942:ザリチュ-1
『ようやくでチュねぇ……』
「本当にようやくね……」
ザリチュたちの強化を行うために必要な下処理を行う事二日。
本日は木曜日。
ようやくザリチュたちの強化そのものへと移る事が出来そうだった……。
なお、あまりの下処理の数に少々嫌気がさして、恒星の眼宮で呪隕石・虹霓鏡宮を回収してきたり、虹石の眼宮で大量の呪詛をかき集めたオパールを作ってみたり、淀縛の眼宮の収奪の苔竜呪を消し飛ばしてきたりしたが……まあ、誤差の範疇だろう。
これらの素材を使うかどうかも分からないし。
「さて、それじゃあザリチュからやっていきましょうか」
『分かったでチュ』
それではザリチュから強化していくとしよう。
意思疎通が図れるように化身ゴーレムを作成した上で作業開始である。
「と言っても、今回は順当な素材のアップグレードを中心にするから、特別なことは特にないのよね」
「でチュよねー」
まあ、そうは言っても月曜日の狩りで集めた素材を片っ端から利用して、強化をしていくぐらいなのだが。
具体的なところだと……ザリチュの三角帽子と言う形を保つのに使っている骨組みを竜呪たちの角を加工したものに更新。
追加の布として、渇猿の竜呪の鱗皮を改めて使用。
私の血で染め上げた糸で刺繍を施す。
これぐらいだろうか。
まあ、これぐらいと言っても、作業時間はなかなかのものになっているが。
「じゃあ、呪怨台に乗せるわよ」
「分かったでチュ」
で、作業を終えたところで呪怨台へ。
いつものように『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』での干渉をしつつ、呪いの主体はザリチュ自身に任せる。
その上で、私も少しだけ呪う。
「ザリチュ。『虹霓境究の外天呪』である私ではなく、けれど私に等しき者、私と祖を近しくするもの。新たなる姿を私の前に見せなさい」
その言葉がどれほどの効果を示したかは分からない。
分からないが、前回よりもだいぶ短い時間で呪怨台の中から新たなザリチュが……蘇芳色の三角帽子が現れる。
三角部分の根元近くに大きめの宝石が飾られ、頂点近くで折れ曲がって先端には檻のような飾りが付いている。
つばには角を通すための穴があり、各部には蝶、竜、鼠の刺繍が施されている。
では、鑑定してみよう。
△△△△△
『祖憑きの外喋帽呪』ザリチュ
レベル:着用者のレベルと同じ
耐久度:100/100
干渉力:着用者の干渉力と同じ
浸食率:100/100
異形度:28
竜、そして外天呪に由来する呪いを含む、数多の呪詛を取り込むことでカースと化した三角帽子。
自己意志を持っており、勝手に動き、鳴き、嗅ぐが、使い手以外には聞こえず、望めばたぶん静かにはなる。
資格なき者が身に付ければ、世にも恐ろしい結末を迎えることになるだろう。
着用者よりもレベルまたは異形度が低いものが放つ低位の攻撃に対して、ダメージ無効化(極大)、極めて高い耐性、極めて高い抵抗性を有する。
着用者が認識出来た攻撃によって受けるダメージを軽減する(小)。
呪いの法則そのものによる干渉、呪いではない力による干渉、これらに対する抵抗性を有する。
乾燥完全無効化。
周囲の呪詛を操作し、着用者が生存するのに適した呪詛濃度に近づける効果を持っており、呪詛濃度を最大12まで増減させられる。
着用者の周囲1km以内に存在する呪詛の支配を助ける。
周囲の呪詛濃度に応じて強度が向上、耐久度が回復する。
耐久度が0になっても、一定時間経過後に復活する。
身に着けているものの全身にこれらの効果の一部が発揮される。
この装備のレベルと干渉力は装備者の物と同じ値になる。
非生物でありながら動き回るため、ある種のゴーレムでもあるが、成長の余地も存在する。
着用している生物が望んだ範囲、あるいは自分の意志で体を動かせない状態にある時、この帽子の意志で体を動かせる。
乾いた砂を操る呪術……渇砂操作術の習得が可能。
渇砂操作術:『取り込みの砂』、『眼球』、『腕』、『鼠』、『化身』、『噴毒の華塔呪』、『瘴弦の奏基呪』、『禁忌・虹色の狂創』
