブラクロにとっては都合が良かったらしい。
ライムグリーン色の光が放たれ、全てのゾンビが石と化していく中、周囲をくまなくゾンビの身体で囲う事によって、ブラクロは生存する事に成功していた。
そして、タル・エウルトの一撃によってゾンビの壁が破壊されると同時に脱出。
ん? ブラクロの口が膨らんでいる?
『yjほあ! jrのこ!』
『ゴクンとな』
灰色の光、質量増加、重力増加、引力増加。
石と化したゾンビたちが毒ガスを纏ったままブラクロに向かって落ちて行く。
ブラクロ自身もまた、自分の重量が増加したことによって動けないはず。
が、ブラクロが口に含んでいた何かを飲み込むと同時にその全身が虹色に……いや、ゲーミングカラーに輝きだし、自由を取り戻したブラクロは飛んでくる石化ゾンビたちを避け、逸らし、打ち砕き、活路へと身をねじ込んで、生還する。
『ふぅ……これで13個か』
『ぃちms! ぃちms! ぞよmsfpぃちms!!』
石化ゾンビたちの山が出来る中、ブラクロは一度息を吐いてからタル・エウルトへと目を向ける。
対するタル・エウルトはまるで何かに怯えるように叫びながら、全身の目を虹色に輝かせ始める。
何が来るかは考えるまでもない。
『禁忌・虹輝の狂瞳』に相当する何かであり、空間ごと全てを消滅させる攻撃であり、放たれればその時点で全滅が確定する攻撃でもある。
『溜めが長い。物理攻撃も停止。明らかにダメージへの耐性が落ちている。なるほど、このタイミングで最後の攻撃をぶち込んで、決着を付けろって事か』
『xrmに! ぢんryr! ぞmms! ぉよypmstr!!』
しかし、ブラクロの言葉通り、放つ前のその姿は隙だらけ以外の何物でもなかった。
残念ながらこの場にはブラクロしか居ないが、ブラクロ以外が生き残っていればこれまでのうっ憤を晴らすように畳みかけていた事だろう。
『じゃ。遠慮なく。孔よ黒を深めて黒すら飲め。『禁忌・陽呑』!』
そしてブラクロが黒い剣を手にタル・エウルトへと切りかかり、その刃がタル・エウルトに触れて……
『あり?』
「あー、私だものね……」
「アンノウンだものね……」
「楼主様ですからねェ……」
消えた。
ブラクロのうっかりではなく、タル・エウルトの持つ防御的な何か……知っているから効かないに引っ掛かる感じで、黒い剣は効果を発揮することなく消えた。
『あ、そう言う事か……いやぁ、これ、戦略レベルでの見直しが必要に……あ、いや、俺があそこで使わなければよかっただけか?』
こうなるともはやブラクロとしては打つ手がなかったらしく、何度か蹴る、殴る、切るとやっているが、ビクともしない。
『すまん、俺が第二形態でうっかりしたせいで負けたわ、これ』
『yptsmぢ、mぴm!』
そしてタル・エウルトから虹色の光が放たれ、戦場全体を包み込み、戦場ごとブラクロもタル・エウルトも消え去って……誰も居なくなった。
≪戦闘に敗北しました。5分のインターバルを挟んだ後、次回の戦闘を開始します≫
なお、何処からか『タアアアァァァル!?』とか、『ブラクロオオオォォ!?』とか、そんな感じの幻聴が聞こえた気がしたが、幻聴なので気にしてはいけないだろう。