960:ダイヴプリペア-1
「ログインっと」
『来たでチュね。たるうぃ』
火曜日。
ログインした私はいつも通りの作業をしていく。
『で、今日からは例の件に関する準備をするわけでチュが……具体的には何をするんでチュか?』
で、いつもの作業を終えたところで、今日の活動について改めて考え始める。
「そうねぇ……まず大前提として、次の相手の討伐には恐らくは何時間もかかる。つまり超長期戦になる事は確定していると言っていいわ。そうなるとHPの回復はともかく、満腹度の回復手段は今以上の物を備えておく必要があるわ」
『ふむふむでチュ』
「攻撃も激しいでしょうから、そちらへの対策も必要。具体的には氷結属性と浄化属性ね。とは言え、装備のデメリットの都合上、防ぎたくても防げないものも多いかもしれないけど」
『確かにそうでチュねぇ』
「後は現状の私の体の仕様の確認もあるかしら。『虹霓狂宮の未知理』の基本的な仕様は『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の頃から変わっていないけれど、私が気づいていないだけで何か仕様の追加や変更がある可能性は否定できないもの。それと幾つか検証したい事もあるわね」
『そう言えば、昨日たるうぃは自分の指から先を変化させてたでチュねぇ』
まあ、やること自体は結構沢山ある。
今挙げた以外にも、戦う相手が相手なので、念のために聖女ハルワへ連絡しておく必要はあるだろうし、昨日戦った『虹熱陽割の贋魔竜呪』と『霓渇地裂の贋魔竜呪』の劣化版……と言うか、二体の第一段階である超巨大木製ドラゴンのみが落とす素材の確認、その他面白そうな情報があれば、そちらの真偽の確認など、本当に沢山あるのである。
『ところでたるうぃ』
「何かしら?」
『奴に挑むに当たって、ざりあたちを呼んだりはしないんでチュか?』
「んー……ザリアたちには悪いけれど無しで。環境が環境だから、たぶん呼べてもブラクロぐらいだろうし、それならいっそ最初からソロの方が都合がいいと思うわ」
『そういう物でチュかぁ』
「そういう物よ」
では、順番に確認していくとしよう。
「さてザリチュ。これが何かは分かるわよね」
『昨日ざりちゅを抓るにも使った竜の爪でチュねぇ』
私は指を二本立て、二本立てた指の爪を人間のそれから、竜のそれ……金色に輝く刃物のように鋭い鉤爪に変化させる。
『なんというか、当たり前のように身体構造を変えているでチュよね』
「ええそうね。たぶんだけど『竜式呪詛構造体』の獲得、『虹霓狂宮の外天呪』である事、『虹熱陽割の贋魔竜呪』と『霓渇地裂の贋魔竜呪』との戦いでの経験、呪詛支配能力の向上、『虹霓狂宮の未知理』の取得、色々な物が組み合わさった結果であると思うのだけど、体の大体のパーツは竜のそれに変換可能になっているわ」
私は指を戻すと、続けて虫の翅を竜の翼に変えたり、腕に竜の鱗を生やしたり、臀部から長さ2メートル近い竜の尾を生やしたり、歯を牙に変えたりと、様々な部分を竜のそれに変えては戻すと言う事を繰り返す。
『リスクは無いんでチュか?』
「んー、変化させている数だけ異形度は上がっているし、変化させるのに満腹度を少しだけ使っているのも感じる。それと逆鱗の弱点補正がきつくなっているのは感じるわね。全身竜状態で逆鱗に触られたりしたら、それこそ一時的に我を失って暴れだすくらいはあるかも」
『たるうぃ自身のリスクよりも周囲のリスクが増しているようにしか思えないでチュねぇ……』
当然リスクはある。
あるが……基本的には無視していいレベルだろう。
逆鱗への攻撃は元から喰らうな案件であるのだし。
「ちなみにリスクが低い代わりにメリットも少ないわよ」
『ん? そうなんでチュか?』
さて、セーフティエリアでただ話しているだけと言うのもアレなので、今後の予定の為にも私は『虹霓鏡宮の呪界』にやってきて、毒の眼宮に入っている。
ちなみに『毒の邪眼・3』が『界毒の邪眼・3』になっているが、毒の眼宮の仕様に変化は一切ない。
「「「ヂュアアアアァァァァァッ!!」」」
で、毒の眼宮に入ると共に鼠毒の竜呪が複数体、こちらに迫ってくる。
私はそれを見て両手を竜のそれに変えて構えを取る。
「ふんっ!」
「ヂュゴォ!?」
そして拳に呪詛を込めつつ全力で殴りつけた……あるいは切り裂いたが、そこまでの火力は出ていない。
鼠毒の竜呪の身体を弾き飛ばし、本当の素手で殴るよりはマシなダメージは与えたが、逆に言えばそこまでである。
まあ、『竜活の呪い』使用中ならともかく、そうでないなら、妥当な結果だろう。
でだ。
「見ての通りよ。当たり前だけど、ネツミテの錫杖形態で殴った方が、はるかに火力が出るのよね」
『それは何と言うか……当たり前の話でチュねぇ……』
「「……」」
今のネツミテを錫杖形態に変え、それで鼠毒の竜呪を殴ったとしよう。
結果は?
発動した邪眼術や当たり所にもよるが、竜の爪での攻撃よりもはるかに強く、鼠毒の竜呪は瀕死状態になっている。
「そんなわけで、無いよりは有った方がいいんだけど、あったところで戦術に大きな変化が生じるかと言われたら疑問符が浮かぶ。そのぐらいのスペックなのよね」
『如何ともしがたいでチュねぇ……』
まあ、なんというか、使える事だけ覚えておけばいいと思う。
竜の尾とか、何処かでもう一本、手のように使える何かが欲しくなった時に使えるかもしれないのだから。
そんな会話をしつつ私は他の眼宮を巡って必要な素材を集めていき、集め終わるとセーフティエリアに戻った。