954:タルウィザリチュ-4
「まずは牽制!」
最も早く攻撃に移ったのは私だった。
『熱波の呪い』の効果で攻撃判定を持たせた呪詛を様々な形に押し固めると、音速の数倍の速さで雨のように……少なくとも1000以上は降らせる。
ただまあ、スピードと数は十分にあれど、呪いの量が足りない。
だから、この一撃は牽制にしかなり得ないだろう。
『ではこちらも牽制と行こうか!』
『虹熱陽割の贋魔竜呪』が次に動く。
輪となった虹色の炎が色ごとに独立した炎となり、256色の炎の矢となって、私たちまたは私の牽制へと向かってくる。
速度はそこそこだが、含まれている呪いの量を考えると、総合的な火力では私の牽制と大して変わらないだろう。
「チュラッハァ!」
三番手はザリチュ。
盾を前に、剣を振りかぶりながら、前方へと向かっていく。
向かっていくが……作成時のスペック的に少し嫌な予感がする。
『さて、容易く終わるか否か……どちらでもよいか!』
最後に『霓渇地裂の贋魔竜呪』。
両手の刃をバツ字状に構えつつ、ザリチュへと向かっていく。
「っ、これは……!?」
『ふははははっ! 差は歴然かぁ!?』
「チュオォ!?」
『くくくくっ、此処に立つには性能不足では?』
そうしてお互いの攻撃がぶつかり合い、結果は一目瞭然だった。
私の攻撃と『虹熱陽割の贋魔竜呪』の攻撃がぶつかり合えば、私の攻撃だけが一方的に食われて、私へと突き進み、掠っただけでも皮膚が焼ける感覚を覚えた。
ザリチュの剣は『霓渇地裂の贋魔竜呪』が構えた黒い刃によって難なく止められ、白い刃による攻撃は余波だけでもザリチュを吹き飛ばした上に、サイズ差だけでは説明がつかないほどのダメージを与えていく。
「浄化属性!?」
「チュアッ!? カースがなんで浄化属性を使っているんでチュか!?」
『使えて当然だろう。熱を正しく用いれば、大抵の悪性因子はその活動を止める。それは浄化に他ならないだろう?』
『乾燥も同様だ。正しく用いれば、大概の変化は不可逆的に止まる。これもまた一種の浄化だ』
その原因は二体の攻撃に浄化属性が含まれていること。
いや、確かに、理屈を聞けば使える事に納得はするが、まさかここで使ってくるとは思わなかった。
と言うかこうなったら、『虹熱陽割の贋魔竜呪』が氷結属性を使ってくることまで考えておいてもいいかもしれない。
「ザリチュ! もうちょっと頑張ってなさい!」
「あ、あまり時間は稼げないでチュよおおぉぉ!」
と、考察をしている時間はあまりないか。
化身ゴーレムは『虹熱陽割の贋魔竜呪』の牽制で全身を少しずつ焙られ、『霓渇地裂の贋魔竜呪』の刃によって砂の身体でも無視できないような切り傷を負わされている。
とりあえず化身ゴーレムは破壊されるだろうから、化身ゴーレムが破壊されるまでの間に出来るだけの情報収集をしておこう。
と言う訳で、私は二体に対して通常の邪眼術と竜瞳による邪眼術による攻撃を行い、二体の耐性を確かめていく。
『鑑定のルーペ』? 当たり前のように無効化されている。
何かしらの鑑定阻害を持っているらしい。
『ふははははっ! 炎が熱である私に効くわけがないだろう!』
『くくくくっ! と言うより貴様の持つ大概の呪術が渇きである私に効くと思うか?』
「……」
で、試した結果としては……正直、芳しくない。
『虹熱陽割の贋魔竜呪』に通用したのは気絶、出血、集束、恐怖、淀縛の五つ。
『霓渇地裂の贋魔竜呪』に通用したのは沈黙、出血、集束、淀縛、恒星の五つ。
だが通用すると言っても、一桁二桁のスタック値が限界で、おまけにすぐ治ってしまうので、出血も事実上の無効化と言っていいだろう。
何よりきついのは……普段ならダメージソースとなる邪眼術が悉く通じない事か。
当たり前と言えば当たり前なのだが、二体とも火炎属性と呪詛属性に対する耐性が異様に高い。
「チュアアアッ!?」
「化身ゴーレムがやられたわね」
『さあ次は貴様だ』
そうして相手の耐性を確かめ切ったタイミングで化身ゴーレムが破壊された。
化身ゴーレムの効果で減っていた最大HPなどが急速に戻っていく。
だが同時に『霓渇地裂の贋魔竜呪』もあっという間に迫ってくる。
しかも、手に持った白の刃と黒の刃は、電撃のようなものを纏っている状態でだ。
どうやら、『霓渇地裂の贋魔竜呪』は電撃属性まで扱えるらしい。
『ふははははっ! 逃げ場など与えんぞ!!』
「ちっ」
そして、『霓渇地裂の贋魔竜呪』が迫ってくるのに合わせて、『虹熱陽割の贋魔竜呪』が七色の炎の帯を私に向かって弧を描くように放ち、側面あるいは背後からこちらに向かってくる。
こうなれば、逃げ場などないと言ってしまってもいいだろう。
「だったらこうよ!」
だったら状況の仕切り直し、今後に必要な要素の確保、その両者を得るために、この行動を取る他ない。
私はルナアポを素早くドゴストへと収納すると、動作キーによって『竜息の呪い』を発動する。
発動方法は射出方法3。
粒子化されたルナアポが私の口の前に集まっていく。
「カァッ!!」
『『ほう……』』
そして発射。
素早く首を巡らし、『虹熱陽割の贋魔竜呪』の炎の帯を干渉力の暴力によって無理矢理散らし、こちらへ向かって来ていた『霓渇地裂の贋魔竜呪』の動きを抑える。
『だが、それだけでは時間稼ぎにもならんな』
『違いない。攻撃の終わりに合わせて、攻めかかるだけの事だ』
しかしこれだけでは一時凌ぎにもならない。
『虹熱陽割の贋魔竜呪』は直ぐに次の攻撃を準備し、『霓渇地裂の贋魔竜呪』は少しだけ退き、突撃の姿勢を見せる。
このままでは、『竜息の呪い』の終了と同時に、致命的な攻撃が私へと迫ってくる事だろう。
「でしょうね。だからこうするのよ『化身』」
『『!?』』
だから私は『化身』を発動した。
用いる砂は周囲にある砂……だけではなく、粒子化されたルナアポを含んでいる。
いや、むしろ、ほぼルナアポだけで構築されていると言ってもいいだろう。
「チュッチュッチュウゥ……」
粒子化されたルナアポが人の形に集まり、色づき……。
「チュアッハァ! これで性能不足とは言わせないでチュよぉ!」
『ぐっ!?』
虹色の燐光を纏った化身ゴーレムが姿を現し、『霓渇地裂の贋魔竜呪』へと切りかかり、サイズ差を無視するように吹き飛ばした。