注意:着用者の異形度が27以下の場合、体の制御権を奪われる。
注意:着用中、浄化属性への耐性が低下する(大)。
注意:着用中、状態異常の睡眠はあらゆる手段を用いても防御できない。
注意:弱点部位を貫かれる攻撃を受けた場合、着用者の受けるダメージが増える(極大)
注意:この帽子を低異形度のものが見ると嫌悪感を抱く(極大)
注意:この帽子の周囲の呪詛濃度が15以下の場合、この帽子が発動中の呪術は解除され、着用者に干渉力低下(50)が強制付与される
▽▽▽▽▽
「……。ほぼ強化されていないのでは?」
「まあ、前回の時点でだいぶ強化されていたでチュからねぇ……」
名前が変わった事以外の強化点が殆ど無い気がする。
いやまあ、呪憲あるいは呪いではない力に対しても抵抗力を持っていたり、呪詛支配を助けてくれたりは嬉しいのだが、使った素材の割には微妙なアップグレードな気が……。
「あ、ちょっと待つでチュよ。たるうぃ。渇砂操作術を確認するでチュ!」
「ん?」
と思っていたが、どうやら渇砂操作術の方に変化があったようだ。
△△△△△
『化身』
レベル:着用者のレベルと同じ
干渉力:着用者の使用時の干渉力と同じ
CT:600s-60s
トリガー:[詠唱キー]
効果:周囲の砂を操って化身型ゴーレムを一体作成する。
ザリチュの化身となるゴーレムを作成する。
ゴーレムの性能は着用者の使用時のステータスに依存する。
装備品を身に着ける事が可能であり、身に着けた装備品はゴーレムが破棄された際に一緒に消え、次回ゴーレム作成時に一緒に生み出される。
注意:CTはザリチュが処理するが、トリガーは着用者が引く必要がある。
注意:使用する度に着用者に最大HP低下(最大HPの30%)、最大満腹度低下(最大満腹度の30%)、干渉力低下(最大干渉力の10%)が付与される。この効果で付与された状態異常はこのゴーレムが存在する限り、スタック値が減少しない。
注意:このゴーレムはザリチュにしか操れない。
注意:このゴーレムは2体以上同時に存在できない。
▽▽▽▽▽
「あ、こっちが強化されたのね」
「みたいでチュねぇ……」
渇砂操作術が大幅に強化されていた。
示したのは『化身』だけだが、どれも推奨レベルが私依存になると共に、干渉力も使用時の私に準拠するようになっている。
これならば、『虹霓鏡宮の呪界』の奥地の竜呪相手でも十分な戦力になるだろう。
いや、それだけではないか。
「これ、『竜活の呪い』使用中に発動したら、相当ヤバい事になるんじゃ……」
「なると思うでチュよ。わざわざ使用時と言う但し書きを付けているくらいでチュから」
えーと、現状のルナアポ使用だと、+325%、つまりは4.25倍になる。
今の私の最大HPが10,360なので、竜活中は44,030。
その30%となると……13,209か。
干渉力も似たようなことになるだろうし、うん、相当恐ろしい事になりそうだ。
「あ、でも、それをやると、『竜活の呪い』の効果時間終了と同時にたるうぃの最大HPが0以下になって、しかも治らないでチュね」
「残念ながら今度のイベント中みたいな特殊状況か、他に手段がない状況でしか使えないわね」
なお、消費も相応であるので、普段はやっぱり通常時に化身ゴーレムを作成する事になりそうだ。
余談だが、検証班曰く、自分の最大HP以上のスタック値を持つ最大HP低下の状態異常を受けると、時間経過によってスタック値が減り、最大HPが1以上になるまでは特別な空間で待機する事しか出来なくなってしまうらしい。
化身の場合だと……化身ゴーレムが破壊されるまでは延々と特別空間待機となるので、実質的にキャラロスト一歩手前の状態と言えそうだ。
うん、やはり普段はやるべきではなさそうである。
「でもこうなってくると、他の装備の強化も期待できそうね」
「でチュねー」
「まあ、やるのは明日以降だけど」
「案外作業に時間がかかっているでチュからねぇ……」
では、次の強化に移るとしよう。