957:タルウィザリチュ-7
「ふぅ。何とかなったわね」
『でチュねぇ』
「ゲプゥ……」
ドゴストが元のサイズに戻っていくのに合わせて、周囲の光景が見えてくる。
うん、まあ、見事に全部消し飛んでいて、呪限無の外の宇宙空間のような光景……に見える黒、大量の淀みが見えている。
「さて、『竜活の呪い』が残っている間に穴を埋めないといけないわね」
『くくくっ、その必要はないぞ』
穴を放置すれば『虹霓鏡宮の呪界』にとって良くない事が起きるのは確かだった。
だから私は穴を埋めるために周囲の呪詛を操ろうとした。
が、私が何かをするよりも早く、何処からともなく湧き出て来た大量の黒い砂によって穴は埋められてしまった。
『いやはや、もう少し何かしらの策を練ってくるかと思っていたが、まさか単純な力押しで打ち負けるとは思わなかったな』
「『霓渇地裂の贋魔竜呪』……で、いいのよね?」
『くくくっ、合っているぞ』
そして、湧き出て来た大量の黒い砂の中から現れたのはドラゴン……ではなく、肌を黒くしたザリアとでも言うべき姿の女性。
気配からして『霓渇地裂の贋魔竜呪』だと思っていたのだが、合っているらしい。
で、現れた『霓渇地裂の贋魔竜呪』の右手には、文字通りの意味で真っ白に燃え尽きている私そっくりの女性が居るのだが……。
『ふははははー……ふははははー……私がー……熱でー……ふははははー……』
「そっちは『虹熱陽割の贋魔竜呪』よね。なんで燃え尽きてるの?」
『くくくっ、流石にあの最後の一撃は衝撃的だったらしい。まあ、しばらく放置していれば治るから安心しろ。それよりも話を戻せ』
そちらは『虹熱陽割の贋魔竜呪』であるらしい。
私の姿でだらしない姿は見せないで欲しいのだが……まあ、この場には他に誰も居ないから、この場ではもう無視するとしよう。
「ああ、力押しの話? それだったら単純よ。他に手段がないんだから、ごり押しで消し飛ばすしかないわ。準備不足を指摘されたら何も言えないわね」
『くくくっ、準備不足を咎める気はない。常に準備万端で挑めるなど、それこそファンタジーのお話だ』
「そ。じゃあ逆にこっちから質問。今こうして貴方たちがこの場に現れた理由は?」
それよりも今必要なのは情報収集だ。
『霓渇地裂の贋魔竜呪』は既にこちらと戦う意思は見せていない。
だが、穴を埋めるためだけにこの場に現れたとは考え難い。
と言うより、真なる神々の一柱、ゾロアスター教の邪神であるザリチュとタルウィが、後始末のためだけに来るとは少々考えづらい。
複数の神を混ぜ合わせて作られた事でオリジナルよりも実力を落としているであろう『悪創の偽神呪』と違い、ほぼ真なる神々がそのままやってきているのだし。
『簡単に言えば勧誘だ。貴様が人生に渇きを覚えたならば、呼びかけるといい。その渇きをどうにかしてやろう』
「悪魔の誘いね。まあ、そんな時が来るようなら、検討はさせてもらうわ」
勧誘ね。
これも一種の出会い厨と言う奴なのだろうか?
当然ながら受ける気はない。
ゲームはゲームだから面白いと私は思っているのだから。
ゲームに現実の事を持ち込むなとまではいわないが、こう言うのはノーセンキューである。
『くくくっ、そうか。では、そのような熱い時が来ること待つとしよう』
『はっ!? ふははははっ! わた……えっ、まっ、あああぁぁぁ!?』
そうして『霓渇地裂の贋魔竜呪』は『虹熱陽割の贋魔竜呪』を連れて消え去り、周囲の地形は戦いが始まる前の姿に近づいていく。
とりあえず私に似た姿でだらしない姿を見せた『虹熱陽割の贋魔竜呪』は機会があれば、改めてぶちのめしておくとしよう。
「さて、これでイベント終了……」
≪邪眼術『禁忌・虹色の狂眼』が変化し『禁忌・虹輝の狂瞳』になりました≫
≪渇砂操作術『禁忌・虹色の狂創』が変化し『禁忌・霓顕の狂閃』になりました≫
≪呪い『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』が変化し『虹霓狂宮の未知理』になりました≫
≪タルの所有する邪眼術が強化されました≫
≪邪眼術『毒の邪眼・3』が変化し『界毒の邪眼・3』になりました≫
≪タルのレベルが50に上がった≫
≪称号『呪詛親和度限界到達者』を獲得しました≫
≪称号『呪詛親和度限界到達者』が消滅しました≫
『一気に来たでチュねぇ……』
なんか大量のインフォメーションが来た。
で、そのインフォメーションの裏で、ヤノミトミウノハが成長していき、呪限無の深層……アジ・ダハーカの居る領域に繋がっていくのが感じ取れた。
どうやらこれで私は奴に挑めるようになったらしい。
とは言え、挑む前にまずは私がどのような成長を遂げたのかを確認する必要があるし、早くても数日後になるだろうか。
「ん?」
『あ、これは……』
そして気づく。
『呪詛親和度限界到達者』と言う称号が得ると同時に消滅していると言う事実に。
「……」
『まあ、たるうぃだから仕方がないんじゃないでチュかねぇ……』
私は素早く掲示板で情報を集めた。
どうやら『呪詛親和度限界到達者』と言う称号はレベル50に到達すると同時に習得し、成長限界をどうにかしない限りは決して消せない称号であるらしい。
そう言う称号であるので、既に外天呪で、しかも『虹霓狂宮の未知理』なる呪い……呪い? いや、とにかくヤバい何かを得てしまい、成長限界がなかったらしい私は習得後すぐに消滅させてしまったようだ。
「一回運営に殴り込みをかけてやろうかしら……」
『素直に過去ログ参照道具を作ればいいじゃないでチュかねぇ……』
私はまたもやフレーバーテキストを読み逃したことに苛立ちを覚え……そこで『竜活の呪い』の効果時間が終了し、マトモに動けなくなってしまうのだった。




